トラブル×トラブル

トラブル×トラブル 08 ~GAME





透「大丈夫だって。一人で歩ける--」
「いいから黙って歩いて。」
透「そっか・・・ごめん。」
「・・・・・。」
透「あ、見ろよ玲くん!月が綺麗だぞ!」
「・・・そうだね。」








暴れる透ちゃんをタクシーに押し込めてからじっと待つこと10分。

引き返せと運転手さんを脅す透ちゃんを取り押さえてから(以下略)







(つ、着いた・・・)








やっと、やっと透ちゃんのマンションにたどり着いた。







透「---っと・・」
「大丈夫?」
透「ごめん・・・足が上手く動かなくて・・」
「ううん、こけないように気を付けてね。」







現在透ちゃんの手を引き
エレベーターに向かってゆっくり歩行中。



全然気付かなかったけど、透ちゃんは相当酔っ払っていたらしい。

店から出る時点で一人で歩ける状態じゃなかったんだけど

俺がいなかったら一体どうやって帰るつもりだったんだろう。







「部屋、ここ?」
透「・・・ん。」
「そっか。良かった、ちゃんと着いて。」







どうやらここが家らしい。

透ちゃんはあるドアの前で立ち止まり、カバンの中から鍵を取り出した。




いや・・・




カバンの中をごそごそ漁りだした。







「・・・どうしたの?鍵、見つからない?」
透「うーん・・・もしかして店に忘れてきたかも。」
「え?」
透「あーあ、こりゃ取りに戻らないと--」
「・・・同じ手に引っかかるとでも思ってるの?さっさと出して。」
透「・・・チッ。」







ふてぶてしく舌打する透ちゃん。
懲りずにまだ店に戻ろうと思ってたらしい。



ちなみに今度はなかなか鍵が開かない。

違うよ透ちゃん。
それはきっと自転車の鍵だと思うけど・・・







透「やっと開いたー!」
「・・・良かった。それじゃ俺は帰る--」
透「---っと!」
「危ない!」
透「ご、ごめん。軽くつまずいただけ、っ---!」
「!まったくもう・・・ちょっとお邪魔するよ?」







(はぁ・・・)







やっと鍵が開いたと思ったら次の試練。

相変わらず足元が覚束ない透ちゃんは同じ場所で二回もつまづいた。







「寝室ってどこ?」
透「・・・あっち・・」
「ちょ---コラコラもう少し頑張って。」
透「・・ん・・・・」







薄暗い中、弱々しく奥の扉を指差す透ちゃん。

自宅に帰って安心したのか、電池切れかけのオモチャのようにどんどん力が抜けていく。







「よいしょ・・・」
透「ぅ・・・んー・・」







寝室に到着。

今にも倒れそうな体を支えてベッドに座らせる。

ついに眠たくなったのか、透ちゃんは目を擦り出した。







「透ちゃん透ちゃん。」
透「んー?」
「お水飲める?少しでも飲んでた方が明日楽だよ?」
透「そっか?じゃぁ・・・くれ・・」







言葉尻がどんどん小さくなっていく。

辛いのかな・・・
でも気分が悪いようには見えないよね。







「じゃあ、ちょっと待ってて。」
透「・・・ん。」







勝手に歩き回るのも悪いと思ったけど、とりあえず水を探しに寝室を出た。








「・・・何もない。」








さすがに暗かったので電気をつけた。






で、思わず独り言。



だって・・・







「ほんとに何もない。」







クリーム色のソファー
ガラステーブル

少し大きめのテレビ
その下にゲーム機


引っ越したばかりなんだろうか。
目に付くものがそれくらいしかなくて・・・



男っぽい性格とは裏腹に少しは女の子らしい部屋を想像してたんだけど

思った以上にシンプル。

素直な感想はthe 殺風景。








「謎だよなぁ、透ちゃんって・・・」








再び独り言。








「謎、ねぇ・・・」








まさにそれ。

透ちゃんを一言で表すなら「謎」だと思う。







まぁ家の中もこんなだし
見た目も性格もあんな感じだからだと思うけど・・・







とにかく、彼女には"女"が見えない。







見えないのか見せないのか

どっちなのかは分からないけどね。







「なんだか悔しいな・・・」







どちらにしても、透ちゃんが俺に"男"を意識してないことは分かる。



今がいい例だよ。



酔ってるからって簡単に俺を家に上げて・・・

友達だとは言ったけど俺だって男なんだよ?
ちょっと無防備すぎるんじゃない?

まぁ、お酒のせいで記憶が無い可能性が高いけどね。








「はぁ・・・」








何はともあれ今日はお手上げだ。








さすがに今の透ちゃんに悪さしようとは思わないよ。

残念だけど・・・

今度こそ諦めるしかない。







「・・・よし!」







そうと決まればさっさと帰ろうと思う。

明日はボスとの初対面だし
午前中に桜マートでキャッツG買いたいし







「透ちゃん、入るよ?」







大きなコップがあったのでそれに水を汲んだ。

これだけ飲んだら明日も楽になるだろ。







そっとドアを開けた。







えっと、電気のスイッチは--











「---------っ!」











一瞬、鼓動が止まった気がした。










「え・・・」










だってベッドの上に












何かいる











(---------。)










月明かりに照らされた薄暗い寝室
窓際に位置する大き目のベッド

そこに仰向けに横たわる透ちゃん







スーツだったし、苦しかったんだろう。







ジャケットを半分脱いで
シャツのボタンを少し弛めて

力尽きたようにベッドに沈んでる








(ちょっ---と・・・)








見えてるわけじゃない。

どちらかというとほとんど肌は見えてない。






でもシーツに散らばる髪だとか

暗がりに白く透ける首筋だとか

無防備に投げ出された手だとか








そして何より

中途半端に乱れたその姿がどうしようもなく---

















色っぽい。