トラブル×トラブル

トラブル×トラブル 05 ~GAME







その後、司くんの警戒心はみるみる消えていき

今じゃ猫の話題意外でもたくさん話してくれるようになった。

















なんてことはなく














「直樹くんって彼女いるの?」
直「え!い、いやっ・・・・・いないです。」
「そうなの?直樹くんモテそうなのにね。仕事が忙しいのかな。」
直「・・・・・。」
「ちなみに司くんは?」
司「・・・・・。」

「・・・ボスってまるで天使だよね。何食べたらあんなに可愛くなれるんだろ。」
司「あいつの好物は桜マートのキャッツGだ。ちなみにしばらく彼女はいない。」







相変わらずツンデレの司くん。

5回に1回は素直に答えてくれるようになったんだけど、激しい警戒心はやはり健在。





でも5回に1回でも大進歩だろ?





今夜の甘い時間がかかってるんだ。

そろそろボスの長所ネタも尽きてきたけど
今夜の為なら意地でも誉め抜いてみせる。









しかし










俺は忘れていた。










香「あ、もうこんな時間!」
直「本当ですね。明日もあるし・・・そろそろ帰りますか?」
司「ん。」
透「そうだな。」








司くんにばかり気を取られて

肝心なことをコロッと忘れていた。








香「それじゃ、透は真ん中ね!」
透「嫌だ窓際がいい。お前が真ん中に座れよ。」
香「えー!やだ!」
直「じゃあ俺が真ん中に座りましょうか?」
透「直樹・・・お前ってほんと出来た人間だよな。」








---肝心なこと








それはつまり








透ちゃんの傍を離れない

香織ちゃんと直樹くんの存在。








(これは・・・想定外だなぁ・・・)







現在、日付が変わった0:20

そして現在地はBlue Hawaiiのビルの前。



今日のボス面会に備えてそろそろ帰ろうということになり

寒空の下、皆でタクシーを待っている。







---透ちゃん、もう少し飲まない? 出来れば二人きりで。







言うのは簡単。

でも伝えるのが難しい。







(はぁ・・・)







手を伸ばせば届くところにいるんだよ?

でも2人がずっと透ちゃんの近くにいるため内緒話することすら困難。

まして連れ出すなんて魔法でも使わない限り不可能。







(あーあ、今日は諦めるしかないのかな・・・)







思わず道端の小石を蹴ってしまう。



だって、二人きりになることがこんなに難しいとは思わなかった。



でも、よくよく思い返すと今までの女の子が簡単すぎたんだと思う。

今と同じような状況でも相手の女の子の方からコソッと誘いに来たりして

きっとその子も俺と二人きりになりたかったんだろうな。







でも透ちゃんは違う。







二人きりになるどころか

俺を男だと意識する様子すら見えない。







まぁ仕方ないんだけどね。

自分で作った「友達ポジション」だし

それに香織ちゃんと直樹くんとの友情関係も居心地いいもんだから、それを壊したくなくて強引に行動出来なかったりもする。


それにしても---







「参ったなぁ・・・」







司くんをクリアすれば万事OKだと思ってたのに

度重なる壁が立ち塞がって戦意喪失寸前の俺。

やっぱり今日は諦めた方が・・・







司「・・・酔ったのか?」
「・・・えっ?」
司「・・・参ったって言った。」
「え!?あ、違うよ!ちょっと考え事してただけ!」
司「・・・・・。」
「・・・もしかして心配してくれた?」
司「・・・別に。」







(つ、司くん---!)







明らかに照れた様子でプイッと顔をそらす司くん。


透ちゃんとの甘い夜は確かに残念だけど、今日は今ので十分かも!

