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「すみません、助手席を--」
透「---あぁっ!」
「えっ!?」
色々あったけど無事タクシー到着。
さぁ帰ろうと香織ちゃん、直樹くんが後部座席に乗り込んだ。
透ちゃんはもちろん後だろうから・・・
なるほど、俺が助手席ってわけね。
と思って運転手さんに声をかけた。
それと同時に透ちゃんが叫んだ。
かなりの大声にビクッとした。
透「やばい、店に携帯忘れたかも。」
香「え?」
直「携帯?」
透「あー、やっぱ忘れてる。」
ガサゴソとカバンを漁る透ちゃん。
どうやらうっかり携帯を忘れてしまったらしい。
透「仕方ない・・・ちょっと取ってくるよ。お前らは先に帰ってろ。」
香「え!?な、何言ってるの!待ってる!」
直「そうですよ!」
「俺が取ってこようか?結構足速いよ。」
透「いやいやいいよ。運転手さん待たせるのも悪いから。」
ぶんぶん首を振りながら申し出を断られた。
運転手さんを気遣うなんて・・・
透ちゃんって優しいね。
透「ほら玲くん、後に乗れ。」
「え?コ、コラ押さないの---」
(ん・・・?)
あれ、ちょっと待って。
ふと、思った。
もしかしてこれって
二人きりになるチャンスじゃないの?
(・・・・・。)
そうだよ大チャンスだよ!
直「待ってください透さん。一人で帰るなんて絶対ダメです。何かあったらどうするんですか。」
香「そうだよ!」
透「何も起こらないって。ほら、玲くんも早く乗って。」
香「透!ダメ!」
「待って待って透ちゃん。俺も一緒に行く。」
「「「え?」」」
お見事。
3人の声が綺麗にはもった。
「直樹くん。香織ちゃんを送ってあげてくれる?」
直「え?」
「透ちゃんは携帯取りに行った後で俺が送ってくからさ。」
透「いや・・・だから一人で大丈夫だって!玲くんも早く帰れ!」
「もー、みんな透ちゃんを心配してるんだよ?一人で帰るのは却下。それにほら、運転手さんも困ってるよ?」
透「・・・。」
押し黙る透ちゃん。
そうそう、そのまま黙って俺の言うこと聞いて。
「香織ちゃんも直樹くんも、それでいい?」
直「・・・玲さんが一緒なら。」
香「・・・本当に送ってくれる?絶対、絶っっ対に透を一人にしないって約束できる?」
「う、うん、約束する。」
香「それなら・・・」
異常なまでに心配性な香織ちゃん。
いつもと違う迫力に何度も首を縦に振った。
香「それじゃ透を宜しくね!」
「う、うん、任せて。」
直「透さん、気を付けて帰ってくださいよ!」
透「あ、ああ・・・」
香「また明日ねぇ!」
窓から身を乗り出す香織ちゃんに軽く手を振る。
そして2人を乗せたタクシーは去って行った。
そう、去って行った。
透「-------。」
「・・・・・・・。」
残されたのは唖然とたたずむ透ちゃんと
再び下心に火がつき始めた俺の二人だけ。
(ツイてる・・・)
前から思ってたけどやっぱり俺ってツイてる。
だってあの状況からこんな展開になるなんて・・・
正に逆転サヨナラホームラン。
もしかしたら俺って運命の女神に好かれてるのかもしれない。
(・・・ごめんね香織ちゃん。)
こんないけない俺だけど
透ちゃんは絶対一人にしないからね。
「さ!それじゃ携帯取りに行こう!」
嬉しさに任せて軽くテンションが上がる。
ついでに透ちゃんに手を差し出してみた。
調子に乗りすぎ?
そんなこと分かってるよ。
でも仕方ない。
だってすっごく嬉しいんだもん。
透「えーと・・・玲くん、ごめん。」
「---え!?」
うそ!断られた!
まさかこのタイミングで拒絶されるなんて・・・
浮かれたハートが一瞬で砕け散った。
透「・・・これ。」
「・・・?」
透ちゃんは「参ったな・・・」とでも言うようにため息を一つ。
そしてショックで固まった俺の手に---
「あれ、携帯・・・?持ってたの?」
忘れたはずの携帯を手渡す透ちゃん。
一体どういうこと?
まさか、まさか透ちゃん
俺と二人きりになるためにワザと嘘を--?
透「・・・実は飲み足りなくてさ。」
「え?」
透「内緒でもう一軒行こうと思って。」
「・・・・・。」
あ、そういうこと。
透「・・・ウソついてごめんな?」
「う、ううん、それは全然気にしないで。」
俺もウソツキだからね。
ていうか安心した。
俺の手を拒絶したわけじゃなかったのか。
透「で、どうする?」
「え?」
透「私は今から飲みに行くけど・・・玲くんも行くか?それとも帰る?」
「行く。」
透「そ、即答だな。」
「うん。」
そりゃ行くに決まってるでしょ。
透「分かった。でもガッツリ飲むつもりだからさ。帰りたくなったら遠慮なく帰ってくれよ?」
「うん。」
透「それと---途中で止めないでくれ。」
「え?」
透「さっきも言ったけど飲みたい気分なんだ。だから止めるなよ?」
「・・・うん、分かった。」
透「よーし!それじゃ行くか!」
「うん。」
どうやら気合満々らしい。
拳を突き上げて歩き出す透ちゃん。
今にもスキップしそうな勢いだ。
(それにしても変だな・・・)
飲みに行きたいなら皆で行けば良かったのに
なんでウソつく必要があったんだろう。
ま、そんなことはどうでもいっか。
「どこに行くの?」
透「んー?内緒。」
「なんだかドキドキするね。」
透「そうか?」
とにかく、これはビックチャンスだ。
せっかくもらった女神からのプレゼント
遠慮なく使わせてもらおうと思う。
しかし
それから僅か1時間後。
俺はあっさり運命の女神に裏切られることになる。
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