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「・・・・・まぁ、そうだよな。」
つい数分前、ふと朝の気配を感じて目が覚めた。
目覚めのコンディションはまあまあ最悪。
とにかく頭が痛い
そしてなぜか疲労感たっぷりの身体
爽やかなはずの朝には申し訳ないが、遠慮なく舌打ちかましてやりたい気分だ。
「あー・・・しんどいわー・・」
だが困ったことに二度寝したい気分でもないわけで・・・
仕方なく重い瞼をギギギと持ち上げる。
そして霞む視界に飛び込んできたソレに
「・・・・・まぁ、そうだよな。」
無意識に漏れ出た小さな呟き。
本来なら悲鳴の一つや二つ飛び出してもおかしくない状況なんだけどな。
それなのになんて冷静な私・・・
人間こう何度も同じ経験してると、例えそれが非常事態であっても驚かなくなるらしい。
「・・・きっれーな顔・・」
目の前のソレに向かって独り言。
目の前のソレ・・・
つまり黙ってればハイグレードな色男・辰巳さんは切れ長の目をふわりと閉じてすやすやと眠っている。
寝ていると若返り効果があるのか、晋もそうだったがこいつの寝顔もヤケにあどけない。
ついつい頬を引っ張ってやりたくなる。
「・・・・・・。」
仕方ないので引っ張ってやった。
うっわなにこのツルツルお肌。
本当に同い年か?
前々から思ってたが絶対年齢ごまかして--
いやいや待て待て。
今はこいつのことなんかどうだっていい。
「・・・はぁ・・」
辰巳さんの頬を元に戻し
重ーいため息を一つ・・・
---昨日は、色々と散々だった。
忍が帰ってきてるのは知ってた。
司と一緒にいるのも知ってた。
何も知らない司が調子に乗って電話を掛けてくるのも予想してた。
でも実際に掛かって来たらすごく怖くて・・・
あいつが近くにいるような気がして震えが止まらなかった。
まぁでも、自分のその反応は想定内。
予想してたことだった。
だが
---少しだけ、抱きしめてくれないか
これはさすがに
予想外だった。
まぁ、昨日変態とあんなことになっちまったのが一番の予想外だったんだけれども・・・
とにかく、怖かったとはいえ
追い詰められてたとはいえ
まさか自分がこんな珍発言をかますなんて思ってもみなかった。
「はぁ・・・」
今なら思う。
なんて馬鹿なことをやっちまったんだと。
そして昨日の自分に吐き捨ててやりたい。
言う相手を間違ってんだろこの馬鹿!と。
だが、私は本物の馬鹿なのかもしれない。
抱きしめてくれてるのは辰巳さんなのに
こいつはくだらないゲームを楽しむためだけに私に触れる最低な男だってのに
その腕の力強さに
伝わってくる温かい体温に
酷く酷く安心してしまって・・・
包まれているような
守られているような
そんな気がして・・
その心地良さにまどろんで
不覚にもいつの間にか眠ってしまってて・・
で、今に至る。
(・・・・・・何やってんだ。)
ほんとに、何をやってんだ私は。
最近、私は変だ。
ある日突然現れた辰巳さんと晋に玲くん。
誰もが認めるハイレベルな外見
しかし残念ながら中身は落第組
そんなこいつらは
ゲームと称してホイホイ手を出して来る。
やめろと言っても
怖いと言っても
あの手この手を使って私を抑え込み、くだらないゲームに勝利するために快楽を強要してくる。
これだからイケメンってヤツは!と思った。
こんな大人がいるから日本がダメになるんだ!とも思った。
だが何度も言うが
最近の私は、変だ。
あいつらに触れられて怖かった。
忍を思い出して---凄く怖かった。
でもその時・・・
なぜかこいつらは、優しく抱きしめてくる。
もう大丈夫だと
安心していいんだと
ぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
意味が分からない。
だがもっと理解不能なのは
そんなあいつらに私は安心感を覚えて
更には
---少しだけ、抱きしめてくれないか
「ひぃぃ---っ!!」
思わず叫んだ。
だって---安心する?
挙句の果てには抱きしめて?
なんだそれ気持ち悪っ!!
「このっ!このこのこのこの!」
辰「ぅ・・・」
変態のツルツルほっぺをガンガン突く。
大変申し訳ないが許せ、八つ当たりだ。
香「全く、透ってほんと甘え下手なんだから・・・困った時には思い切り頼った方がいいよ!その方が相手も喜ぶんだから!」
ふと、前に香織に言われたことを思い出した。
ぽやんとしているようであいつは意外とお姉さんなのだ。
どういう状況でこれを言われたのかは忘れたが、この時は小一時間ほど説教された。
---困った時には思い切り頼った方がいいよ!
確かに私は人に頼るのが苦手だ。
長女だからだろうか、どうやって他人に甘えたらいいのかよく分からない。
だが最近では香織や直樹とか、大好きな友達にはちょっとずつ頼れるようになった。
大きな進歩だ。
いやいやちょっと待て。
今は進歩なんかどうだっていい。
昨日のアレは違うから。
別に変態を頼ろうと思ったわけじゃない。
そこにいたから仕方なく声をかけてやっただけだから!
「この!この!このっ!このっっ!」
辰「うぅ・・・」
そもそもなんでこいつらは私に優しくするんだ。
---甘いセリフとベッドテクニック
---それを駆使して女を堕とす
それがお前らのゲームだろ!?
(はっ---!)
まさか---これもゲームのオプションなのか?
優しく接して警戒心を解いて
心を開かせたところで一気に攻め込む・・
だとしたらなんて恐ろしい。
うっかり騙されるところだった!
でも--
(はぁ・・)
こいつらがどういうつもりで私に優しさを見せるのかなんて分からない。
もしかしたらゲームのオプションなのかもしれない。
だが理由はどうであれ
昨日は、助かった。
忍から電話がかかってきて怖かった。
怖くて怖くて気がおかしくなりそうだった。
でも辰巳さんの優しさのおかげで恐怖が薄れた。
この事実に変わりはない。
「・・・ありがと、な。」
ま、大人としての最低限のマナーだろ。
親切にされたらとりあえず礼を言うもんだ。
(・・・さて、行くか。)
ゴソゴソと身を捩る。
目も覚めたし礼も言ったしさっさと去ろうと思う。
変態が目を覚ましたら面倒だからな。
昨日のことを聞かれても困るし・・・
それに今日こそは早めにホテルを探して
辰「今の・・・何のお礼?」
え--
辰「ていうか・・・なんか、頬っぺた痛い。」
「・・・。」
ハッと視線を上げると、いつの間に目覚めたのかぼーっとこっちを見つめる色男。
とりあえず・・・
頬っぺたの件は、ごめん。
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