孝「変な奴だろ?うちの院長。」
「・・・・・あぁ。本当に変な奴だ。」
孝「お前、口開いてたもんな。言葉も戻ってるし。」
「・・・マジであれが院長なのか?ある意味お前らより衝撃的だったかも。」
孝「何だよそれ。」
ダメだ。
やはり肩書きとイメージが融合しない。
「あんなんで本当に論文とか書けるのかよ。」
孝「医学会ではかなり有名な名医だぞ。」
「そ、そうなのか?・・・見えん。」
孝「だろうな。」
なんだかんだ言って院長だもんな。
まだそんなに年でもなさそうだし、それで院長なんだからすげー奴なんだろう。
それでもやっぱり・・・
夜の院長に転職した方がいいと思う。
「ふぅ、何かどっと疲れた。」
院長のせいで変な脱力感に襲われる。
孝「飲み物取ってくる。まだ飲めるか?」
「もちろん。何でもいいよ。」
そういや喉乾いた。
ナイスタイミングだ俺様。
(あ、話しかけられた。)
飲み物を取りに行く奴をボーっと眺める。
すると明らかに孝より年上の男性2人から声をかけられた。
上司・・・というより『仲良くしてください』って雰囲気に見えるのは気のせいではないと思う。
(やっぱすげぇ奴なんだなあいつ・・・)
孝を知っている人間として悪い気はしないな。
言葉を返しているヤツの顔も『仕事用』だ。
あんな顔も出来んのかーなんて
見たことない一面を垣間見たようでなんだか面白い。
そういえば
一緒に住んでるのにあいつらのこと全然知らないよな。
まぁ、あいつらも私のことを知らないっていう面ではお互い様だけど・・・
累、純君は大学院生。
要と真樹に関しては何やってるかも知らない。
(あいつらが一緒に住んでる理由も知らねぇな。)
あんまり興味もねぇが今度思い出したら聞いてみよう。
ま、多分"何でだろうな"みたいな返事が返ってくるんだろうな。
基本、あいつらも深く考える奴らじゃないと思う。
だって同じ匂いを感じる。
『酔っちゃったの?』
「え?」
突然、上から声が降ってきた。
(-----?)
びっくりして上を見上げると目の前に一人の男子。
キョロキョロ周りを見回すが傍には誰もいない。
どうやら私に声をかけているらしい。
「・・・連れを待ってるんです。」
『そうなんだ。』
声の主はそう言うと
断りもなく隣へ座ってきた。
(なんで座るんだ?)
私と同じ年くらいだろう男子。
僅かにこちらへ体を向け、胡散臭い作り笑いを向けてくる。
一体何のつもりだ。
私に何か用か?
「え・・・・・と。」
『俺は工藤。』
「あ、私は---」
『有希さんでしょう?』
「え?・・・はい。」
なんで知ってるんですかね。
あぁ、孝様効果っすか。
すごいっすね。
『五十嵐君の婚約者って本当?』
「え?あ、はい、そうですけど。」
やはりヤツの影響らしい。
さすが孝様。
どの世界でも噂の中心ってか?
『本当だったんだ。びっくり。』
「そうですか?」
『そうだよ。』
「そっか。」
ふーん、と意味有り気な相槌を打つ男。
恐らく「なんでびっくりなの?」って聞いて欲しいんだろうけど聞かない。
こういう会話ってちょっと苦手だ。
『理由、聞かないの?』
「ええ。」
『強がりだね。』
「そうでもないです。」
こういうあからさまな駆け引きをしようとする奴ってほんと苦手だ。
こっちにお前の欲しい情報なんてないし
そっちの持ち札にも全然興味はない。
『嘘つき。』
「え?」
『五十嵐君の女癖に何回泣かされたの?』
「・・・は?」
(孝の女癖・・・?)
えーと、まぁ、工藤君だったっけ?
君が何者なのかは分からないが孝のお友達じゃないことは確かだ。
敵意がガンガン伝わってくる。
もしや孝のライバルか?
なるほどそれなら納得。
『五十嵐君モテるもんねぇ。羨ましい。』
「工藤さんもでしょう?人気ありそうですけど。」
『お世辞が上手だね。』
「いえ。」
お世辞言ってやったんだ。
さっさとあっちに行け。
たとえ偽恋人でもこんなくだらない会話は契約外だ。
『じゃぁ、俺が五十嵐君よりも先に出会ってたら惚れてくれた?』
「・・・・・え?」
(おいおい・・・)
膝の上に乗せていた手にスルッと工藤の手が重なった。
そして真剣そうな顔で見つめてくる。
『ねぇ。俺と付き合わない?あいつみたいに泣かせたりしないよ?』
「・・・・・・・。」
(こいつ・・・)
こんなドラマみたいな展開
本当にあるんすね。
ライバルを蹴落とす為に手段を選ばないとか
利益の為に平気で異性に近づくとか
でも私は
てめぇのような男は、嫌いだ。
『五十嵐君は外見はイイ男だけど-----』
そこまでしか耳に入らなかった。
---自分の欲のために他人を陥れる
ま、そういう方法もあるのかもな。
時には必要かもしれねぇ。
でもさ・・・
女を利用するなんて男として最低だと思わねぇの?
(不愉快だな・・・)
こんな奴に孝をけなされるのは我慢ならん。
俺様だし野獣だが、奴は卑怯な真似は絶対しない。
まぁとにかく
今ここにいるのが孝の本当の彼女じゃなくてマジで良かったな。
もし私が本当の彼女だったら---
(チッ、面倒臭ェ・・・)
とりあえず下を向いて気を静める。
孝との約束もあるからな。
今日のところは大人しくしておこうと思う。
そして工藤。
爆発する前にさっさと消えろ。
『-------あいつは最低な男だよ。』
「・・・・・・・・。」
(・・・・・・なんですと?)
あ-----プッチーン。
頭のどっか切れた。
切れちゃったよ。
「------。」
『・・・?』
工藤の手をほどき
ゆっくりと立ち上がった。
(知らないと思うけど・・・)
あんまり気が長い方じゃないんで。
『・・・有希さん?』
「・・・・・・・。」
不思議そうに見上げてくる工藤の視線を掴み
ガッツリ睨んでやる。