「どうしたの?」
孝「な、なんでもねぇ。」
「・・・・?」
疲れたんだろうか。
まぁ人ごみはあまり得意ではなさそうだ。
なんせ不健康そうな不機嫌そうな奴だし。
手を引かれるまま歩くと会場の端の休憩所に着いた。
孝「疲れてねぇか?」
「え?全然大丈夫だよ?」
あれ、これってもしかして気遣ってくれてんの?
だから休憩所に?
孝「・・・言葉が・・・変だ。」
「え?あぁこれ?さっき孝の同期と話したんだけど。さすがにいつも通りじゃまずいと思って。」
孝「・・・・・。」
「やっと慣れてきたし・・・ボロが出ないようにこのままでいるよ。」
孝「・・・・・・・・・・。」
眉を潜めて押し黙る孝。
どういう心境か知らないが変なモノを見るような目で見るな。
本来ならこれが普通だろうが。
孝「やっぱ-----変。」
「煩いな。帰ったら覚えてらっしゃい-----ん?」
孝「?」
とんだ失礼発言に孝を睨むと
その後に人影を発見。
孝「どうした?」
「い、いや・・・」
どうやらその人影は私達を目指してるようなのだが・・・
誰だ。
誰だ、この場違いなおっさんは。
一言で言うとワイルドダンディー。
ワイングラスを優雅に持ち、反対の手にはタバコ。
簡単に言うとホスト系。
一昔前流行ったちょい悪オヤジを彷彿とさせる。
若かりし頃はさぞかしもてはやされただろう。
今でもファンがいそうだ。
『こんばんはお嬢さん。もしかして、お嬢さんが孝の・・・?』
「え!?」
わぉ!
しっぶい声ー!
ていうかなんだ?
お嬢さんってのは私のことか?
孝「あぁ、お前か。」
孝が振り返り、おっさんの存在に気付いた。
その前に"お前"とか言っちゃっていいわけ?
明らかに年上の男性なんですけど。
『それで?この人が?』
孝「そうだ。」
『やっぱり!それはそれは初めまして!』
何が嬉しかったのか
ニコニコ笑顔のワイルドおっさん。
ついでに挨拶を頂いた。
「ど、どうも。初めまして。」
『こんな綺麗な女性に巡り合えて羨ましいよ。』
孝「そうだろ。」
「あ、あの・・・孝?」
とりあえず紹介してくれ。
だってこいつ、どう見ても医学関係者じゃねぇだろ?
間違えてパーティー会場に出勤してきちゃったんじゃないのか。
教えて差し上げろ。
あんたの店はここじゃありませんよーって。
孝「院長。こちらは有希。
有希。こいつはT大付属病院の院長だ。」
(な・・・・なんですと?)
院長?
こ、このパワフルダンディーが?
いやいや有り得えない。
私は騙されんぞ!
だってどう見ても病院の院長には見えねぇよ。
それ以前にお医者様にも見えねぇ。
それに--
『有希さんと呼んでもいいかな?』
「え!?あ、はい!いつも孝がお世話になっています!」
はっと我に返り、とりあえず言葉を返した。
『お世話になってるのは僕の方。孝君仕事出来すぎて頼りっぱなしでね。すごく助かってるんだ。』
「そ、そう言って頂けると嬉しいです。」
流れに乗って会話を交わす。
だが全く集中できない。
だって---
頭の中で医学とおっさんがどうしても融合してくれない。
『結婚式で有希さんを攫ったら怒るかい?』
孝「当たり前だろ。」
『あはは。綺麗な相手を見つけると大変だね。』
孝「・・・院長様。こんなところで油売ってていいのかよ。」
『ごめんごめん。それじゃぁ有希さん。また会いましょう。』
「は、はいっ!----え!」
孝「・・・・おい。」
なんと
ダンディー院長は私の手を取り
甲にキスを落として去っていった。
(・・・・・・・・。)
あんなのが院長で大丈夫なのか?
恐るべし、T大付属病院。