「じゃぁな楓。また来るからよろしくな。」
楓「うん、愛してるよ有希---!」
「私も愛してるぞ。翔太の次に。」
楓「もーバカ!」
「はははー。」
おバカな会話を最後にスタジオを後にする。
奴らは既に車に向かったらしい。
ヤバいヤバい置いて行かれた。
早歩きで通路を歩く。
それにしても、やはり大声を出すのは気持ちいいな。
これを機に日頃のストレスを思い切り追い出しておこうと思う。
『あ、あのっ!有希さん!』
「え?」
不意に名前を呼ばれて振り返る。
するとそこにはスラリとした長身の
そして思わず見とれたくなるくらい綺麗な女の子が立ってた。
初めて見る顔だ。
ダンスメンバーだろうか。
(うわ、すっげぇ美人。スタイルも抜群だし・・・私もこんな子になりたい。)
例に漏れず私も見とれてしまった。
同じ女子として憧れます。
「えと、なんでしょうか?」
『あ、あの・・・今日来てた遼さんの友達って有希さんも知り合いなんですよね?』
「そうですけど?」
返事を返すとぱっと明るくなる顔。
心なしか頬がちょっぴり紅い。
やめてやめて。
君のような美人さんがそんな顔したらやばいです。
くらくらします。
『あの、黒のパーカージャケットを着てた人なんですけど・・・』
「黒のパーカー?孝のことかな。」
『孝さんっていうんですか!』
「君が思ってる人と一致してるんなら・・・」
『髪が紺がかってる・・・』
「あぁ、やっぱり孝だ。」
『あのっ!』
「は、はいっ!?」
急に大声を出されてびびる。
どうした!
落ち着いて話してみろ!
『私っ!孝さんに一目惚れしちゃったんです!』
「へ!」
あ、あらら、一目惚れしちゃったんすか。
それはそれは・・・
青春ですなぁ。
『でも皆さんと一緒にいたから声かけられなくて!彼女がいないわけないと思うんですけど・・・・・これ、渡しててもらえませんか!?』
「え?」
『携帯番号とアドレスなんですけど・・・お願いします!』
「・・・・・・。」
さっきよりも更に紅く染まる頬。
これじゃまるで私が告白されてるみてぇじゃんか。
こっちまでドキドキする。
いやいやそうじゃなくて
「これ、渡せばいいんだな?オッケー了解。全然いい----」
紙を受け取ろうとして伸ばした手を
受け取る前に掴まれた。
「うわ・・・孝!?」
孝「・・・・・・・・遅い。」
なんと、犯人は今話題の孝。
全く、気配無く近づくなってんだ。
女の子も俯き加減で話してたからな。
恐らく気付かなかったんだろ。
『っ!あ、あのっ!』
本人の登場に弾ける女の子。
美人さんはどんな顔をしてても綺麗だな。
焦る顔にキュンとする。
『あの!これ、私の連絡先なんですけど!良かったら連絡もらえませんか!?』
孝「・・・・・・悪い。」
『彼女がいても構わないんです!』
孝「悪いけど。」
『------っ』
勇気を振り絞る彼女。
裏腹に受け取ろうとしない孝。
受け取るくらいいいじゃねぇか、とも思うがこればっかりはね。
他人が口をはさんでいい話じゃない。
いやいやそうじゃなくて!
(わ、私は一体どうすれば・・・)
美人さんと孝に挟まれてどうしたらいいか分からない状態です。
先に車に戻ってていいんでしょうか・・・
『孝さん!私------!』
孝「・・・五十嵐。」
『・・・・え?』
孝「五十嵐。呼ぶならそっちで呼んでくれ。」
『え?でも有希さんが・・・』
「へ?」
あれ・・・・・私ですか?
え、なんの話。
どういう状況?
「俺の名前を呼んでいい女は-----こいつだけだ。」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え。)
え。
え!?
「なななななに言ってんだお前は!!!」
びっくりして噛みまくった。
なんでここで私が出てくる!?
しかもなんだその発言は!意味分かんねぇ!
『二人って・・・付き合ってるんですか?』
「え!?違うよ!違うからね!付き合ってたら君のアドレス貰う前にちゃんと言うに決まってむむー!」
でっかい手で口を塞がれた。
おまけにご丁寧に後ろから羽交い絞めだ。
「むむっ!むむーーー!」
孝「・・・・・ごめんな。」
『・・・・・ぁ・・・』
離せともがいていると頭の上から声が降ってきた。
孝の顔は見えないけど・・・
目の前の美人さんの顔は悲しそうな顔になっていく。
なんか・・・
切ない・・・・・な・・・
美人さんはペコっと頭を下げて走って行ってしまった。
孝にその気がなかったんだ。
仕方ないけど・・・
こういうのってやるせない----
「-------っぅ!」
突然、背中に衝撃。
孝の手が口から離れたと思ったら---
気付いたら壁に押し付けられてた。
「なっ!何すんだ・・・よ・・・」
-----痛ぇじゃねぇか!
そう言って、一発殴ってやろうと思ったんだ。
でも、出来なかった。
なぜなら目の前の孝が
すっげぇ悲しそうな顔してたから・・・・
「こ、孝・・・?」
孝「・・・なんで受け取ろうとしてたんだよ。」
「え?」
孝「余計なことすんな。」
「・・・・・・。」
まぁ・・・確かに余計なことでしたけどね。
そんな風に言わなくてもいいんじゃねぇの。
てか、なに。
怒ってんの?
「悪い悪い、余計なお節介だったみたいだな。次からは気を付けるよ。」
孝「・・・・・・・。」
「・・・え?」
なぜか、孝の表情に影が落ちた。
(あ・・・・・)
これだ。
この顔。
最近、こいつはすこぶる機嫌が悪い。
そして会話の途中、必ずこの表情を浮かべる。
「お前・・・最近変だぞ。何かあったのか?」
孝「・・・・・・。」
「気に食わないことがあったなら謝るからよ。何かあるならちゃんと説明してくれよ。」
「・・・・・・・。」
「孝?」
気に食わないこと、か。
自分で言ってなんだが・・・
思い当たる節があり過ぎて怖い。
「・・・・いや・・・なんでもねぇ。悪かった。」
(え・・・・?)
なんでだろう。
グッと言葉を飲み込んだ孝。
そしてなぜか・・・
軽く抱きしめられた。
(ど、どうしちゃったんだよお前・・・)
どのくらいそうしてただろう。
ふと、どちらかの携帯がなったのをきっかけに孝が離れていった。
そしてお互い何も話すことなく
無言のまま車へ戻った。
なんでもねぇ、だと?
んなわけねぇだろうバカたれが。
口には出せなかったけど。
----------再・余興!(完)