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透「う、わぁ・・・すっげぇー!」
初めての夜は確か・・・
そうだ、薬に朦朧とする彼女を抱えて家に連れて帰った。
二度目の夜は下着ちゃんを人質に半ば強引に彼女を家に呼びこんだ。
そして三度目の今日・・・
「透ちゃん、荷物ここに置いとくからね?」
透「キラっキラだぁ・・・」
「・・・・・・。」
三度目の今日、そして三度目にして初めて
暴れる彼女を担ぐでもなく
グチグチと文句を垂れる彼女をなだめることもなく
正に何の障害もなく透ちゃんを部屋に連れ込むことに成功。
それもこれも・・・
(水嶋・・・ナイス!)
さっき分かったことだが、どうやらお手洗いの傍で透ちゃんを苛めてた犯人は水嶋だったらしい。
そして恐らく透ちゃんを探していたんだろうあいつ。
まだ何か言うつもりだったのか、それとも数々の失礼に謝罪したかったのかは知らないけど・・・
とにかく、さっきのは正にジャストタイミング。
透ちゃんを苛めたのは許さないけど、今度会ったらコーヒーでも奢ってやろうと思う。
それにしても・・・
ここに来るまで疲れただの眠いだのぼやいてたくせに
部屋に入ったとたん「うぉ!」と謎の奇声をあげた透ちゃん。
そして宝でも見つけた子供の様に颯爽と窓際へと走っていってしまった。
透「綺麗なもんだなぁ。」
そして現在、彼女は壁一面に広がるでっかい窓に張り付き外を眺めている。
どうやら夜景が気に入ったらしい。
ていうかそういうの好きだったんだね。なんか意外。
透「私の家ってどの辺だろ。見えるかな。見えないよな。」
そんなに気に入ったのか、俺の存在を忘れてブツブツ独り言。
随分楽しそうにはしゃいじゃって・・・
男と部屋に二人っきりだって状況、ちゃんと分かってる?
まぁどちらにしても
(はしゃいでられるのも今のうちだけだよ・・)
清潔感溢れるソファーに腰を下ろし、遠慮なく透ちゃんを眺める。
すぐ後に置かれたダブルベッドにも気付かず呑気に窓に張り付く彼女。
その無防備な背中に・・・
思わず口角が上がってしまう。
数十分前。
つまり陰口大会遭遇事件の後。
なぜか狂ってしまった心臓を宥めるのは本当に大変だった。
木「ちょ・・・どうしたんですか辰巳さん!顔真っ赤ですよ!?」
透「な?な?おかしいだろ?絶対熱あるって。薬買ってこようか?」
「え!い、いや大丈夫・・・気にしないで。」
(お、落ち着け----!)
透ちゃんと目が合えばドカンと心臓が跳ね上がる。
それに比例して顔までボンと熱くなる。
しかもいつになく透ちゃんが優しくしてくれるもんだから・・・
それに反応してますます心臓が暴走する始末。
(はぁ・・・)
正直言って、ものすごく戸惑った。
だって・・・
なんで俺はこんなにドキドキしてるんだ?
そもそもの原因は恐らく透ちゃんが言ったコレ。
---仕事に対する姿勢は素晴らしいと思います
---一緒に仕事しててそう思いました
でもこんな評価、よく考えれば定型文だろ?
俺だって似たような言葉は良く使う。
まぁでも・・・
あの状況で流されることなく、合わせることなくそう言ってくれたのは嬉しかったよ。
なんとなく透ちゃんと心の距離が縮まったような気がして・・・
はいはい認めますよ。
不覚にも彼女に対してちょっとした親近感を抱いてしまいましたよ。
でもなんで?
なんでこのことで俺はドキドキしなきゃいけないわけ?
分からない・・・
リアルに意味が分からない。
「・・・・・・チッ・・」
堪らず舌打ち。
正直言っていい気分ではない。
掴みどころのない何かに振り回されて
おまけになぜか負けた気がしてイライラする。
「・・・・・・チッ!」
でもこのイライラには一つ
目を逸らせない明確な原因がある。
それはね・・・
ドキドキしてるのが、自分だけだからだ。
そんなことないよって?
透ちゃんだって少しは俺にドキドキしてるよって?
同情ありがとう。
でもよく考えてみて。
水嶋と話してた透ちゃんは確かに俺の仕事っぷりに対して褒めてくれた。
でも果たしてその時の透ちゃんはドキドキしていただろうか。
少しでも顔を赤く染めてくれていただろうか。
答えは---ノーだ。
心臓も表情も至って通常運転だったに違いない。
いやいやそれ以前に、出会ってこのかた透ちゃんは俺に対してドキドキしたことがあるんだろうか?
答えは---確実にノーだ!
(くっそ・・・)
我ながら説得力のある推理に余計にイライラが募る。
そもそも透ちゃん=ゲームのターゲット。
つまりドキドキしなきゃいけないのは透ちゃんのはずだろ?
そしてそれを翻弄して愉しむのがゲームだろ?
なのになにこれ。
なんで俺がドキドキさせられてるわけ。
(あれ、まさか・・・)
もしかして俺・・・
透ちゃんに惚れちゃった?
いやいやそれはないね。
親近感を抱いてしまったのは認めるが惚れるなんて有り得ない。
じゃあなんでだ。
もしや仕事で疲れてるからか?
疲れのせいで精神的に不安定になってるとか?
なるほど・・・それなら納得がいく。
じゃなきゃこんなにドキドキするなんて考えられな
透「なにボーっとしてんですか。やっぱ熱があるんじゃ・・・」
「うわぁっ!」
透「・・・は?」
「い、いやごめん・・・なんでもない。」
透「?」
突然顔を覗き込まれてリアルに飛び上がる。
ついでに心配そうに見上げてくるその表情に再び心臓が大きく反応。
重症だ・・・
どうやら俺は本当に疲れているらしい。
(・・・・・チッ・・!)
とにかく
このドキドキハプニングは、俺の闘争心に火をつけた。
透ちゃんとのゲームはのんびり楽しみたい。
楽しい時間は出来るだけ長く味わっていたい。
そう思ってた。
でも
---やられたらやり返す
そんな理不尽とも言える感情がふつふつと沸いてきて
俺と同じように・・
いや、俺以上にドキドキバクバクさせてやる!
なんて意味不明な使命感に燃え上ってしまった。
透「あー、マジで綺麗な景色だな。癒されるわー。」
「・・・・・・。」
透「ていうか・・・この部屋って何なんだ?」
「------!」
(えっ・・)
ようやく夜景に満足したのか、窓から額を離しこっちを振り返る透ちゃん。
ていうかなにその顔。
俺を見る透ちゃんはまるで少女のように目をキラキラさせていて・・・
初めて向けられる純真な笑顔に、再び心臓がドカンと跳ねた。
じゃなくて!
(さてさて・・・)
この獲物、どうやって追い詰めてやろうか・・
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