なんだかヤンチャな野良猫を手なずけた気分。







「司くんって優しいね。」
司「優しいって---バ、バッカじゃねぇの!心配したわけじゃねぇって言ってんだろ!」
「ふふっ」
司「わ、笑ってんじゃねぇよ!」
「だって--」

司「あ!そ、そうだ透!」
「・・・・・。」







なんて照れ屋さんなんだろう司くん。

誉められるのが苦手なんだろうか。
急に話題を変えて透ちゃんの方へ歩いて行った。

しかも暗くてはっきりは見えなかったけど--







透「なんだ?---って、どうしたんだお前。顔が真っ赤だぞ。」
司「う、うるせぇな!酔ったんだよ!」
透「・・・ふーん。」







やっぱり赤面していたらしい。

可愛いね、司くん。







透「で、なんだ?」
司「あ、あぁ・・・来月一週目の週末、予定入ってるか?」
透「来月?」







危ない言い忘れるところだった、なんて言いながら顔をパタパタ仰ぐ司くん。

どうやらほてりが治まらないらしい。







透「一週目の週末・・・今のとこ何もないと思うけど。」
司「そっか、じゃあ空けとけ。」
透「仕事が入らなければな。」
香「なになに?何かあるの?」
透「どうせ父さんが飲み会でも計画してんだろ?そういやこの前メール来てた。」







へぇ、この二人のお父さんかぁ。

一体どんなツワモノなんだろう。







司「父さんじゃねぇよ。実はさ、あいつが帰って来るんだと。」
透「あいつ?」
香「誰?」
直「友達?」
司「あいつだよあいつ、忍。」
直「シノブ?」






誰それ?












透「-----ぇ・・」












(え・・・?)












今の・・・なに?












なぜか透ちゃんの瞳が













大きく揺れた。












直「シノブって誰?」
司「あれ、直樹は知らなかったか?」
直「うん。」
司「じゃあ今度紹介する。とにかく透、予定空けとけよ?」
透「・・・・・。」
司「透?」
透「・・ぇ・・・ぁ---」







(--------?)







弱々しく口元を押さえる透ちゃん。

気のせいだろうか。

手が震えてるように見えるけど・・・








(なんか--)








様子が変じゃない?








直「透さん?」
司「透?どうした?」







二人も異変に気付いたのか

俯く透ちゃんの顔を覗き込み











「ダメだよ司くん。」





司「え?」
直「!」










(か、香織ちゃん---?)










一瞬、誰が喋ったのか分からなかった。









普段からは考えられない落ち着いた声
そしてなぜか強い威圧感を含んだ声









でも、ソレは一瞬だった。









香「えへへー!実はね!透はその日、私と温泉旅行に行くことになってるの!」
司「温泉?」
香「ね、透?」
透「・・・。」







可愛らしく透ちゃんを見上げる香織ちゃん。

そして彼女の手を取り、ぎゅっと握り締めた。







香「せっかくだけどごめんね司くん。でも旅館も予約しちゃってるんだ。そうだよね、透?」
透「ぇ、あ・・・そ、そう、だった。ごめん司、すっかり---忘れてた・・・」
司「マジかよ。忍もお前に会いたがってたんだけどな。」
透「---っ・・!」
司「ま、仕方ねぇだろ。その代わりお土産買って来いよな。」
香「うん!任せて!」
透「・・・・・。」
司「・・・?」







黙り込む透ちゃん。

司くんはそんな透ちゃんに一瞬不思議そうな顔を向けたけど







司「じゃ、お先。」
香「じゃあね!」
直「また明日。」
「・・・気をつけて。」
透「・・・・・。」







どうやら皆と家の方向が違うらしい司くん。

ちょうど到着したタクシーに乗って颯爽と去って行った。







香「私たちのタクシーはまだかなぁ!なんだか寒くなってきちゃった!」
直「大丈夫ですか?」
香「なんとかね!透は?」
透「・・・・・。」
香「-----大丈夫?」







(・・・・・・。)








なんだろう。








妙な違和感を感じる。










透「・・・・・大丈夫だ。ありがとな、香織。」










繋がれた香織ちゃんの手を握り返して

透ちゃんは小さく微笑んで応えた。








香「あ、タクシー来た!」
透「・・・ほんとだ。やっと来たな。」








近づいてくるタクシーに手を上げる二人。

そしてまた、誰が窓際に座るかで言い合いを始めた。









(・・・・・・?)









一体---









さっきのはなんだったんだろう。