reason

reason 09~ GAME





晋「・・・ご馳走様。」

「ん。美味かったか?」

晋「・・・美味かった。」

「そりゃ良かった。」








主役が去ってすっきり片付いた皿たち
音もなくスッと並べて置かれる箸

相変わらず華麗に食すよなぁこの俺様は。

きっと私のお粗末な手料理も高級料理の気分でこいつの口の中へ飛び込めただろう。







「あ、いいよ、私がやる。」

晋「…皿くらい洗える。」

「そ、そっか?じゃあ…宜しく。」

晋「お前はそっちでくつろいどけ。」

「え、あ、うん。…ありがと。」







なんと、皿が洗えるらしい。

その上くつろいでろだと?

それじゃまぁ・・・遠慮なく。


相変わらず生活感のない黒い部屋。

そしてオシャレ事務所に置いてあるような黒いソファーへボスンと腰を下ろす。


チラッと視線を向けると黙々と皿を洗うイケメンお医者様。

うーん、なんだかなぁ…

スポンジを持つ様が激しく似合わない。






「そういやお前、女子たちになんて言ったんだ?」

晋「あ?」

「さっき、私の会社で。」

晋「さっき?あぁ…」






なんのことかって?

それはね、あのあと会社で起こったミラクルのことだ。





『ずるいわよ日下さん!』

『どっちか譲りなさいよ!』

『私はそこの最強イケメンを希望します!』

「えええっとあのそのあのその---!」





イケメンを逃すまいと爆発寸前の我が社の精鋭たち。

もはやモンスターにでも変化するのではと思われた。

その時---






晋「・・・提案がある。」

「「「えっ------!」」」






意外なことに、晋が発言した。

そしてなんと---





荒ぶる女子達を、一瞬で治めてみせたのだ。





俺様スマイルを披露したわけでもない。

全員に投げキッスをくれてやったわけでもない。

やったことといえば悠々と女子集団に突入し、なにかを囁いただけ---のように見えた。

そして






『えっ!い、いいんですか!?』

『うそ!そんな…きゃーーー!』






なぜか女子達が歓喜に湧いた。






晋「行くぞ、透。」

「え?あ、ああ…それじゃ、またな、香織。」

香「う、うん。またね。」






晋のお陰で揉めることなくその場を免れたわけだが。

果たしてあのイケメンハンター達に何を提案したのか・・・

非常に気になる。






晋「辰巳を、やる。」

「…は?」






・・・へ?






晋「だから、俺は無理だが辰巳だったら好きにしてもいい。そう言ってやった。」

「へ…」

晋「すんなり引いてくれたぞ。あいつもたまには役に立つんだな。」

「……。」






な、なんと。

この俺様、辰巳さんをダシに切り抜けやがったらしい。

…許せ変態。

お前の犠牲は無駄にはしない。







(さぁて…)








食後のまったりトークタイム、とのんびりしたいところだが…

辰巳さんの犠牲を無駄にしないためにも、さっさと済ませないといけないことがある。






「…あのさ、晋、ちょっといいか?」






皿を洗い終わり、飲み物だらけの冷蔵庫を開けて何やら物色している晋。







その背中に、声を掛けた。







(昼間はアリガト。昼間はアリガト!)







そもそも、こいつと私との関係は「ゲーム」

つまり晋にとって、私への親切はプレイ中のただのオプションなのかもしれない。






でも---






こいつはあの時、忍から遠ざけてくれた。






頼まれたわけでもない

事情を知ってたわけでもない






それなのにこいつは






忍から、助けてくれた。






何を思って行動したのか。

そんなこと分かるはずもない。






だがとりあえず、礼は言っておかないとな。







晋「ちょっと待ってろ。今持ってくる。」

「へ?」

晋「酒だろ?まずはビールでいいか?」

「え、あ、どうも。それじゃビールで。-----じゃなくて!」

晋「?」






どうやら酒を要求されたと思ったらしい。

ビール缶を二本掴んでこっちに歩いてくる晋。

ありがとう気が利くね。


でも今はそれじゃなくて---






「あ、あのさ!」

晋「?」

「えと、あの・・・昼間は、その・・・・・・」

晋「・・・」







(せーのっ---)







「助けてくれて------あ、ありがと。」

晋「・・・・・・・・・」







(おいおい・・・)






ビシッと決めるはずがなんだこれ。

礼くらいスマートに言えよ私。


俺様はというと礼を述べられるなんて思ってなかったのか、ビール缶を持ったまま立ち止まってしまった。






晋「・・・礼を言われるようなことはしてねぇ。」

「…お前はそうなのかもしれないけど・・・私は-----本当に助かったんだ。」

晋「・・・・・・」

「だから…ありがと。」

晋「別に…気にするな、ほら。」

「え?」






まるで「そんなことか」とでもいうように話を終わらせる晋。

そして一人分離れた隣にポスンと腰を下ろし、ズイと缶を差し出してきた。






「あ、ありがと・・・」






キンキンに冷えた美味そうなソレ。

とりあえず受け取ると、親切にもプシュッとタブを開けてくれた。

そして






晋「ん。」






喉がかわいてたんだろうか。

私の缶に自分のをカツンと合わせて、グイッとビールを流し込んだ。

釣られて私も缶に口をつけてみる。

おぉ、こりゃあ美味い。







(・・・・・・・・・)







え、えーと・・・







・・・なんか、拍子抜けだ。







(・・・どういうつもりだ?)







昼間のことを気にかけてくれてたってのは間違いないと思う。

まぁあれだけ不審な態度を取ったからな。

気にならない方がおかしいと言えるかもしれない。






でも・・・だからこそ、色々と聞かれると思ってた。






もちろん、主にあいつ---






忍について。






晋「足りなかったら勝手に取れ。」

「え?」

晋「冷蔵庫に入ってる。」

「あ、うん。」






正直、聞かれても困る。

話したくないし、話せることじゃない。


だがこうも無反応だと-----ねぇ?

逆に何考えてるか分からないというか

不安になるというか・・・






(まぁでも、そんなもんなのかもな・・・)






何度も言うが、晋にとって私はただのゲームのターゲット。

「落したい」と熱くなることはあるだろう。

だが、私に「興味」を抱いているわけではない。






つまりこういうことだ。






晋は私に、興味がない。






「そういえばさ、お前の親父さんて何者なんだ?」






ま、色々考えるのはやめよう。

①礼は言った。

②あれこれ詮索されずラッキーだった。

これで良し!






「有名人だったりするのか?」

晋「・・・・・・。」

「一緒に食事するってだけであいつら驚いてたからさ。」

晋「・・・・・・。」

「あ、ていうか親父さんとの食事ってのはやっぱりウソだったんだな。」

晋「・・・・・・。」

「マジだったらどうしようってちょっとだけハラハラした。」

晋「・・・・・・。」






(・・・あれ?)






ふと、缶を持つ晋の手に力がこもったような気がした。






ていうか-----あれ?






な、なんだろうこの雰囲気・・・






「し、晋?」

晋「・・・・・・。」






(あ、あれ----もしかして・・・)






親父さんのこと、聞かれたくなかったとか?






そういや心なしか表情が暗いような---

ちょっと怖いような---