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「ここはね、俺の部屋。」
透「は?」
「だから、俺が取ってる部屋。」
透「へ・・」
(さぁて・・・)
足を組み解きゆっくりと立ち上がる。
そして未だ窓に張り付く透ちゃんに近づき、隣に並んだ。
透「・・・なんで部屋なんか取ってんだよ。」
「なんでって・・・疲れてたし寝不足だったから。さっさと休みたくて。」
透「えー!なんだよそれ!だったら私のも取っててくれたら良かったのによー!」
「ごめんごめん。」
(うーん・・・)
透ちゃんとの距離、約30cm。
とりあえずドキドキ雰囲気作りから、と思って距離を詰めてみた。
だが近づいたくらいじゃドキドキはおろか警戒心すら抱いてもらえないらしい。
この役立たず!とでも言いたそうな不機嫌顔で睨まれただけだった。
「そんなに泊まりたいなら泊まってく?ここで一緒にお疲れ様会やろうよ。」
透「・・・ふざけんな。」
「ふざけてなんか---あ、ちょっと待って。」
透「え?」
「動かないでね、まつ毛落ちてる。」
透「まつ毛?」
近づいたことで舞い降りたラッキーハプニング。
こっちを見上げる透ちゃんの頬にちょこんと落ちたまつ毛を発見。
どこだ?と目元をこする手を取る。
そして低い位置にある彼女に顔を寄せ、頬に指を滑らせた。
(うわ、柔らかい・・・)
そういえばこんな無防備な透ちゃんに触るのは初めてな気がする。
だからかどうか分からないけど・・・
指先から伝わる肌の感触がヤケにリアル。
しかも早く取ってくれってことなのか顎をきゅっと上げる透ちゃん。
目は閉じてないけどこの態勢・・・
まるでキスをねだられてるようでなかなかいい。
「・・・もう大丈夫、取れたよ。」
なんだか貴重な体験だったのでじっくり時間をかけてまつ毛を払った。
(えっ・・・)
不意に、透ちゃんが視線を上げた。
パチっと至近距離で繋がったソレに軽くビックリする。
透ちゃんも驚いたんだろう。
はっと息を呑んで俺を見つめたままフリーズ。
しかもなんと、じわじわと頬を上気させて
更には恥ずかしそうに顔を逸らしてしまった・・
なーんて都合のいい奇跡が起こるはずもなく
透「どーも、ありがとさん。」
「・・・いえ。」
ドキドキ雰囲気はどこへやら。
代わりに色気のかけらもない簡素なお礼を頂きました。
(こりゃダメだ・・・)
無意識にため息が漏れる。
一応それなりに雰囲気作ったつもりなんだけど・・・
どうやらこのお姫様、ドキドキはおろか俺のことを全く意識してくれてない様子。
ていうか俺ってすっごくマヌケだよね。
ここまで綺麗にスルーされるともはや恥ずかしさしか残らない。
(はぁ・・・)
まぁ、もともと透ちゃんに遠回しな攻めが通用するとは思ってなかった。
だからこそ簡単に落ちない彼女とのゲームは愉しいんだけどさ。
でも、これじゃいつまでたっても空回り・・
いやいや弱気になるな。
今日だけ・・・
そう、今日だけでいい。
どうしても透ちゃんをドキドキバクバクさせてやりたい。
あの柔らかい頬を真っ赤に染め上げてやりたいのだ!
「・・・それにしても本当に綺麗だね。」
透「は?」
「夜景。」
透「え?あぁ、そうだな。」
でも、とりあえず一時休戦。
心身共にすんごく疲れたし・・・
どうでもいいが夜景の話題を振ってみる。
「・・こういうの好きなの?」
透「好きだぞ。人並みに。辰巳さんは?」
「まぁ、俺も人並みには。」
透「へぇ、そうなのか。あ、そういや晋と行ったレストランからの夜景も綺麗だったぞ。」
「・・・は?」
透「ほら、玲くんがデザインしたって店。でっかい水槽があるとこ。あんたも行ったことあるか?」
「・・・あるけど。」
透「じゃあ見たことあるだろ?あれは綺麗だよなぁ。」
ここの夜景もかなりの絶景だけどな、なんて言いながらパシャリと写メる透ちゃん。
ていうか晋と行ったレストランってなに。
つまりは晋とご飯食べに行ったってこと?
