許せ!

許せ!—3 SAKURA∞SAKU first

『さぁ、出来ましたよ。』
「へ?」

 

おしゃべりと考え事をしていたらセットも化粧も済んだらしい。

ハッとして目の前の鏡を見る。

 

「おー。」

 

さすがプロ、凄いじゃないか。

立ち上がりでっかい鏡の前で自分の姿をまじまじと見る。

 

「すっげー。やっぱ私も女だもんな。こういうの好きだぁ。可愛くしてくれてサンキューっす。」
『いえいえ。』

 

今だけでいいんで久々の女子気分。
たまには舞い上がらせてくださいよ。

 

『アクセサリーはこれで・・・うん。とっても似合ってます。』
「あ、ども。」

 

シンプルだけど輝いてるネックレスとピアス
ついでにパーティーバッグも渡される。

気分はシンデレラってか?

純君が見たら

---本当に姫になっちゃったの!?

なんて突っ込みそうだな。
へへっ、写メ撮っとこう。

 

「携帯はーっと・・・」

 

こんな格好するのニ度と無いかもしれねぇし。

たまには住人どもに私も女ですってことを教えてやらねば。
最近どうも完全な男だと思われてる節もあるからな。

 

「あ。」

 

携帯持ってきてねぇ。

 

『そろそろ行きましょうか。五十嵐様が待ちくたびれて----』
「おい、まだか?」

 

---ガチャリ

お兄さんの言葉を遮るように
なんの前置きもなくドアが開いた。

犯人はもちろん

 

「ったくお前なぁ・・・さっき言ったばかりだろ?部屋に入るときはノックしろ。マジで学習しねぇ奴だな。」

孝「・・・・・・・。」

 

押し黙る俺様。

その調子だ。
ノックの大切さをもう一度じっくり考え直せ。

 

「そういえば孝も着替えたんだな。お前も似合ってるぞ。ま、私には負けるけど。」
孝「・・・・・・。」

 

モノトーンのタキシードに身を包む孝。

映画にでも出てきそうっていうか・・・
やっぱこいつ、なんでも似合うんだな。

身長高いしスタイルいいし。
性格に問題ありってのが非常に痛い。

 

孝「・・・・・・・・。」
「孝?」

 

ていうか・・・
なんで黙りっぱなしなわけ?

 

「お、おいどうしたんだよ。どっか痛むのか?」

 

じっとこっちを見たまま動かない孝。

一体どうしたってんだ。
ちょっと、いやかなり---怖いぞ。

 

(あ、まさか・・・)

 

 

「なんだ孝様。もしかして見惚れちゃってんのか?」

孝「-------------。」

 

 

なるほどそいうこと。

それならまぁ・・・

納得。

 

「そりゃぁ仕方ねぇ。お兄さんの協力でいつもの5倍は可愛くなっちゃったからなぁ。な?お前もそう思うだろ?」

 

 

 

 

 

孝「・・・馬子にも衣装だな。」

「・・・取り消せ。」

 

 

やっと出た言葉がそれかよ。
分かってたけどなんて失礼なヤツだ。

 

『ふふっ。やっぱり特別みたいですね。』
「はぁ?どの辺がですか?」
『見とれてらしたんでしょう?五十嵐様』
「あ、やっぱり?」
孝「時間がない。行くぞ。」

 

うわ、激しくスルーしやがった。
今のは苦しいぞお前。

 

「で、どこに行くんだよ。」
孝「車の中で話す。」
「おまっ・・・さっきは用意が済んだらって・・・・・!」

 

まだ振り回すつもりか!?

いい加減にしてくれよ。
ていうかこの格好で外には出られないって。

 

孝「次は絶対だ。」
「・・・・・・・・・絶対だな?約束しろよ?」
孝「あぁ。ほら、行くぞ。」

 

(・・・・・・・・え。)

 

 

それはそれは自然に

 

 

手を差し出された。

 

 

(い、いやいや・・・・・)

 

 

まっすぐ向けられる視線。

 

なんだこれ。

 

すっげー緊張するんだけど。

 

(エスコートなんて・・・似合わねぇこと・・・しやがって。)

 

こいつのこういう部分って無意識なんだろうか。

だとしたら脅威だ。
気をつけよう。

 

「ど、ども。」

 

とりあえず、有り難く失礼しますよ。

正直いって助かります。
高さのあるヒールで歩くのは自信がなかったからな。

手を引かれて出口へ向かう。

お兄さんを見るとさっきよりもニッコリしているような気がした。

 

「お兄さんありがとね。」
『またいらして下さい。』

 

終始笑顔だったお兄さん。

多分、またはないと思います。

 

 

「あ、ありがと。」

 

車に着くとドアまで開けてくれた。

うわぁ、らしくねぇことしやがって--
なんて失礼なことを考えてしまう。

 

(調子狂う・・・)

 

こんな風にされたら減らず口なんて出せねぇよな。
何度も言うが私も一応女の子なんで。

 

「そうだ、孝。ドレスっていくらだったんだよ。なんのつもりか知らねぇが着てきちゃったもんは仕方ねぇ。これは自分で買うから。」
孝「・・・お前はやっぱりバカだな。」
「・・・てめぇには言われたくねぇよ。」

 

孝「買ってやりたいから買ったんだ。黙って受け取っとけ。」

「へ・・・」

 

買って・・・やりたい?

 

私にか?

なんで?

 

孝「それと・・・・・」
「ん?」

 

 

 

 

 

孝「綺麗だ。」

 

 

 

 

 

え。

 

 

・・・・・え?

 

 

ど、どしたの孝君!!

 

 

(-----?----------!?)

 

か、軽くパニックに陥りそうなんですけど。

奴の頭の中では何が起こってるんだ?
メンテナンス中か?

 

 

(きき、綺麗だなんて・・・)

 

 

そ、そんな真面目に言う奴があるか!
めっちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇかよ!

 

 

「あ、ありがとう。」

 

 

とりあえず、お礼は言っておこう。

 

(・・・・・マ、マジで調子狂うなぁ。)

 

ま、まさか・・・

日ごろの恨みとかでドッキリの仕掛けだったらどうしよう。

恥ずかしすぎるんでそれだけは勘弁してもらいたい。