(随分な言われようだな・・・)
言った本人はというと、PCから目を逸らさず淡々とキーボードを叩いている。
それにしても、今日はやけに『好き』という言葉を聞いてる気がするな。
(好き、ねぇ・・・)
ガキの頃は純粋に相手を好きだったんだろうか、今となっては当時の感情なんて思い出せやしない。
本当に好きだったのかも疑問だ。
大体、人を好きになるって
相手のどこを好きになるんだったっけ。
顔?体?
うーん・・・
それなら今でも好きな女なんて腐るほどいるな。
「体の関係があれば十分なんじゃねぇの。好きにならなくても。」
「一人の女を好きになれないんだろ?」に対する俺なりの返事だ。
好きだの嫌いだのどうでもいいんだけど・・・
なんとなく有希を探ってみたくなった。
有「そうか。私には分からん。」
「真面目ちゃんなんだな。」
有「それを真面目っていうならそうなんだろ。」
「じゃぁ好きにならないとエッチできないってことか?」
有「基本、そうだな。一夜限りの関係とかは無理だ。」
軽快にキーを叩く女らしい細い指。
それだけじゃない。
女特有の白い肌に華奢な体つき
男受けする可愛らしい顔
これだけ揃っていればこいつだって男に困ることは無かったはずだ。
なのに遊んでた風でもないし男にも慣れてない様子。
ああなるほど・・・
こいつ、一人の男を一途に想うタイプか?
「じゃぁさ。有希ちゃんは誰かのことをすっげー好きになったことある?」
軽い気持ちだった。
ただ流れで聞いてみただけ。
なのに・・・
カチャ・・
不意に、有希の指が止まった。
動かず
話もせず
そして沈黙。
(あ、あれ・・・ヤバイこと聞いたか?)
PCの画面と向かい合い何か考えている様子。
まさかこんな反応が返ってくるとは・・・
意外を通り越してビックリ。
それに--
(なんでそんな顔してんの・・・)
少し俯いてキーボードを見つめている有希。
その横顔がなぜか悲しそうで
今にも泣きそうに見えた。
(・・・・・・・。)
少しだけ
胸がざわついたような気がした。
「え、えーと・・・答えたくなかったら別に--」
有「あるよ。」
「え?」
有「ある。好きになったこと。」
「そ、そうか。」
何事もなかったかのように再び手を動かし始める有希。
ていうか今のはなんだったわけ?
すっげぇ気になるけど・・・
やっぱムリ。
聞ける雰囲気じゃない。
有「なんで?」
「へ?」
有「なんでそんなこと聞くんだ。」
「え?え、えーっと・・・そ、そうだ、好きになる時ってさ。相手のどこを好きになるわけ?」
有「どこを・・・って?」
「好きな理由があるはずだろ?」
今のはなんだったわけ?とは聞けず思わずさっきまで考えていたことを聞いてしまった。
俺の返しに再び手を止める有希。
でもさっきと違うのは俺に顔を向けたこと。
そしてコテッと首を傾げた。
有「好きな気持ちに理由なんていらねぇだろ。」
「へ?」
有「だってそいつ"自身"を好きなんだからよ。」
「ふ、ふぅん。」
ごめん、意味が分からない。
有「あ、お前分かってねぇだろ。」
「えーと・・・いまいち。」
有「お前って絶対あれだよな。彼女のどこに惚れたのかって聞かれたら迷いなく「顔」って答えるタイプ。」
「・・・悪い?」
有「別に悪くねぇよ。でもさ、もし彼女が怪我して不細工になったらどうすんだ?嫌いになるのか?」
え、どうだろ。
そんなの考えたこともなかった。
有「誰かを好きになるってのはさ、相手を大切だと思えるか思えないかってとこか?」
「・・・俺に聞くな。」
有「うーん。曖昧すぎてよく分かんねぇな。」
「なにそれ。お前も分かってないじゃん。」
有「うるせぇな。ニュアンスをざっくり掴んでくれよ。」
ますます意味が分からん。
有「まぁ、もちろん外見も大事なのかもしれねぇけど。人を好きになるにはやっぱ心が大切だと思うな。」
「心?」
有「そうだ!好きの定義---それ即ち!相手の心も体も、良いとこも悪いとこもオールオブオッケー!と思える心だと思います!」
「・・・・・・・・。」
好きの定義?
なんだそれは。
結局適当に押し切っただけじゃないの。
有「まぁ、お前って意外に鈍いみたいだからさ。」
「・・・・・。」
有「こいつのこと大切かも、って思える女子がいたらゴーだ。素直に溺れてみろ。そしたら分かる、多分。」
「・・・・・。」
随分投げやりだな。
だいたい心だの好きの定義がどうこうって言われてもね。
今の説明じゃ何も分かんねぇけど・・・
とりあえず言われるまま考えてみた。
---大切と思えるか思えないか
さっきの女はノー。
じゃあ有希は・・・?
(あれ・・・)
・・・・・・イエスなんですけど。