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「え、えーとあの・・・」
「・・・・・・。」
「・・・大丈夫ですか?もしや具合でも悪く--」
「進藤には失望したよ。」
「は」
は・・
は?
柔らかなクラシックが流れる薄暗い廊下。
そんな穏やかな空間に、凍り付くような冷たい声が響いた。
ていうか----え?
なんだって?
「あ、あの・・・」
「女癖の悪いやつだとは思ってたが・・・仕事ではそれなりに認めてた。」
「・・・へ?」
「でもまさか・・・仕事に女を連れ込むとは思ってなかったよ。」
(・・・・・。)
一応周りを見回してみる。
うん、誰もいない。
ってことは・・・
やっぱこれ私に言ってるんだよな?
「どうやってあいつに取り入った?」
「と、取り・・?」
「あんたが作ったっていうあの企画書。あれ、進藤に頼んで作ってもらったんだろ?」
「は・・」
「あんな斬新な企画・・・うちの連中でも簡単には作れないからな。」
「え。」
うちの連中。
つまりS社の皆様にもそう簡単に作ることはできないと?
え・・・なにこれ。
もしかして褒められてんの?
「とにかく・・・ボロが出ないうちに白状した方がいいと思うけど。」
「あ、あの・・・」
「じゃないと恥かくのはあんただよ。」
「・・・・・・。」
「分かってないようだから忠告しておくけど。あんたじゃ進藤のパートナーは務まらない。」
「・・・・・・。」
(え、えぇと・・・)
ちょっと待って頂いても宜しいだろうか。
いきなり&意味不明すぎて言ってることがいまいち理解できないが・・
とりあえず
お兄さんが言ってることってのはつまり、こういうことか?
①この人は辰巳さんを女癖の悪い最低ヤローだと思ってる。
②だが仕事とプライベートは割り切る出来る男だと認めていた。
③しかし今回まさかの女---つまり私が登場。
④辰巳さんが仕事に女を連れ込んだと思ったお兄さんは激しく失望。
⑤そしてショックのあまり私に八つ当たり。
簡単に言うとこんな感じ?
合ってる?
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
まさかねぇ、の思いを込めて男を見上げる。
もしかしてS社ジョーク?なんてことも期待したが・・・
残念ながら冗談ではないらしい。
お兄さんの目が超マジ。
(おいおい---勘弁してくれよ・・・)
なんの話かと思えばまさかの辰巳さん絡み。
しかも思い切り勘違いしてくれてるみたいだし・・・
ていうか、あんた一体誰。
もしや数少ない辰巳さんの友達・・・
それともあれか、ライバルってやつか?
表向きは敵同士だけど心の底ではお前を認めてるんだぜ的な感じ?
どちらにしても言いたいことがあるなら直接あいつに言えばいいじゃないか。
私に言ってどうなるってんだ。
(・・・・・・・・。)
なんだろう・・
なんか、だんだん腹が立ってきた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
相変わらず敵意丸出しで睨みつけてくるお兄さん。
もちろんガツンと睨み返してやりたい。
だがそこは我慢。
自分、一応大人なんで。
(でも・・・やっぱ腹立つ。)
そもそもあんたが辰巳さんをどう思おうがそんなことはどうだっていい。
だけどな、私たちはこれから共に仕事するメンバーなんだぞ?
なのにこんなことされたら関係がギクシャクしちゃうだろうが。
少なくとも私は愉快な気分ではない。
--可能な限り穏便に当たり触りなく
これが人間関係における社会人としての常識だろ?
まったく・・・
少しは先のこと考えて行動してくれよ。
チラリ
お兄さんを見上げると変わらず鋭い視線。
まるで「反論があるなら言ってみろよ」とでも言いたげだ。
(はぁ、どうしよ・・・)
出来れば適当に流して立ち去りたい。
けど・・・
さすがにそうもいかないだろうな。
仕事に影響するのは困る。
・・・さて、どうする?
悪くもないのに謝るのは嫌だ。
かといってふざけんなコラー!なんて怒鳴り散らすのもねぇ。
何度も言うが自分、立派な大人なんで。
(仕方ない・・・)
よし、よく見てろよ君。
この私が
常識人としての手本を見せつけてやる。
「あの。」
「・・・なに。」
「確かにあのヤローの女癖は最低ですよね。」
「・・・・・・。」
「おまけに変態だし強引だし二重人格だし。」
「は・・・」
おっと、ついつい本音が。
「でもまぁ・・・」
ちらりとネームプレートに視線を落とす。
えっと・・・あぁ、水嶋さんね。
「水嶋さんの言う通りですよ。仕事に女を連れ込むような奴じゃないと思います。」
「・・・・・・。」
「あんまり褒めたくはないですが・・・仕事に対する姿勢は素晴らしいと思います。一緒に仕事しててそう思いました。」
「・・・・・・。」
「だからこれまで通り認めてやってたらいいんじゃないですか?」
「え・・?」
「二人がどういう関係か知りませんけど、変た・・・進藤さんも水嶋さんに認められて悪い気はしないと思います。」
「・・・・・・。」
危ない危ない。
うっかり変態と呼んでしまうところだった。
「あ。」
「・・・・・・。」
「それともう一つ。」
「?」
そうそう。
これだけは言っておかないとな。
「企画、褒めてくれてありがとうございます。」
「は?」
辰巳さんに取り入っただとか作ってもらったんだとか、さっきは散々言ってくれたけどな・・・
この企画
一体どんだけ苦労して作ったと思ってんだ貴様。
何度も何度も挫折してはやり直し
何度も何度も部長に添削してもらった汗と涙の超大作
それを取り入って作ってもらった、だと?
(ふざけんな・・・)
「水嶋さんがどう思うと勝手ですが」
「・・・・・・。」
「あれは私が作ったモンだ。あんな変態の手柄にされてたまるかよ。」
この企画は
私(と部長)の努力の結晶だ!
「じゃ、失礼します。お互い成功に向けて頑張りましょう。」
水「------。」
握手がいいか、と思ったがやめた。
勢い余って握り潰しちまったらまずいからな。
ペコッと軽く頭を下げる。
そして放心気味の水嶋を置き去りに
会場へ向かって足を踏み出した。
(ふ・・)
ふふ・・
ふふふふ・・・
(どうだ水嶋、分かったか?)
これが常識ある大人の対応・・・
しっかり学んで出直して来い!
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