「・・・・手、離してくれよ。痛い。」
『嫌だね。』
「電話中なんですけど-------おい!」
孝と繋がってた携帯
「・・・・・何すんだよ。」
切りやがった。
『どうせ男だろ?』
「だったらなんだ。」
『ちょっと付き合えよ。』
「そんな暇ないって何度言えば----こ、こら待て!」
(・・・・・・ってぇ!)
間違っても・・・・こいつも男だ。
力じゃ敵わねぇ。
(やべっっ!!)
逆に締め上げられた手からは力が抜けて携帯が落ちた。
だがそんなのお構い無しだ。
力任せにぐいぐい引っ張っていく。
(ちょっ----ちょっとちょっと!!!!)
「何すんだよ!放せって!」
ガキは店の裏通りに入っていく。
表はあんなに賑わってんのに、こっちは人も歩いてない。
そして暗い・・・・・
「聞いてんのか!?放せっていってんだ!」
どんどん奥へ引っ張られていく。
マジで待ってくれよ・・・
さすがにこれは----ヤバい!
「いい加減にしろっ!」
力任せに手を振り払った。
(い・・・・・てぇ・・・)
まぁ、強く握られてたんだ。
それを無理に引き抜いたら・・・
『大人しくしてれば痛い思いもしなかったのによ。手、捻っちまっただろうが。』
「・・・・・誰のせいだよ。」
立ち止まった私を振り返るガキ。
その口元には笑みを浮かべてる。
だが-----目が笑ってない。
(ちょっと・・・・・どうしましょ・・・・)
後ろには2人。
前にはこいつ。
リアルに逃げ場無し。
マジで・・・・・どうしよ。
「何か用か?急いでるんですけど。話なら手短にお願いします。」
とにかく---逃げねば。
ガキの方か、それとも二人の方か。
単純に考えてガキ一人の方が突破しやすいとは思うが---
とりあえず、まずは落ち着いて話そう。
『話?そんなのねぇよ。』
「・・・・・じゃぁ退けよ。用はねぇんだろ?」
『大人しくしてろ。』
「----っ!?」
行く手を遮りながらジリジリと近づいてくるガキ。
自然、後ずさりしてしまう。
だが狭い通りだ。
すぐに壁が背中に迫った。
「おいおい。お前・・・・こんなことしちゃうわけ?」
こうなったら誰か通るまで時間稼ぎするしかねぇ。
それに不自然に電話を切ったんだ。
孝が探しに来てくれるはず。
『お前ら、見張っとけよ。』
『分かってる。』
「----!」
連れの2人は揃って同じ方向へ---
今通って来た方へ向かった。
え、それって反対方向は行き止まりってことか?
ここって通り抜け出来ない感じ?
それじゃお前・・・
通りすがりの誰かなんて絶対来ないじゃないか。
ヤバイ。
ヤバすぎる。
「ちょっと-----なんのつもりだよお前。」
『だからぁ、お前は俺のモンにするって何度も言ってるだろうが。』
壁に手を当て見下ろしてくるガキ。
そしてニヤリと口角を上げた。
「・・・・・それって、こういう意味で?」
『そう。』
「・・・・・・・。」
ゆっくり
ゆっくり
頬に手が近づいてくる。
「ちょ、ちょっと・・・マジでやめろ・・・っ!」
頬に手が触れた。
冷たいソレに思わず息を呑んでしまう。
やばい・・・
なんか
怖い・・・
『急に大人しくなったぁ。やっぱりお前も女だ。』
「・・・・煩ぇ・・・・・退けよ。」
『なんだ?聞こえねぇよ?』
「----っ!」
静かな私に気を良くしたのか
クスクス笑いながら頬を撫でてくる。
嫌だ・・・
嫌だ!
「は、放せよっっ!!!」
両手で奴の胸を押す。
これ以上は止めてくれ。
近づかないでくれ。
さっさと消えてくれよ!
『そんなに怯えるなよ。煽られるじゃねぇか。』
「--------っ!!」
渾身の反撃も無駄な抵抗。
両手を壁に押し付けられた。
そして
唇も・・・
(-----------っ!!!)
『・・・・ってぇ・・』
無意識に奴の唇を噛んだ。
口の中に鉄の味が広がっていく。
『痛ぇじゃねぇか・・・』
「------っ!」
ギリギリと両手を締め上げられる。
絞められ過ぎたからか
それとも恐怖心からか
どんどん感覚がなくなっていく。
(・・・・・怖い・・・・誰か・・・・)
『許さねぇからな。』
「-------っっ!」
更に強く締められる手首
そして再び近づいてくる唇
恐怖で体が震える
心臓が変な鼓動を叩く---
視界が
狭くなっていく。
『なんだてめぇは!』
『ぐっ!!』
遠くで、男の声と鈍い音が聞こえた。
『・・・・なんだ?』
もう少しで唇が重なる寸前
ガキの動きが止まり
釣られて音の方を見る---
「・・・・・・・孝。」
狭い視界の中に映ったのは・・・
俺様孝様。
安心してしまって
涙が零れた。