ターゲット捕獲

ターゲット捕獲—4 GAME


「え、カナちゃんって昨日の子だろ?もう落としたわけ?」




 

たまに入るBAR。

さすが土曜、なかなかの客入りだ。

そんな中、男三人でカウンターに並ぶのは何となく虚しい。

 




「最近勝負にならないね。一人目で終わっちゃうじゃん。」

「本と本と。カナちゃんは楽しめると思ったのに。」

「ああいう強がってる女ほど落ちやすいって言っただろ。」

「そうだけど一日ってお前・・・面白くなさすぎ。」

「仕方ねぇだろ。」

 




それぞれ、濃い酒をキュッと煽る。

 




「まぁいい。次はお前の番だ辰己。骨のあるターゲットにしろよ。」

「うーん・・・」

 




まさかこんなに早く順番が回って来るとは思ってなかった。

思わぬ役回りに少し焦って辺りを見回す。

 




「可愛い子にして。じゃないと燃えない。」

 




こいつは相川玲。

ニコニコ笑顔のキューティー王子系。

母性本能をくすぐる甘男だ。

 




「とにかくエロい女にしろ。夜がつまらなそうな女は却下だ。」




 

こいつは高原晋。

言動通りエロを貫く雄。

見かけも妖しい色男。

 




「そうは言ってもねぇ・・・」

 




そして俺。進藤辰己。

予想もしてなかった展開に少々焦る本日一番ツイてない男。

 


晋と玲と俺は高校以来の連れ。

まぁ、同級生ってやつだな。

三人共、今時のカッコイイ容姿で生まれてきたらしく昔から女に困ったことがない。



問題なのはこの性格。

いつからか女を遊びの対象物として見るようになった。




 

玲「なぁに?もしかして用意してないの?」

「まさか一日で落ちるなんて思ってなかったからな。」

玲「それはそうだね。」

「だろ?」

 




[用意]

つまり女。
つまり落とす相手。

つまり・・・『ゲーム』の対象。

 


誰が言い出したか覚えてもない。

ターゲットの女を決め、そいつを誰が一番早く落とせるか。

それがゲームの内容。



ルールは簡単。

ターゲットが俺らの誰かを「好き」になったらゲーム終了。

女の心を奪ったそいつの勝ちってこと。

逆にターゲットに落ちた男は脱落。

ゲームオーバーってわけだな。

今までゲームオーバーになったヤツはいないけど。



簡単に言うと、女はゲームソフト。

俺らはプレイヤー。

というワケで、ターゲットの女次第でゲームの面白さが決まる。


理想は「絶対落ちない女」なんだけどねぇ。

なかなか見つかるもんじゃない。

簡単に心を奪わせてくれなくて。
それでもって可愛くてエロい女・・・
まぁ、そんなのいるわけないか。

 




玲「辰己、あの子とかいいんじゃない?可愛いと思うんだけどなぁ。」

 




玲に突かれて「あの子」を見る。

茶髪のロングウェーブ。
大きな瞳の小柄な女の子。

少し離れたテーブル席に座っている。

前には男3人、隣に女が一人。

どう見ても今から合コン体勢だな。

まぁ・・・見るからに可愛い子なんだけど。

 




「ダメダメ。あの子は一日で落ちるタイプだろ。それに今から合コン始まるんじゃね?」

晋「男がいても構わねぇ。けどあいつは好みじゃない。」

「お前の好みなんてどうでもいいんだよ。」

玲「じゃぁ隣に座ってる女の子は?すごく綺麗な子だよね。」

晋「あっちは結構好みかも。」

「だからお前の好みなんて---」

『香織っ!!』

 




まるで言葉を遮るように、でかい声が聞こえた。

 




出入り口から近い俺達の席。

自然、そっちに目を向けると男が息を切らして立っている。

いや・・・女?

いやいややっぱり男?

どっちだ?



ジーンズにジャケットを合わせた黒系のモノトーンスタイル。

男にしては小さいが髪も短くて・・・

 




葵「透さん!どうかしたんですか!?」

『あっ葵!香織は!?事件だって呼び出されて!』

 




俺達の前にいた店員がそいつに声を掛ける。

すぐ傍まで近寄ってくるそいつ。

うーん、やっぱ男か?

