reason

reason 06~ GAME




『透---』

「------。」

『透ったら---!』

「------。」




『-----透!!』













「······へ?」












自分を呼ぶ声が---

随分遠くから聞こえたような気がした。









香「もー、透ってばちゃんと聞いてた?さっきからボーッとしちゃって···」

「か、香織?」

香「そうだよ香織だよっ!もしかして全然聞いてなかったとか?」

「え···」







ハッと我に返ると、目の前には柔らかそうな頬を可愛らしく膨らませた香織。

そして慌てて周りを見渡せば---

ここはK社の自分の仕事場、自分のデスク。






香「ねぇ透、一体どうしちゃったの?」

「は---」

香「帰ってきてからずっと変だよ?何かあった?それとも注射が痛かったの?」

「え···?」






注射?






「···あ、あー、いや、大丈夫。なんでもないよ。」

香「嘘よ!透の嘘つき!」

「う、嘘じゃないって。ちょっと疲れてただけだ。気にするな。」

香「---------。」

「な?」

香「-------------。」






ポン、と頭を撫でると更に疑いの目を深める香織。

頼むからそんな目で見るな。
動揺を隠せなくなる。






「あ、あーあーっと。やっぱ午後は眠いなー。ちょっと休憩してこよっかなー。」

香「心配だから私も行く。」

「え!?きゅ、休憩くらい一人で大丈夫だって!心配するな!」

香「···本当に大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!」

香「じゃあ···分かった。」






眉根を寄せながら向けられる視線に背を向ける。






そしてそそくさと廊下へ出た。







(いかんいかん···)







人もまばらな廊下を進みながら反省タイム。


今は仕事中だぞ。
プライベート持ち込んだらダメだろ。

それに香織にまであんな顔させて···
しっかりしろよ私。







まぁでも--








「今日・・・あいつがいなかったのはラッキーだったか···」








ボソッと独りごちる。







ちなみにあいつ、とは誰か。







そりゃまぁ---








辰巳さんのことだな。








なんでいなくて良かったのかって?







それにはまぁ···
ちょっとした理由がある。








理由①

「ふあぁぁ···あーねむ--」

辰「ちょ---透ちゃん大丈夫?ため息なんかついてどうしたの?何か悩んでるの?」

「え、いや別に。ていうか今のはただのあくび--」

辰「何かあったらすぐ俺に言ってね?」

「え、あ、はぁ···」




理由②

「はあぁー!やっと終わったー!」

辰「ちょ---透ちゃん大丈夫?ため息なんかついてどうしたの?何か悩んでるの?」

「え、いや別に。ていうか今のはため息なんかじゃ--」

辰「何かあったらすぐ俺に言ってね?」

「······あんたこそ何があったんだよ。」

辰「俺のことなんかどうだっていいの!自分の心配して!」

「·········。」






一体なんなんだろう···

何があったのかは知らないが、最近のヤツは異常なまでに心配性なのだ。


何がそんなに心配なのか。

・・・・・・謎だ。

そこのところ良く分からない。

それに過剰に心配し過ぎてポイントがかなりずれている気もする。






とにかく、なぜか甲斐甲斐しく気遣い精神を見せる辰巳さん。






そんな奴に今のこの状況を見られでもしてみろ。

心配するどころか発狂するかもしれない。




ちなみに今日は木戸と二人揃って奴らの本社、S社への出勤デーらしい。

ご苦労なことである。








ま、今は変態のことなんかどうだっていいか。








「はあぁ・・・」









誰も見ていないことをいいことに

天井に向かってどっぷりとため息を吐く。













あれからどうやって会社に戻ったのか。

実のところあまり覚えていない。













晋に腕を引かれるまま病院を出て

すぐ近くに停まってたタクシーに乗せられ行き先まで伝えてくれて

そういやドアが閉まる前に何か言ってなかったか···?






(うーん·····ん?)






ちょっと待てそんなことより---

晋のヤツ、タクシーに金払ってた---よな?

確かドライバーに諭吉を掴ませてた気が···






(うっわ···)






なんてこった。

人にタクシー代出させるなんて···

しかも謝罪はおろか礼すら言ってない。







「······最悪だ。」







我ながらなんて情けない醜態だ。









でも---











びっくり、したんだよ。











周りなんて見えなくなるほどに

誰の声も、何の音も聞こえなくなるほどに

びっくりした。









いや、びっくりとかそんな単純な話じゃない。









身体中の細胞が跳ね上がったような

足のつま先から脳天まで一瞬で凍りついたような

とにかく---










あいつには、会いたくなかった。











「忍···」










帰ってきてたのは知ってた。

だからこそ司からの連絡も無視して

家にも帰らずホテルを転々と泊まり歩いて

そうまでして無接触を貫いてたってのに








なのにまさかたまたま偶然鉢合わせるなんて・・・

もはや自分の運の無さに失笑するしかない。








---まだしばらくは会いたくない

---気持ちが落ち着いた頃に向き合えればいい

そう思ってたのに









「チッ---」









くそ··









震えが、治らない···