約束

約束 17 ~GAME






「・・・・・。」

玲「・・・・・。」








あれから数分。








とりあえず、お互い衣服を整えた。








「・・・・・。」

玲「・・・・・。」






ピリリと寒い部屋は人がいるのかと疑うほど静まり返っている。

そんな中、私と玲くんは目を合わせることなく

お互いクッションを抱きしめ並んでソファーに座っているのだが・・・






「・・・・・。」

玲「・・・・・。」

「・・・・・。」

玲「・・・・・。」






しーん--






どうしよう・・・空気が重過ぎる。






出来ることならさっきのアレはなかったことにしてしまいたい。

全てを忘れて全力でとぼけて
そうだな、ボスの話題にでも花を咲かせたい。


ちなみに玲くんはどういうつもりなのか
帰る素振りも見せず静かにソファーに沈んでいる。






「・・・・・。」

玲「・・・・・。」

「・・・・・。」

玲「・・・・・。」






それにしてもどうすりゃいいのこの沈黙。

お互い喋らない。
ひたすら沈黙をキープ。






気まずい・・・






頼むよ玲くん先に喋ってくれ。

お先にどうぞ?

いやいや無理。
何をどう切り出せってんだ。






チラリと玲くんを見るとなぜかソワソワしてる。

え、目そらされた。
ちょっとショック。








(はぁ・・・)








まったく・・・
目を逸らしてしまいたいのはこっちの方だ。






だってもう---






最悪だ。






変態、俺様に続きまさか王子とまでヤッちまうなんて・・

なんの悪夢だこれは。
そんなに私が憎いのかお前ら!






大体、玲くんは例の病んでるゲームは卒業したんじゃなかったのか?

ピュアフレンドでいるって言ってたくせに
さっきだって何もしないって約束したくせに

サラッとコロッと裏切りやがって・・・

覚えてろよコラ。
君のことは二度と信じてやらないからな!






(はぁぁ・・・)






クッションに顔を突っ込み心の中でため息を漏らす。



とりあえず私的には・・・








今すぐ玲くんをボコボコにしてやりたい。








でもその前に








これだけは言っておかないといけない。








「玲くん。」

玲「な、なに?」






「君とは・・・絶交だ。」

玲「え!!」






ビクッと跳ねる玲くん。
尻が3㎝ほど浮いた。






玲「そそ、そんな---!」

「・・・嫌か?」

玲「い、嫌だ!」

「そんなに嫌か?」

玲「やだ!」

「そうか。それじゃ・・・保留にしてやってもいい。」

玲「---!」






パッと目を輝かせる玲くん。


このお調子者め。

さっきのまでのしおらしい態度はどこへやら。

クッションを抱いたまま身を乗り出し、
嬉しい!と言わんばかりに食いついてきた。






まぁ、本当なら確実に絶交だ。

当たり前だろ。
当然の報いだ。






が、しかし、これは簡単な問題ではない。






なぜならこの王子・・・

こいつは香織とも直樹とも
ついでに司とまで親交を深めすぎている。

そんな状況で私だけ絶交するのは現実的に無理だろ?

何があったのか必ず聞かれるしそれに答えるのは非常に面倒だ。






だが・・・






はいドンマイ、と軽く許してやるつもりはない。






玲「あ、ありがとう透ちゃん。でもあの・・・保留ってどういうこと?」

「条件付だけど・・・絶交は考え直してやってもいい。」

玲「ほ、ほんと!?」

「ただし・・・今度こそ君が約束を守れるならの話だ。」

玲「や、約束?」

「・・・・・。」







そう、約束を守れるなら・・・

不本意だが絶交を取りやめてやってもいい。






よいしょと玲くんに体を向け、深い深い深呼吸を一つ。

そして背筋をピンと伸ばし
がっつりと視線を合わせた。










「さっきのことは・・・誰にも言うな。」










さっきのこと。

つまり---








忍のことだ。








玲「さっきのって、あの--」

「特に・・・司には言わないで欲しい。」

玲「・・・・・。」

「あいつら、今でも仲良しだからさ。知られたら・・・面倒なんで。」

玲「・・・・・。」






ま、知られたくないってのが本音だけど。






「・・・・・。」

玲「・・・・・。」

「約束できないなら--」

玲「・・・約束したら、許してくれる?」

「え?」

玲「さっき泣かしちゃったこと・・・」

「え。」






---泣いてなんかないですけど




出来ればとぼけたい。
全力で目を逸らしてやりたい。




だが、じーっと真剣な眼差しを向けてくる玲くん。

珍しく鋭い視線から逃げることができない。






「・・・約束、ちゃんと守ってくれるか?」

玲「うん。」

「絶対に?ボスに誓えるか?」

玲「うん。」

「きなこにも?」

玲「うん。」

「それじゃちょっとだけ-------許す。」

玲「-----っ!!」







(-----うおっ!)