ふーん・・・
俺が誘っても断固拒否するくせに晋とは行ったんだ、へぇ、ふーん。
透「---もらったぁ!」
「っ!?」
突然響いたシャッター音。
そして---目の前が激しくフラッシュした。
「え、な、なに---?」
透「・・・ヤキモチか?」
「え・・・?」
透「実は行ったことないんだろ、玲くんのレストラン。」
「へ?」
透「ぷぷー!なーんて顔してんだよ!随分とふて腐れた顔しちゃってさー!」
「ふ、ふて・・・?」
な、なんだ、なんのこと?
透「ほら見ろ。ふて腐れてるだろ?」
「・・・・・・。」
透「ぷっ---!変な顔!」
「・・・・・・。」
げらげら笑いながらズイ、と携帯を突き付けられた。
画面の中の俺は・・・
うん、確かにふて腐れてる。
じゃなくて!
「ちょっと、消してよソレ。」
透「あーもー仕方ないなぁ。それじゃあ仲間外れにされた可哀想な辰巳さんのために、食事に誘ってやろっかな。」
「へ?」
透「玲くんのレストラン、香織と直樹と今度行く予定なんだけどさ。あんたも一緒に行かないか?」
「・・・・・・。」
どうする?とイタズラ顔で見上げてくる透ちゃん。
どうやらこの子、俺が晋と玲に仲間外れにされてると思ったらしい。
しかもふて腐れてるって?
何言ってんのバカバカしい。
「・・・・・・行く・・・ありがとう。」
まあでも・・・
勘違いされてるとはいえ透ちゃんに誘われたのは嬉しいので
言いたいことは多々あるがここは素直にお受けしようと思う。
透「ぷぷぷ!今日は随分素直なんだな!」
「俺はいつでも素直だけど。」
透「ふーん?」
「・・・なに。」
透「まあいいや。来週末にでも行こうって話してるからさ。楽しみにしとけよ?」
「うん、分かっ------!」
(え---)
一体、今日の透ちゃんはどうしちゃったんだろうか。
楽しみにしとけ、という言葉と共に
めったに向けられることのない真っ直ぐな笑顔。
そのキラキラした笑顔に
心臓が---今日一番の爆音を鳴らした。
透「辰巳さん?おい、どうした?」
「----っ」
(ちょ---ちょっと・・)
思わず口元を押さえてしまう。
だって、今のは反則だろ・・・
目の前で炸裂したソレはあまりにも可愛くて
呼吸を忘れてしまうほどに衝撃的で
(ヤ、ヤバい----)
顔が--
焼けるように、熱い・・
透「はいもらったぁ!」
「!?」
さっきの再現だ。
再び、目の前が激しくフラッシュした。
「・・・ちょっと、何やってんの。」
透「なに照れてんだよ辰巳さん!玲くんの店に行けるのがそんなに嬉しいのか?」
「そんなんじゃないよ。ていうか行ったことあるって言ってる--」
透「ぷぷー!真っ赤な顔して言われてもねぇ?」
「えっ!」
咄嗟に顔を押さえる。
勢いづいてパチン!と音が鳴った。
そしてまたしてもゲラゲラ笑いながら携帯を突き付けてくる透ちゃん。
そしてそこには--
「ちょっ---!それはさすがにダメ!さっさと消して!」
さっきのふて腐れ顔の比じゃない。
想像以上の醜態にガチで焦る。
透「はぁ?なに言ってんだ。こんなお宝画像消すわけないだろ。ちょ・・・邪魔すんな!」
「バカなこと言ってないで貸して!透ちゃんがやらないなら自分で消す!」
透「おーっと危ない危ない。」
「透ちゃん!」
透「いっつも澄ましてるあんたがねぇ。まさかこんなキュートな一面があったとは・・・これぞまさに決定的瞬間?」
「----っ!?」
な、なに・・・?