 




葵「香織さん?香織さんならあそこに---」

香「あ!透~!こっちこっちー!」

『え!?』

 




玲が言ってた茶髪の女が手を振っている。

振り返るそいつ。

そして2、3秒固まった後店員へ向き直った。

 




透「・・・・・なんだあれは。」

葵「まぁ・・・合コンみたいですね。」

透「・・・・・・・・。」




 

チッと舌打ちの後「騙された・・・」と呟く。

その間もう一度名前を呼ばれて、心底嫌そうな表情を浮かべて合コン席へ歩いていった。




 

「今の・・・・どっち?」

玲「失礼なヤツだな。女の子だよ。」

晋「男だろ。」

玲「女の子だろ。ほら、女の子の席に座ったじゃん。」

「本当だ。」

 




初めのインパクトってのは面白いもんで、妙な現れ方をした透と呼ばれる女に少しだけ興味が沸いた。

興味といっても「変なヤツ~」的な興味。

女としての興味は皆無だった。




 

玲「ねぇ辰巳。次のターゲット、透ちゃんにしてよ。」

「は?」

 




透ちゃんのことなんか綺麗さっぱり忘れた頃、再び玲からつつかれる。

 




「なんで?」

玲「ずーっと見てたんだけどさ。あの子・・・男に興味なさそうなんだよね。」




 

男に興味ない?

合コン中なのに?

男3人、揃って合コン席に視線を向ける。

 




「・・・すっごく苦笑いしてるな。」

玲「でしょ?」

晋「好みの男がいなかったんじゃねぇ?」

玲「そうかもしれないけど。面白そうじゃない?なかなか落ちなさそうなイメージ。-----やば!こっち来る!」




 

見すぎたのか、透ちゃんが立ち上がってこっちに近づいて来る。

やばい。

なんか文句言われたりして。

さっき、チッとか言ってたし・・・


透ちゃんはジャケットのポケットに手を突っ込み迷いなくこちらに歩いてきて-----

 




俺らの前を通り過ぎていった。

 




玲「お手洗いだったんだ・・・ビックリしたー。怒られるかと思っちゃった。」

晋「なんで怒られるんだよ。」

「・・・・・・気に入った。」

玲・晋「は?」

 




目の前を通り過ぎる時、一瞬だったが目が合った。

1.目を見開いて頬を染める
2.頬を染めて慌てて顔を逸らす

初対面の女と目が合った時、相手の反応は上の通り。

大きさに差はあっても大体この反応だ。

 




(面白そう・・・・)

 

 

透ちゃんと目が合ったのは一瞬。

すぐに切れてしまったんだが・・・

その目はただ、俺らを流れていっただけ。


俺らに、もちろん俺にも。

全く興味を持たなかったように見えた。

 




「透ちゃんにする。」

玲「えっ本当?やったー!」

晋「ああいうタイプは初めてじゃねぇ?」

玲「良く見たら結構可愛かったよ。」

晋「ふーん。」




 

久しぶりに・・・

楽しめそうな女なんじゃないか?




 

「じゃぁ、透ちゃんってことでいい?」

玲「うん。」

晋「構わねぇよ。」

 




ターゲット。

全員賛成で決定。

 




玲「今回は・・・辰巳からスタートだったよね。」

「あぁ。」

晋「しっかり引き込めよ。」

「頑張る。」

 




ゲームに引き込む。

要するに、まずは知り合いにならないと始まらないんで連絡先をゲットしないといけない。

それにゲームの説明をして、参加しまーすという了承を得る。


説明しない方が落としやすいんじゃ・・・と思うところだが、壁は高い方が乗り越え甲斐があるってことで。

ちなみに昨日のカナちゃんの場合、スタート役の晋にそのまま持って行かれたってことだな。

 




玲「じゃぁ俺は帰るね。上手くいったら連絡ちょうだい。」

「分かった。」

晋「俺も帰る。」

「あぁ。」

 




席を立って出口に向かう二人。

さてさて。

まずはどうやって近づくかだけど・・・




 

(あ、あれ・・・)




 

これって結構難しくない?




 

(・・・・・・・・。)

 




絶対難しいって。

だって彼女は合コン中だよ。

しかもさっき目が合っても興味すら示してもらえなかったのにどうやってあの中から連れ出せばいいわけ?

晋と玲に協力してもらって「合コン乗っ取りー」なんて作戦で行った方が良かったんじゃないの・・・

 




(・・・・・・・・・。)

 




それっていい作戦じゃない?

うん、それでいこう。

まだ近くにいるだろうし帰ってきて---

 




透「おーい葵くん、焼酎ロックで宜しく。ていうか、ここ座ってもいい?」

葵「どうぞどうぞ。透さんも大変ですね。」

透「まぁなー。」




 

俺って、つくづくツイてると思う。




 

合コンから逃げてきたんだろう。

透ちゃんが俺の隣に座ってきた。

これってやっぱり

 




チャンス到来。



 

 

さてさてそれでは。

 



 

ターゲットを捕獲しましょうか。