思い切り表情を緩ませる玲くん。

なんだその満面の笑顔は・・・
うちの蛍光灯の10倍は輝いてるぞ。


つい1分前に二度と信じないと誓ったばかりだってのに・・・

あまりの可愛さにうっかりクラクラ--







してる場合じゃない!







「そ、それともう一つ!条件がある!」

玲「良かった・・・許してくれてありがとう。」

「いいか良く聞け!今後一切エロいことはしない!これだけは全力で死守しろ!じゃないと--」

玲「ねぇ透ちゃん。」

「おいコラ聞いてんのか!大事なこと言ってんだぞ!」

玲「・・・一つ、聞いてもいい?」

「えっ---?」

玲「・・・・・・。」

「な、なんだ?」






話を途中で遮られた。

そして改めて姿勢を正す玲くん。

ついでにこれまた真剣な目で見つめてくる。






玲「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

玲「・・・・・・。」

「・・・?」






な、なんだ?






玲「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

玲「・・・・・・。」

「あ、あの・・・玲くん?」






じーっと目を合わせたまま何も話さない。

そんなに言いにくいことなのか?

頑張れ玲くん。
言いたいことがあるならバシッと--








玲「・・・ごめん、やっぱり今度でいい。」





「え・・・」







こ、今度?






え、今度にするの?







玲「・・・はぁ‥」

「・・・・・。」







スッと目を逸らし、熱いため息を一つ。

そして切なげに眉を寄せてしまった。






(・・・な、なにそれ。)






まるで愛の告白を終えた乙女のようだ。






いやいや乙女は置いといて






(き、気になるんですけど・・・)






あれだけもったいぶっておいてそりゃないだろ。

気になるぞ。
すっごく気になる。






玲「透ちゃん・・・」

「な、なんだ!」






やっぱり言う気になったか!?

思わず身を乗り出した。






玲「泣かせちゃったり約束破ったり・・・今日は本当にごめんなさい。」

「え?あ、あぁ・・・うん。」

玲「お詫びにはならないと思うけど・・・今度ご飯でもご馳走させてね。」

「え、いや、別にそんな--」

玲「・・・・・。」

「わ、分かった。」






無言の圧力に思わず頷いてしまった。






玲「それじゃ・・・そろそろ帰るね。」

「え?」






帰る?

え、帰るの?






玲「・・・・・。」

「あ、いいよ、そのままにしてて。」

玲「ううん、ご馳走様でした。」

「い、いいえ。」






コーヒーカップを台所に持って行く玲くん。

偉い、さすが王子。






・・・じゃなくて!









玲「じゃぁ、また。」









カップを片付けた後、真っ直ぐ玄関に向かった玲くん。

どうやら本気で帰るらしい。


いや、別に帰らないで欲しいわけじゃないぞ。

ただ・・・

なんだか拍子抜けするというか・・・ねぇ?






玲「鍵、すぐ閉めてね?」

「へ?」

玲「女の子の一人暮らしなんだから。ちゃんと用心して?」

「わ、分かった。」






散々悪さした奴が何言ってんだ。

なんて思ったが口には出せず・・・









玲「お休み、透ちゃん。」









更にはなぜか憂いを帯びた笑顔を向けられて

ポンポンと頭を撫でられた。








「お、お休み・・・」

玲「・・・うん。」









そうして









---バタン









玲くんは帰って行った。









「・・・・・・。」









バタンと閉まった玄関を見つめ

しばらくの間ポカンと放心。



だって・・・











「え、えぇ・・・」











な、なんだったんだ一体・・・


喜んだり落ち込んだり

挙句の果てにはあんな顔見せやがって・・・







(気になるじゃないか・・・)







もしかして私、なんか悪いことしたか?

いやいやしてない。
悪さしたのは玲くんの方だ。



そういや前にもこんなことがあったような・・・

あぁアレだ、晋ともめた時だ。


ったくなんなんだよあいつら。

人を振り回すのもいい加減にして--











「・・・・・・。」











ま、あいつらのことなんかどうだっていい。











「・・・風呂入って寝よ。」











ガチャリ、と鍵を閉める。










そして










しーんと静まり返るリビングに戻った。




























・・・・・GAME「約束」完