予感

予感 02 ~GAME





「あー疲れた。まったくあの三バカトリオめ。あんな変態のどこがいいんだか-------って、なんだこりゃ!」







別に行きたいわけじゃなかった。

だが他に行く当てもなかったので・・・

お上品なクラシックが流れる廊下をぶらりと歩き、お手洗いに来てみた。



するとビックリ。



ドアを開けるとそこは

乙女もうっとり豪華キラキラルームだった。






「はぁ、最近のトイレってすごいなぁ・・・」






たまに行くショッピングモールのトイレもすごいがここは比べ物にならない。


癒しを感じさせる心地よい香り
天井にはキラキラ輝くシャンデリア

オシャレな飾りを施した豪華な鏡
高級感あふれる立派なイス

おしぼりやティッシュはもちろん、なんとドライヤーまであるぞ。





「・・・ちょっとサボっていこっかな。」





仕事中だけど・・・

誘惑に負けてオシャレ椅子に座ってみた。
うーむ、ナイス座り心地。






「鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番美しいのはだーれ。へへ、なんちゃって。」






豪華な鏡に向かって微笑んでみる。

どうしよう。

何度も言うが仕事中なのにうっかりお姫様になった気分--






「げ、なんじゃこりゃ・・・」






うっとり姫気分は一瞬で終わりを告げた。



なぜなら目の下に薄っすら陣取る影を発見。

よく見ると全体的に顔色が悪いというか・・・

お姫様?
とんでもない。

疲れ果てたメイドのような顔してるぞ透さん。







「ま、頑張ったもんなぁ・・・」







頬杖ついて鏡の中の自分に話しかける。



ちなみに何を頑張ったかって?