(今---なんて言った・・・・?)
透「ぷぷ!かーわいー。」
「------っ!」
浴びたことはない。
なのにまるで頭から氷水を浴びせられたかのように
全身が---パキッと凍り付いた。
透「香織にも見せてやろ。いや、売りつけてやろうか・・・」
硬直する俺に気付きもしない透ちゃん。
それどころかとんでもないことを呟きながらニヤニヤ携帯を眺めている。
そしてそんな浮かれる彼女を見て俺は--
「・・・・・・ふーーーん。」
ガチガチに凍り付いた頭の奥で
何かがガラガラと崩れていく音を聞いた。
透「え----あ、あれ・・?」
「・・・ソレ、友達に見せてどうするの?」
透「えっ、あ、あの・・」
「一緒に笑うの?」
透「え!いいいえいえまさか滅相もない!」
「じゃあどうするの?」
透「ひっ--!」
元々、挑発に乗りやすい性格ではないと思っている。
セクシーダイナマイツ美女に胸を寄せられても理性を保つ自信があるし(多分)
生意気な妹に「お兄ちゃんって意外とヘタレだよね。」なんて鼻で笑われた時も感情的になることはなかった。(事実)
なのに--
なのにこんな
こんなくだらないイタズラにまんまと乗せられてしまうなんて--
(ふ---ふふ・・)
もはや写メなんかどうだっていい。
携帯を奪って消してしまえば済むことだ。
だが・・・コレはもう、無理だ。
透ちゃんを苛めてやりたい。
苛めて苛めて泣かせて・・・
ごめんなさいと謝る彼女を更に苛め抜いてやりたい。
そんな体の奥から禍々しく湧き上がる激情を
押さえ込むことが出来ない。
透「ちょっ--待て待て落ち着け!消すから!すぐ消すから---ほらっ!」
真っ青な顔で後退する透ちゃんをじりじりと窓際へ追い詰める。
さすがにヤバいと思ったのかバシバシ携帯の画面を叩きだした。
そしてほら!と突き付けられた画面には削除完了の文字。
はい、どうもお疲れ様でした。
透「えっ----!」
突き付けられた携帯ごと透ちゃんの手を掴む。
そしてもう片方の手を華奢な腰に回し、グッと自分に引き寄せた。
透「なな、なにすんだ!」
正にさっきの悪戯顔から一変。
目を泳がせ必死に胸を押し返そうとする透ちゃん。
(へぇ・・・)
焦りに焦った余裕のないその様子・・・
実に愉快だ。
(初めからこうしてれば良かった・・・)
あたふたする透ちゃんにモヤモヤした心がスッと晴れていく。
赤い顔でドキバクしてる顔も見たかったけどこれはこれで全然オッケー。
むしろこっちの方がいいかもしれない。
透「あ、あれあれー!もうこんな時間!??そそ、そろそろ行くわ!水嶋もいい加減帰ったと思うし!」
「・・・・・・。」
透「そ、そういうわけなんで!かくまってくれてありがとな!じゃっ!」
「逃がすと思ってるの?」
透「ぁっ!」
強行突破でもかますつもりなのか、チラチラと入口の位置を確認する透ちゃん。
だが無駄な抵抗だ。
細い顎を強引に持ち上げ、真正面から睨みつけてやった。
「・・・散々煽ったのは透ちゃんだろ?」
透「あ、煽った---!?」
「ちゃんと責任取ってよね。」
透「い、意味が分からん!ていうか離れろ!何考えてんだバカ!」
「・・・・・。」
ふぐぬぬ!と奇声を上げて暴れ出す透ちゃん。
毎度のことだけど学習しない子だな。
力じゃ勝てないって分からないの?
(バカはお前だろ・・・)
透ちゃんと違って俺は常に学習してる。
だからもちろん分かっている。
暴れる透ちゃんを大人しくさせる方法なんて・・・
とうの昔に修得済み。
透「ぅ----んっ・・!?」
逃げようとする体を強く抱き寄せる。
そして何か言いたげに開かれた唇に
躊躇なく自分のを重ねた。
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