「・・・・・・よし!」
鏡の前で顔を軽く叩く。
そしてグイっと口角を上げてみた。
嫌な感覚はひとまずシャワーで洗い流した。
もう大丈夫だ。
大分落ち着いたと思う。
「すーー、はーー。」
そもそもパニックにならなかったのが奇跡だったんだ。
まぁ、それは多分----
パニックになる寸前、孝の姿が見えたからだと思う。
孝が来てくれたと分かって、すっげぇ安心した。
いや、そんな言葉じゃ全然足りないくらいだ。
(ちゃんとお礼言わなきゃな。)
改めて鏡に向かって笑顔を作る。
そしてもう一度頬をパチリと叩き、風呂場を出た。
「いいお湯でしたぁ・・・・って、電話中ですか。」
部屋に戻ると、孝はソファーに座って誰かと話していた。
孝「聞こえたか?今風呂から出てきた。」
「へ?」
孝「有希。」
「?」
ほら、と携帯を差し出される。
「な、なんだ?」
孝「声聞きたいんだと。」
「え?」
ワケが分からないまま携帯を耳に当てる。
「あの・・・・もしもし?」
『有希!?』
「え、あ・・・・・要?」
『良かった・・・ちゃんとそこにいたんだな。マジで焦った。』
「・・・・ゴメン。」
『お前が謝ることじゃないでしょ。』
「でも・・・・・ごめん。」
いつになく余裕の無い声色。
そりゃ心配の一つや二つしたくなるよな。
現在午前2時。
真夜中だもんな。
『孝から大体聞いたから。』
「そ、そうか。」
『今日はゆっくり休めよ?』
「・・・・・心配かけてごめん。でも明日は元気になってっから!」
『無理して元気になるな。』
「・・・・・。」
なんだよお前・・・
せっかく気合入れ直したのにそんな優しいこと言うなよ。
また気持ちがぐちゃぐちゃになっちまうじゃねーの。
『有希?』
「え、あれ・・・真樹?」
相手が変わった。
『・・・・意外に元気な声してんだな。』
「うん。孝が・・・・すぐ来てくれたから。」
『・・・・・そうか。』
「ごめんな、心配掛けて。」
『いいから。それよりお前、今日くらい大人しくしてろよ?一人になるのだけは許さねぇからな。』
「・・・やっぱりお前と孝は考えることが同じだ。」
『ちゃんと返事しろ。』
「うん、約束する。」
『よし。それと--』
孝「貸せ。」
「あ・・・」
ひょいと奪われる携帯。
真樹がなんか言ってたが聞き取れなかった。
孝「煩ぇな、ちゃんと明日帰るからよ。・・・・あぁ、分かってる。」
何やら深刻な面持ちで言葉を交わす孝。
そしてじゃあな、と言って通話を切った。
「・・・皆に心配かけちゃったな。悪いことした。」
孝「落ち着いたら説明すればいい。」
「・・・そうだな。って、あれ・・・」
孝「?」
気付くのが遅れたが、テーブルの上には酒が並んでた。
孝が用意してくたんだろう。
なんとも気が利くヤツだ。
飲んだら・・・・・寝れるかね。
いやいや寝れないよな。
寝れる気がしねぇもんな。
でも意外に平気・・・・なような気もする。
孝「有希。こっちに来い。」
「えっ?あ、あぁ・・・」
ぽんぽんと自分の隣を叩く孝。
「失礼しますよー。」
孝「・・・・店じゃねぇよ。」
「はは、そうだな。」
素直に孝の隣に座った。
「うわ、なにこのソファー。すっげーふわふわ。持って帰りてぇ。」
さすが高級ホテル。
家具から違う。
「なぁなぁ、一緒に持って帰らねぇ?」
孝に振ってみる。
「有希。」
「・・・・・・・ゴメン。」
冗談言ってる場合じゃねぇよな。
うん、分かってる。
「孝。」
真っ直ぐ孝の目を見る。
「さっきは・・・・マジでありがとう。お前が来てくれなかったら----」
孝「そんなの・・・当たり前だろ。礼を言われることじゃねぇよ。」
「それでも・・・・・ありがと。」
礼を言ったら一瞬驚いた顔をした。
でもその後すっげぇ優しい顔になって・・・
なんだか戸惑ってしまった。