(ちょ、ちょっと・・・)
誰、あなたは誰。
こんなの俺の知ってる迅さんじゃない。
なんていうかその・・・
すっごくカワイイ。
じゃなくて!
(初めて見た・・・)
こんな穏やかな顔の迅さん、初めて見た。
そもそもなんでこんなことになってるかというと
「え!ちょっと!放せ西本!寝るって言ってるのが聞こえないのか!」
先ほどの豪快な抱擁事件の後、迅さんは寝ると言い張る彰ちゃんを自宅へ強制連行。
そのまま浴室へ押し込めドアを閉めて
「温まれ」
そう言い捨てた。
「出せ!開けろ!」としばらく暴れていた彰ちゃんだったけど
「上がったら帰るからな!」としぶしぶ言うことを聞いたみたい。
その後黙って家を出て行った迅さん。
そしてなんと女の子の服を持って帰ってきた。
それを浴室に置きドアを閉めて、やっと俺たちの待つリビングに戻ってきた。
「あー、いいお湯でした。ありがとうございました。それじゃ!」
「待て。」
ろくに髪も拭かずに浴室から出てきた彰ちゃん。
そんな色っぽい様子にちょっとドキッ・・・
じゃなくて。
そのまま玄関に向かう彰ちゃんを迅さんがとっ捕まえて---
そして今に至る。
「ところで佐野。あんなびしょ濡れになるまで何してたんだ?」
突然割り込んできた声にハッとする。
主は黒田。
そういえばコイツのことをすっかり忘れていた。
黒田とは幼稚園からの付き合い。
良く言えば幼なじみ、はっきり言えば腐れ縁。以上。
「あー、その、えっと・・・」
黒田の質問に言葉を濁す彰ちゃん。
そして彰ちゃんをジッと見つめる迅さん。
そういえばマジでどこに行ってたんだろう。
「あーもう、分かった。」
「・・・。」
「お前には心配掛けたもんな。明日話そうと思ってたんだけど今でもいっか。」
「・・・。」
「その前に飲み物もらっていい?お前らも用意してんだろ?喉乾いたし、いいか?」
黒田ではなくなぜか迅さんに許可を求める彰ちゃん。
迅さんはというと少し怪訝そうな顔をして俺と黒田を見る。
意味が分からない。
ていうか言ってる意味も分からない。
「ほらアラタ、ジュース出せ。」
「え!あ!はい!」
突然呼ばれてビクッとした。
どうやら放心してたらしい。
彰ちゃんに言われるままお菓子セットをテーブルに並べた。
「私のはそれじゃなくて。そっちの袋取って。」
「はい、どうぞ!」
「サンキュー。」
「いえいえ---ってダメー!それビールじゃないっすか!!」
「そうだぞ。」
「そうだぞって---あぁぁ!開けちゃったー!」
「うるさいな、叫ぶなよ。」
ガサゴソと袋から取り出したのは缶ビールだった。
そしてなんの躊躇も無くプシュッと開ける彰ちゃん。
慣れてるように見えるのは気のせいだろうか。
「お前らは飲むなよ?お酒は二十歳になってからだ。」
「彰ちゃんも同い年でしょ!」
「見た目はな。でも中身は立派な大人だ。」
「へ。」
「全国の皆さんいいですか!お酒は二十歳になってからですよ!!」
「だ、誰に言ってるんすか?」
「全国の皆さんって言っただろ。」
「・・・。」
缶ビールを高らかと上げて全国の皆さんに注意を呼びかける彰ちゃん。
そしてカンパーイ!と俺らのジュースに缶を当てて
「かーっ!やっぱ風呂上りの一杯は美味いわ!!」
350ml缶を一気飲みした。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
男子3人、声も出ず。
佐野彰ちゃん。
ほんの少し前に転校してきた女の子。
特別可愛いわけでも綺麗なわけでもない。
言葉遣いが男の子っぽい点を除けば普通の女の子。
だと思ってたのに
「アラタ、もう一本取って。あ、いいや。袋ごとちょうだい。」
「は、はい!どどどうぞ!」
「サンキュー。」
さすが女嫌いの迅さんが気にするだけある。
この人は普通の女の子なんかじゃない。
変人だ!
とある女子への考察02 realReal
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