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「進藤さん!お疲れ様です!」
「え?あ、お疲れ様です。」
「あの私っ、K社の製造部に所属してます!進藤さんと一緒にお仕事させていただけて本当に嬉しいです!」
「あっ、ずるーい!私も嬉しいです進藤さん!精一杯頑張るので宜しくお願いします!!」
「出来ることがあれば何でもやりますっ!いつでも声かけてください!」
「あ、ありがとうございます。お互い頑張りましょう。」
「「はいっ!!頑張りますっ!!」」
これでいったい何組目だろうか・・・
交流時間に入ってから
K社の女性が波のように押し寄せてくる。
「進藤さん初めまして!」
「は、初めまして。」
「私達、K社の営業部所属です!これから宜しくお願いします!」
「宜しくお願いしますっ!!」
「よ、宜しくお願いします。」
「きゃー!進藤さんと喋っちゃったー!!」
「きゃー!」
「・・・・・・。」
しかも全員激しくパワフル。
これはK社の社風なんだろうか・・・
「・・・・・・ふぅ。」
そんな彼女らの背中を見送って
無意識に重ーいため息をひとつ。
(つ、疲れた・・・)
長かった親睦会もとうとう終盤を迎える。
たった数時間だったが長かった。
そして今日までの道のりもとんでもなく長かった。
(・・・ってぇ・・)
首を回すとバキバキ
肩を回すとボキボキ
言っとくけど年のせいじゃないからね。
連日のハードワークで心身共に疲れ切ってるからだからね。
木「辰巳さんお疲れ様です。」
「え!あ、あぁ木戸か・・・お、お疲れ。」
木「ずいぶんお疲れですね・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫・・・気にするな。」
木「?」
びっくりした。
再びK社のパワフル女子かと・・
「ていうか・・うわぁ・・・お前もだいぶヤバそうだな。隈できてる。」
木「え、本当ですか?まぁでも・・・かなり限界です。会う人会う人、顔が枕に見えます。」
「・・・重症だな。」
木「ふ・・・ふふふ・・」
「・・・・・・。」
不気味に笑い出す木戸。
どうやら枕が恋しくて堪らないらしい。
だが分かる、分かるぞその気持ち。
親睦会も残すは軽い挨拶とお偉いさんからの一本締めの二つのみ。
なんだけど・・・
出来ることならすぐにでも睡眠の世界へ旅立ってしまいたい。
(やっぱり正解だったな・・・)
ふと、ポケットに手を入れると金属の感触。
まぁ---鍵だな。
今日は家に帰る時間すら無駄にしたくない。
会が終わったらすぐに風呂に入って
そして睡魔に流されるままベットでゴロゴロ惰眠を貪って・・
というわけで
今日の為に前もってここのホテルの部屋を押さえておいたってわけ。
もちろん透ちゃんも一緒(の予定)。
仕事頑張ったご褒美に今夜は彼女の柔肌に心も体もたーっぷり癒してもらっちゃう(予定)。
ふふ、あー楽しみ--
木「ところで辰巳さん、ちょっといいですか?」
「えっ!」
おっといけない・・・
思考がぶっ飛んでた。
「なに?どうした?」
木「そろそろ最後の挨拶に入りたいと思うんですけど、その・・」
「?」
木「・・・さっきから日下さんが見当たらないんです。」
「え。」
現在、親睦会も終盤。
今に至るまでなんのトラブルもなく順調に進められてきた。
が
ここにきて問題発生。
なんと透ちゃんが失踪したらしい。
木「一通り会場内は探したんですけど・・・やっぱり見当たらなくて。」
「・・・マジ?」
幸いなことに本日の透ちゃんの出番は全て終了してる。
けど・・・
さすがにお開きの場に透ちゃんがいないのはまずい。
なんといっても彼女はこの企画の発案者。
つまり、主役なのだから。
「分かった、探してくる。お前は先を進めてて。」
木「はい、宜しくお願いします。日下さんが戻ったらすぐ挨拶に入れるようにセットしておきます。」
「あぁ、宜しく。」
すまなそうに頭を下げ持ち場へ戻って行く木戸。
その疲れ切った背中を叩いてやりたくなるのは仕方ないと思う。
ちなみに木戸は二年後輩。
そして立場は俺のペア。
初めは教育という名目で組まされた。
だが気付けばペアになって5年。
初めこそちょっと手が掛かったけど、元々要領のいいヤツだったらしく時間と共にメキメキ才覚を発揮。
もはや十分一人でやっていけるし、独り立ちして後輩を教育しろと言ってるんだが・・・
「何言ってるんですか!俺なんてまだまだです!これからも厳しく指導宜しくお願いします!ビシバシ抉るようにしごいて下さい!」
「えぇ・・・」
抉るようにってお前・・・
もしや酷く扱われるのが好きなのか
なにかとドM発言を投げては俺の元を離れようとしない。
まぁ仕事はできるし世話焼きだし
もちろん人間としてもいいヤツだから一緒にいて悪い気はしないんだけどね。
ま、木戸のことなんてどうでもいいか。
(さぁて・・・)
俺のカワイイお姫様はどこへ消えたんでしょうか。
(あ・・)
「松田さん。お疲れ様です。」
部「おぉ進藤くん!お疲れ様!」
上「うわわわ!ししっ進藤さん!」
