予感

予感 15 ~GAME





---ツカサ





響きからして-----男か?

いや待て。

そういや高校の頃クラスメイトにツカサちゃんって女の子がいたような・・



いやいや男だろうが女だろうがどうでもいい。



おのれツカサ・・・
俺の幸せタイムをぶち壊したお前は一体何者だ!






「透ちゃん、ツカサって誰?」

透「え・・」

「電話、ツカサからだけど。」

透「っ・・」

「?」





なぜかピクリと体を揺らす透ちゃん。

更にそのまま黙り込んでしまった。

ていうかなにその意味深な反応・・・
すっげぇ気になるんですけど。






「ねぇ、透ちゃ・・あ、切れた。」






ついに諦めたか、とうとう着信が切れた。






「なぁ、ツカサって誰?」

透「・・・・・。」

「ねぇ。」

透「---弟。」

「え?」

透「・・・私の、弟だ。」

「弟?」





へぇ、弟ねぇ。

ふーん----弟、弟・・






「え!弟!?ブラザー!?」

透「・・・他に何があるんだよ。」

「・・・透ちゃん、弟いたんだ。」

透「まぁ・・・」






なんだか意外。
てっきり一人っ子かと思い込んでた。

ふーん、ふーん・・・

弟くんってどんな子だろう。
透ちゃんに似てるのかな・・
地味に気になる。




いやいやその前に---!






「え、と・・・掛け直さなくていいの?」






まさか弟からの電話だとは思わなかったからな。

でっきり晋か玲あたりだと思ってた・・






透「・・・別にいい。大した用じゃないと思うから。」

「でもあんなに長いコールだったよ?」

透「・・・いい。」

「もしかして緊急連絡だったんじゃない?」

透「気にしなくていい。」

「でも--」





透「いいって言ってんだろ!」

「っ!」





透「---っ、ぁ・・・」

「・・・・・・。」

透「・・・わ、悪い‥」

「いや・・」







(ビックリ、した・・)







なぜか怒られて、謝られてしまった。



弟くんに電話するのがそんなに嫌なのか?

もしや喧嘩中?
それともものっすごく仲が悪いとか?







(でも・・・)







それにしては---
なんかおかしくないか?







「透ちゃん・・・?」







そっぽ向いたまま固く目を瞑って

胸の前で組まれた手をぎゅっと握りしめて・・








これじゃまるで








何かに怯えてるみたいじゃないか・・・








PIPIPIPIPI---

「!」

透「っ!」







握ったままだった携帯。

手の中にあるソレが、再び鳴りだした。







「・・・透ちゃん。また掛かってきたけど‥」

透「---っ」

「弟くん、やっぱり急用なんじゃ------あれ?」






ちらりとディスプレイを確認する。


---ツカサ


てっきりその名前が表示されてるとばかり思った。

だが、そこには--









「・・・シノブ?」









シノブ--

シノブって、あれ、確か・・









「っ!?」









突然、視界がガクンと揺れた。









「え----な、なに・・?」







勢いよく前に傾く自分の身体。

慌ててシーツに手を着いた。

危なく透ちゃんを押しつぶしてしまうところだった。






「ビ、ビックリした・・・なに・・・どうしたの?」






まるで初日の--

透ちゃんに初めて会った日の再現。

どうやら胸ぐらを思い切り引き寄せられたらしい。






「え、と---透ちゃん?」

透「------。」






一体---なんだ?


強引に引き寄せたくせに次のアクションがない。

透ちゃんは相変わらずぎゅっと目を閉じ、体を強張らせている。






「透ちゃんどうしたの?大丈夫?」

透「・・・・・・。」

「気分でも悪くなった?」

透「・・・・・・。」

「ねぇ、-------っ!」









思わず、息を呑んだ。










「透・・ちゃん・・・?」










後から思い返してみても










コレがきっかけだったんだと思う











透ちゃんに心を奪われていく・・











決定的なきっかけだったと思う










「・・・・・!」








固く閉じられていた透ちゃんの目が

小さく震えながら開かれていく。






そして俺を見上げてくるソレは






今にも壊れてしまいそうなほどに弱々しくて--








透「・・・・・・辰巳さん・・」

「っ--」

透「辰巳さん、ごめん・・」

「ぇ--」









透「少し・・・少しだけ・・・ ・・・抱きしめて、くれないか‥」




「・・・・・・、-----っ、!?」









まるで脳天に雷を落とされたような









そんな激震が、ドカンと体を貫いた。









(な、な・・・え・・?)