そりゃ君、企画の件ですよ。


こんなでも一応企画の発案者なんで。

今日の日のために皆さんに配布する資料やらなにやらを作らないといけなかったし・・・


それにせっかく掴んだ大仕事。

責任という重圧はあるが逆に任せてもらえてるという心地良いやる気もある。



なにはともあれ、特にこの1週間は寝る間を惜しんで頑張った。

怒涛の3時間睡眠。
リアルに倒れそう。






「・・・頑張ったと言えばあいつらも頑張ったよな。」






あいつら、つまり変態と運転手。

隙あらばサボろうとする私とは裏腹に
もくもくと、そして手際良く仕事を進めていた二人。



特に変態の働きっぷりはすごかった。



初めの印象が最悪だっただけにちゃらんぽらんな男だと思い込んでいたが・・・

あの変態、恐らく私より寝てないんじゃないかと思う。





『あー、もうダメだ木戸さん。眠すぎて頭が動かない。家に帰りたい風呂入りたいふかふか布団に包まれたーい。』

木『分かりますよその気持ち・・・俺も布団に飛び込みたいです。眠い・・』

辰『お疲れだねぇ二人とも。仕方ない。後は俺がやっとくから。木戸、透ちゃんを家まで送ってあげて?』

木『え!?そ、そんな!先に帰るなんて出来ません!俺、まだまだやれます!』

『そ、そうですよ。さすがの私も仕事はちゃんとやります。実は全然眠くないし。』

辰『俺ももう少ししたら帰るから。ほら、さっさと行って。』

木『・・・・・。』

『・・・・・。』





そんなこんなで幾度となく私と木戸を助けてくれた変態。


悔しいがあのヤロー、意外に頑張り屋だったようで・・・

感心したというか真剣な姿勢は見習わなきゃと思ったというか

仕事に関しては顔パスでエリートになったわけじゃないんだと思った。






「・・・・・・。」






ま、変態の仕事っぷりなんかどうでもいいけどな。







「ふあぁ、ねむ・・・」







ま、なにはともあれ多忙な毎日もひとまず今日で終わり。

今夜はゆっくり休みたい。
家でのんびりテレビ見ながらビール飲みたい。






「そうだ、久々に直樹でも誘うか?」






最近ゆっくり話せてないんだよな。

直樹と話してるとなぜか邪魔が入るというか・・・

主に晋とか玲くんとか。



そういや香織とも遊んでないような気がする。

もちろん香織が彼氏とうまくいってるってのもあるけど。

だがそんなことより休みの度に必ず邪魔が入るというか・・・

主に晋とか玲くんとか。






「場所は・・・私の家でいいよな。」






さすがに今日は飲みながら寝落ちするかもしれないので。

できれば枕片手にカンパイしたい。



二人とも暇だったらいいけどな。

久々に三人で飲み会。

うん、楽しみ--












「あ・・・」












あ・・










あぁ、ダメだ











「・・・チッ・・」










ホテルのフロントに預けてる荷物を思い出して

無意識に舌打ち。











そうだ・・・

今日は、家に帰れないんだった












「・・・参ったな。」










今日は家に帰れない。









それはなぜか・・・









それは今日、私は香織と温泉旅行で

家にいないことになってるからだ。









「はぁ・・・」








うっかりため息が漏れる。


こんな大事なことを忘れるなんて・・・

忙しさに頭がやられたか
日付やら予定やらぐちゃぐちゃになってる。



ていうか今日が今日ってことは・・・

香織はマジ旅行中、だったっけ?
もちろん彼氏と。






「あれ・・・」






そういや直樹も用があるって言ってなかったか?




直「透さん、週末って香織さんと旅行なんですよね?」

「え?あ、う、うん。」

直「いっぱい楽しんできてくださいね。」

「さ、さんきゅ。お前も週末楽しめよ。」

直「はい、俺は司に誘われてて。ボスのことは任せといてください。」

「えー、いいなぁ。私もボスと遊びたい。」




うん、確かにそう言ってた。






ってことはあれか?






結局、香織にも直樹にも会えないってこと・・










「えー・・・」









なんだよ










寂しいじゃないか・・










「・・・・・・・・。」








ふと、鏡の中の自分と目が合う。

眉根寄せて唇噛み締めて

なんて情けない顔してるんだろう。







「・・・・・・。」









不安な時

好きなヤツらと一緒にいたいと思うのはなんでなんだろうな。








何か特別なことをするでもない。

いつも通り、ただ傍にいてもらいたい。

そう思うのは自分が弱いからなんだろうか。








不安が消えることはない。

でも一緒にいてくれるだけで








嫌なことを忘れることができるのに・・・











(・・・・・・・・・・・。)














「・・・・・・・・暗っ!」














キラキラお姫様空間に

メイドもびっくりビックボイスが響いた。





だって・・・不安?寂しい?





なにそれキモいぞ私。

ここぞとばかりに乙女のフリするのはやめろ。








「・・・・・仕事に戻ろ。」








よっこいしょと立ち上がる。


せっかくのお姫様ワールド、もう少しのんびりしたかったが・・・

一人でいると余計なこと考えそうだし
ウジウジするのは好きじゃないし

仕事しよ仕事。

ていうか仕事中だったの忘れてたヤバい。







「ではでは、失礼しました。」







誰もいないトイレにこっそり挨拶。

短い時間だったが安らぎをありがとう。
また機会があったらサボりに来ます。







「さぁて--」







通路に出て軽く肩を回す。



時刻は22時前。

パーティーもそろそろ終盤。

なんだかんだで上手く行ってるらしいこの親睦会。

この調子で何事もなく終わってくれるといいけどな--










「日下さん、ですよね?」


「え・・・?」










会場へ続く角を曲がろうとした、その時








聞き覚えのない声が背中にぶつかった。







(---?)







ゆっくり振り返る。




するとそこには長身の兄さんが一人。

腕を組み目を細め、なぜか睨みつけるようにこちらを見下ろしている。







「え、と・・・?」







なんだ?

誰だこの人。






(・・・?)






スーツ姿のお兄さん。
つまり仕事関係の人だよな。

もしや打ち合わせかなんかで会ったことが?

ヤバイ、全然覚えてない。






(・・・お、思い出せ。)






失礼かとは思ったが上から下まで凝視する。

髪は短め色は黒
引き締まった口元と攻撃的な目つき

年は同じかちょっと上だろうか・・・

パリッと着こなされた上品なスーツがなんだか冷たい印象を与える。






(ん・・・?)






あれ、ちょっと待って。

この人・・・








さっき我々を睨んでたS社の人じゃないか?








「あの・・・何か御用ですか?」

「・・・・・。」







この人=S社の人とスッキリしたのはいいが
話しかけてきたくせに何も喋らないお兄さん。

それどころか無言でじろじろとこちらを観察し始めた。


まるで品定めするように頭の先からつま先まで視線が移動する。

ものすごく居心地が悪い。







(な、なんだ・・・?)







いったい何事だ?