下「おおお疲れ様ですっ!!」
「え、えっと・・・?お、お疲れ様です。」
ひとまずもう一度会場を探そうとウロウロしていたところ
会場の隅っこで透ちゃんの上司、松田さんに遭遇。
一緒にいる元気コンビは・・・
うーん、誰だろう。
「あの、日下さんは一緒じゃないんですか?」
部「日下ですか?あれ、さっきまでここにいなかったか?」
上「いましたよね?」
下「・・・あ!そういえばお手洗いがどうだとか言ってたような・・・」
「お手洗い?」
なるほど。
そりゃ会場にいないわけだ。
「ありがとうございます。行ってみます。」
下「いい--いえいえそんな!お礼なんて!きゃー!」
上「はぁ・・・やっぱカッコいい・・・」
部「上田も進藤くんみたいな男になれよ!」
上「はい!頑張ります!」
下「私も応援するよ!」
「・・・・・・。」
意味不明に盛り上がりを見せる三人。
なんだか面倒だったので・・・
放置して会場を出た。
(お手洗いは・・・あっちか。)
騒がしい会場から一転、通路はやけに静かだ。
穏やかに流れるクラシックが眠気を誘う。
「もしかして透ちゃん・・・トイレで眠ってたりして・・・」
木戸と同様、透ちゃんも相当疲れてるだろうからね。
ここ一週間はほぼ残業だったし
家でも夜更かしして資料作ってたみたいだし
その熱心っぷりにはちょっとびっくりだった。
ま・・・
俺に対しては相変わらずなんだけれども。
つい先日も・・
「透ちゃん、親睦会が終わったら二人でお疲れ様会やろうね?」
透「お疲れ様会?え、嫌だ面倒くさい。木戸さんと二人でやってくださいよ。」
「えー」
木「・・・・・。」
もー、ほんとつれないよね透ちゃん。
どうしたら俺に構ってくれるんだろ。
出合って結構経つけど未だ透ちゃんの攻略法が分からない。
(・・・・・・・。)
そういや透ちゃんといえば
最近、晋と玲の様子が
本格的に、変だ。
もちろんこの前Blue Hawaiiで集まった時も変だった。
透ちゃんは俺のモンだとか手を出すなとか意味不明なことで喧嘩してたし・・・
だが近頃ではあの時の比じゃない。
ものすごく変だ。
例①~残業中~
「あれ、電話鳴ってるよ透ちゃん。」
透「え?あぁ、えーと・・・ ・・・・・・ちょっと失礼します。」
木「?」
透「・・・もしもし。え?あぁ、仕事中。残業だけど---は?飯ぐらい一人で食べろよ。だから---あー、分かった分かった、また今度な。」
プツッと通話を切り「寂しがり屋か!」と吐き捨てる透ちゃん。
多分、いや絶対、相手は晋だと思う。
例②~残業中~
「あれ、電話鳴ってるよ透ちゃん。」
透「え?あぁ、えーと・・・ ・・・・・・ちょっと失礼します。」
木「?」
透「・・・もしもし。え?あぁ、仕事中。残業だけど---は?きなこが私に会いたがってる?うそ、マジかよ・・・あーでも今日はダメなんだよー。きなこー、ごめんなー??」
しぶしぶ電話を切り「くそぅ、カワイイ奴めっ!」と吐き捨てる透ちゃん。
多分、いや絶対、相手は玲(の猫)だと思う。
(・・・・・・。)
奪われちゃったんだろうか
透ちゃんに、心を・・・
そう思ってしまうのは仕方ないと思う。
だってこんなの見たことがない。
一人の女にこだわるあいつらなんて・・
≪ 透ちゃん=ゲームのターゲット ≫
やはりというか当然というか
今までと同様、俺の中のその感情には変わりはない。
そりゃ透ちゃんのことは結構好きだよ。
カワイイしツンデレだし媚びたりしないし
個人的になかなか好みだったりする。
でも・・
だからと言って特別な存在になるとは思えない。
心を開いてほしいと思えるような
逆に自分の心を開いてもいいと思えるような
そんな大切な存在になるとも思えない。
今まで遊んできた女と同じ
適当に楽しめればそれでいい。
それは多分、いや確実に
晋と玲も初めはそう思ってたはずだ。
なのに
なんで----?
(・・・・・・・・。)
ま、そんなことはどうだっていいか。
たとえあいつらが本気で透ちゃんに惚れたとしてもそうじゃないにしても
俺にはまったく関係のないことだ。
俺としてはゲームを楽しめればそれでいい。
「・・・君もそう思うだろ?」
なーんか視線を感じると思ったら・・・
チラリと目を向けると壁に掛けられた絵画。
そこに描かれた愛らしい黒猫がこっちを見てる。
(・・・・・・。)
ていうか今、絵に話しかけたよな・・
大丈夫か俺。
そんなに疲れてるのか?
まぁ確かにフラフラだけど絵に話しかけるのはちょっと
「進藤には失望したよ。」
(・・・へ?)
突然、耳に入り込んできた声。
ボーっとしてた思考が一気に現実に引き戻された。
ついでに足も止まった。
(・・・・・?)
目の前にはお手洗いへと繋がる曲がり角。
どうやらそこを曲がった影から声が聞こえたようだ。
いやいやそんなことより
進藤には失望した?
進藤=つまり、俺?
(え、と・・・・・)
これって・・
これってもしかして
まさかの陰口大会に遭遇しちゃった感じ?
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