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辰「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
辰「・・・透ちゃん。」
「・・・なんですか。」
辰「もしかして・・・俺と二人きりになりたかったの?」
-----。
「ふざけんな。」
辰「・・・だよねー」
嫌な予感、的中。
さっきの部長たちの珍行動と珍言動・・・
恐らく変態と同様、あいつらも勘違いしてくれたに違いない。
なんてめでたい奴らだ。
(チッ・・・)
なんかすっげー損した気分。
せっかく親切で助けてやったってのになんだこの敗北感は。
辰「でもまぁ・・・助けてくれてありがとう。本当に本っ当に助かった。」
「別に・・・困ったときはお互い様ですから。」
本当にをとっても強調する辰巳さん。
どうやらリアルに感謝してるらしい。
ま、この借りはちゃんと返せよ。
「それじゃ、私は帰ります。」
なにはともあれ、全ての難は去った。
今度こそ・・・今度こそ帰れる!
辰「え、帰るの?せっかく邪魔者がいなくなったのに。それに俺とのデートの約束は?」
「・・・・・・。」
(この男は・・・)
さっきまで泣きそうな顔してたくせに一変、悪そうな笑顔を浮かべ腕を掴んでくる変態。
貴様・・・つい数分前に助けてやった恩を忘れたか?
「・・・悪いけど、今日はあんたの軽口に付き合ってる時間も元気もない。マジで眠いんだよふぁぁ・・・」
辰「そんなこと言わずに少し付き合ってよ。展望ラウンジにでも行かない?」
「行かない。」
辰「あれ、どこ行くの?」
「フロントです。荷物預けてるんで。」
辰「荷物?」
「どうぞ気にせず先に帰ってください。お疲れ様でした。」
辰「なんで荷物?」
手を振り払いフロントに向かう。
すると首を傾げながら並んで歩き出す変態。
ていうか着いてくんな。
さっさと帰れ。
『え、えと・・・777番ですね。こちらでお間違いないですか?』
「はい。」
『あ、ありがとうございました。気を付けてお帰り下さいませ。』
「どうも。」
辰「・・・なにその大荷物。」
「なんだっていいだろ。」
預けていたのは真黒な特大キャリーバッグ。
何がそんなに詰まってるのかって?
そりゃまぁ---アレだ。
約一週間分のあれこれがぎっしり詰まっている。
「さぁて・・・」
ガチャッと取っ手を伸ばして準備完了。
時間は22時半。
大分遅くなったな・・・
さっさとホテル探さないと野宿する羽目になってしまう。
「あ、そうだ。つかぬ事をお聞きしますけど、この近で安いホテルとか知りません?」
辰「ホテル?」
「はい、格安ホテル。寝れればいいんで宿泊料は激安を希望します。」
辰「・・・なんでホテルなんか探すの。」
「なんでって・・・今日はホテルに泊まりたい気分なんで。」
辰「なにそれ。ていうか今日だけの荷物じゃないだろそれ。一週間分はあるんじゃないの。」
「えっ。」
鋭い。
じゃなくて
「知らないならいいです。タクシーの運転手さんにでも聞くんで。」
辰「え---」
「お疲れ様でした、それじゃ。」
辰「ちょ--待ってよ透ちゃん!」
「これ以上待てるかバカヤロー。こちとら眠くて堪らないんだよ。」
まとわりつく変態をシッシと追いやる。
何度も言うが今日はお前と遊んでる時間はない。
そんなに遊びたいならお前に見とれてるそこのフロント嬢とでも遊んでこい。
(さて玄関は・・・あっちか。)
うわ、まだあんなに人がいる。
タクシー乗れんのかこれ--
「はっ---!」
いざ、玄関に向かって1、2、3三歩。
そこで思わず・・・足が止まった。
なぜなら--
(------水嶋!)
前方、正面玄関の少し右辺り。
あの長身は、あの短い黒髪は・・・
間違いない、S社の勘違いキング・水嶋だ。
辰「・・・透ちゃん、なにやってんの。」
思わず隠れた。
たまたま傍にあったでかい観葉植物の影に身を隠した。
(何やってんだあいつ・・・)
葉っぱの隙間からチラリと覗くと・・・
上司でも探してるんだろうかまるで不審者のごとくキョロキョロと辺りを見回している水嶋。
ちなみになんで隠れるのかって?