なに--

今、なんて---?








透「・・辰巳さ、・・・っ」

「---っ!」








捕まれた胸倉から激しい震えが伝わってくる。







そして遠慮がちに見上げてくる瞳には







みるみる涙が溢れてきて--








「透、ちゃ--」








掴まれたと思った。








心を、掴まれてしまったと思った。








透ちゃんの身に何が起こってるかなんて分からない。

なんで震えてるのか
なんで泣いてるのか

シノブとは一体何者なのか
なんでそんなに怯えるのか

そんなの俺に分かるわけがない。





でも・・・





抱きしめてなんて言う透ちゃんが殺人級に可愛くて

今にも零れてしまいそうな涙が直視できないほどに綺麗で









---コイツを、守ってやりたい









それはそれは純粋に、そう思ってしまった。









「透・・」

透「・・・、・・」

「透・・・泣くな・・」

透「っ--」

「傍に・・・・いるから----」

透「・・・っ・・」







涙を溜めた目にそっと口付けるとか
柔らかな髪を優しく撫でてやるとか

普段の自分ならもう少し気が利いたはずなのに







(折れそ・・・)







今の俺は全くダメだ。

震える背中を引き寄せて
華奢な腰に腕を回して







ただただ、その細い身体を抱きしめた。







透「・・・ごめ、・・っ」

「・・・大丈夫」

透「・・迷惑--か、けて---ゴメ、ん・・・」

「大丈夫だから‥」

透「・・・っ・・」








(あー、もう・・・)








一体どうなってるんだ今日の俺は。








透ちゃんに散々振り回されて

反撃だ!よしやっと追い詰めた!
と思ったらやっぱりまた振り回されて・・・


その上---透ちゃんを守ってやりたい?

なにそれ気持ち悪・・・








だが困ったことに

この不可思議な自分の感情・・・










悪い気は、しない---










(・・・はぁ‥)








これは、参った。








すごく、ものすごく------











嫌な予感がするんですけど・・・










---PIPIPIPIPI

透「---っ・・」

「・・・・・・。」






(---しつこいな‥)






気になることは多々あるが、とにかく今は目の前の現実だ。



相変わらず切れては鳴り、切れては鳴りを繰り返す透ちゃんの携帯。

掛け主は弟くんか、それともシノブなのかは分からないけど・・・

いい加減諦めたらどうだ?

透ちゃんが怖がってんでしょうが。







(シノブ、ねぇ・・・)







事あるごとに耳を掠めるこの名前。

そして男勝りで俺なんかより全然強者な透ちゃんを簡単に怯えさせる---




多分、男。




まぁシノブと透ちゃんがどういう関係なのか、何があったのかは分からないが・・・

彼女にとって都合の良い人間じゃないってことは確かだ。






(どう、するかな・・・)






どうするって・・・どうにもならないだろ。

元々他人に興味はない。

まして透ちゃんはゲームのターゲット。

彼女を落とすためにそこそこ歩み寄ることはあってもプライベートに踏み込むつもりなんて更々ない。

これまでもこれからもそのスタイルは変わらない。







そう、思ってたはずなんだけどねぇ‥







透「---っ、・・ぅ・・」

「・・・・・・。」







大人しく腕の中に納まる細い身体をぎゅっと抱きしめる。

すると応えるようにグリグリと俺の胸に顔を埋めてくる透ちゃん。







(くっそ----)








カワイイ・・








透ちゃん=ゲームのターゲット

そんなことは自分が一番良く分かってる。

ゲームが終われば透ちゃんとの縁も終了。
それも良く分かってるしそれでいいと思ってる。






でもまぁ・・・






守ってやりたいなんて思っちゃったことだし?

どのみち気になって放っておけそうにないし?







透「---っ、・・・っ・・・」

「・・・・・・。」








(仕方ねぇなぁ‥)








「シノブ」のこと、軽く探ってみるか・・








出来ればとっ捕まえて問い詰めて








そして・・・










PIPI、--

---PIPIPIPIPIPI






どれくらい時間が経っただろう。


未だ携帯は元気に鳴り続けてる。

ほんっとしつこいヤツだな・・・

いっそのこと電源切っちまうか?

でも仕事の電話があったら困るか‥








(・・・・・・・・。)








---ぽすっ








とりあえず応急処置。








音が聞こえないよう、枕で押しつぶしてやった。