そりゃお前---思わずっていうか勢いっていうか・・・
見つかって困るわけじゃないけどなんとなく今は会いたくないだろ?
無視して素通りするわけにもいかないし「さっきはどうも」なんて呼び止められても面倒だ。
ていうか
「なんなんだよもー・・・!」
思わず頭を抱える。
営業課女子から解放されたかと思えば次は水嶋?
一体どうなってんだ今日の私の運勢は!
辰「ねぇ・・・さっきからなにやってんの?」
「え!」
あ、ヤバい。
辰巳さんのことすっかり忘れてた。
「い、いや別に・・・」
辰「もしかして透ちゃん・・・水嶋から逃げてる?」
え!?
辰「水嶋のヤツ誰か探してるっぽいけど・・・透ちゃんのこと探してるんじゃない?」
「えっ!そそそんなまさか!」
辰「なに焦ってるの?あいつと何かあった?」
「そ、そういうわけじゃ---!」
何が面白いのか、急にニヤニヤし出した変態。
ていうかこっち見んな。
あいつに気付かれちゃうだろうが!
辰「俺に言えないこと?」
「い、いや!別に何もないです!」
辰「じゃあなんで隠れるの。」
「そ、それは--」
辰「教えてよ透ちゃん。」
「え!いや、だから---おいコラ近い!」
辰「ねぇ‥」
「し、仕事のことでちょっと話しただけです!」
辰「え・・・」
じりじりと迫ってくる変態に寒気を感じてうっかり白状。
ちなみに社会人としての常識も少々レクチャーしてやったな。
辰「あいつと話したの?いつ?」
「こ、交流時間の時ですよ!ていうかいい加減離れろ!近いって!」
辰「・・・なるほどねぇ。」
「は?」
アレはあいつだったのか、なんて言いながら水嶋を見る辰巳さん。
意味が分からない。
「とと、とにかくなんでもないんで!辰巳さんもさっさと帰ってくださいよ!」
辰「・・・・・。」
「さっさと行け!あんたがそこにいると無駄に目立つ--」
辰「・・・助けてあげようか?」
「は?」
な、なに?
辰「困ってるんだろ?」
「え---」
辰「透ちゃんがどうしてもって言うなら助けてあげてもいいよ。」
「・・・・・・。」
ポケットに手を突っ込み、ゆっくりと顔を寄せてくる変態。
そしてすぐ目の前でにっこりと口角を上げた。
(・・・・・・。)
なんて真黒な笑顔なんだろう。
この笑顔に親切心が含まれてるとは到底思えない。
しかも助けてあげてもいいだと?
ふざけやがってなんだその上からの言い様は。
大体、水嶋もあと数分、長くても数十分もすればどっか行くだろ。
誰がお前の手なんか借りるかっての。
「よし、さっさと助けろ。」
なんと、口が勝手に動いてた。
まぁ・・・不本意ではあるが仕方あるまい。
今は一分一秒も無駄にしたくない。
辰「・・・今日はずいぶん素直だね。」
「うるさいな・・・困った時はお互い様だろ?さっきの借り、がっつり利子付けて返せよ。」
辰「・・・了解。」
どんな奴にでも恩は売っとくもんだな。
自分の日頃の行いに感謝だ。
「で、どうやって外に出るんだ?」
辰「そうだなぁ・・・」
「裏口の場所でも知ってるのか?」
辰「ま、俺に任せといて。」
「分かった・・・って、なんだこれ。」
辰「ほら、行こう?」
「・・・・・。」
目の前に差し出された大きな手。
これは・・・手を取れってことなんだろうか。
(・・・・・・。)
会社の人間がウロウロしてるってのに何考えてんだお前。
変な奴だとは思ってたが今日は特に変だな・・・
それとも周りが見えなくなるほど疲労困憊してんのか?
「・・・はい。」
辰「・・・・・。」
ま、人がいなくても手なんか絶対繋がないけどな。
早く早くと急かすソレに
キャリーバッグを持たせてやった。
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