---「許せ!」side孝
(遅い・・・・・)
少し遠くにある閉められたドア。
あの中で現在、有希のドレスアップが行われている。
女の準備は遅いのが当たり前。
だがそれにしても遅い。
『い、五十嵐さん、コーヒーどうぞ!』
「・・・どうも。」
そして、なにより店員の視線が面倒だ。
ニ口くらいすすったら新しいコーヒーを持ってくる。
何故だ。
俺だって出されたものくらい最後まで飲む。
(おい有希・・・早くしろ。)
---有希。
相変わらず変な女だ。
どう変か、と問われたら困る。
だが少し前に現れた妹の千秋。
あの事件の際、ヤツは激しく本領を発揮した。
あのことを思い出して言えることがあるとすればただ一つ。
---有り得ない。
ちなみにあいつの変人さに興味を持つ住人も少なくない。
その証拠に、男共は全員あいつを落とすゲーム(?)に参加している。
ただのゲームのはず。
なのに何故か、住人達は揃って女遊びを中断中。
まぁ、あいつらの真意なんて分からねぇし分かりたいとも思わないが
未だにゲームの勝者はいない。
ちなみに俺の場合、ゲームは関係ない。
どちらにしても自分のものにするつもりだ。
会ってすぐに感じた「気になる」という衝動。
有希に対するそれは消えること無く、日に日に熱を帯びていく始末。
非常に不本意だが、やはり有希が気になって仕方が無い。
さっさと自分のモノにしたい。
だがこれがなかなか上手く行かない。
触りたい
抱きしめたい
キスしたい・・・
最近はこんな感情まででかくなって、挙句の果てには自分を抑えるのに必死。
俺はやはり病気なのか?
それなら一体何の病気だ?
解決策が見つからないまま無情にも時間だけが過ぎていく。
このままじゃ本気でやばい気がする。
もしかしたら不治の病かもしれない。
ここはやはり誰かに相談した方がいいのか・・・?
累「今日も手伝うよ。」
有「マジでー!?サンキュー累!」
最近仕事が忙しいんだろう。
累の奴・・・
PCが少し出来るからってここぞとばかりにアピールしやがって。
イライラする。
真「おい有希。今日は飲まなくていいのか?」
有「・・・・・・・・※×△÷□・・・」
真「・・・・・大丈夫かお前。」
あの帝王真樹でさえも有希に構う始末。
良く分からないが・・・
イライラする。
(なんでイラつくんだよ・・・・・)
こういう意味不明な感情の揺れが更に気分を悪くさせる。
なんだってんだ、本当に。
そしてイラついてる時には更にイラつくことが舞い込んでくる。
『孝さん聞きました?』
「・・・・あいつが帰って来る?」
何故だ。
ただでさえ原因不明のイラつきに悩まされているってのに更に不機嫌になれそうな知らせが届いた。
小耳に挟んだ「院長」の帰還
そしてそれに伴うパーティー
どうでもいいが、あいつは女のことにやけにうるさい。
早く彼女を見せろ
早く結婚式に呼べ
そして俺によこせ
最後のは完全に意味が分からないが・・・
彼女はともかく結婚というフレーズには全くピンとこない。
だが、1週間後に帰ってくるらしい。
あのオヤジのことだ。
開催されるパーティーに女を連れて行かなかったらまた大量の仕事を回してくるに違いない。
(くそ、どうするか・・・)
と思った時
即座に頭に浮かんだのがあの女、有希。
(なんでだ?)
自分でもよく分からない。
まぁ、いずれ俺の女になるんだから・・・
連れて行って紹介しても間違いではないだろ。
というわけで、家に帰って早速聞いてみた。
「あぁ?来週の土曜だと?まぁ大丈夫なんじゃね?てか出てけ。今英数字と葛藤中だ。邪魔すんな。」
あいつ・・・ちゃんと聞いてたか?
眠そうな顔
焦点の合っていない目
一体部屋で何が行われてるんだ。
そして当日
有「え・・・言ったっけ?」
「言った。」
やはりと言うべきか今日のことをすっかり頭から消していた有希。
俺と話したことさえも絶対忘れてる。
かなりムカつく。
有「悪ぃ覚えてねぇ。も今日は大丈夫だぞ。仕事も一段落したからな。」
とりあえず予定はないようなので連れて行こうと思う。
今日は言い合っている時間はない。
有「おい!待てって!」
風呂上りらしい有希を引っ張って車に乗せた。
どこに向かっているのか聞いてくる。
教えてやりたいのはやまやまだが・・・
説明したらお前、絶対逃げるだろ。
それじゃ困る。
「行けば分かる。」
有「おいおい。」
それにしても・・・
なんだその格好は。
キャミソールとショートパンツ。
随分軽い格好をしているが俺に対する挑発か?
(・・・・・・?)
しばらく経つと急に静かになった有希。
チラリと横目で見ると目が閉じかけている。
最近忙しかったからか。
どうやら車に揺られて眠くなったらしい。
しかし--
(・・・・・・・ふざけんなよ。)
助手席で眠るなんて
いや、眠ってはないんだろうが首カックンってお前・・・
そんな無防備な格好でそんな可愛い仕草・・・
もしや策略か?
それともドッキリか?
(くそ・・・)
出来るだけ目を向けないように運転した。
とにかく
触りたい
抱きしめたい
キスしたい・・・
ただでさえ最近の俺は奇妙な感情に犯されているからな・・・
出来るだけ有希を意識しないよう運転に集中。
そして無事、店に到着した。
『お待ちしておりました、五十嵐様。』
パーティーがある毎にここで正装する。
オーナーであるこのスマイル男。
こいつは大学時代の知人だ。
「おい。そいつにベタベタ触るなよ。」
『心得ました。』
白々しく軽い笑みを残して有希を奥へと連れて行く知人。
その笑いが気に食わない。
何かを見透かされているようでムカつく。
そして、今に至る。
『あ、あの!コーヒーどうぞ・・・!』
「はぁ・・・・どうも。」
(またか・・・)
またコーヒーが入れ替わった。
一体これは何杯目のコーヒーだ。
ここはタダ飲みコーヒーショップか。
それに持ってくる店員が毎回違うのは何故だ。
何人スタッフがいやがるんだ。
それにしても、遅い。
アノヤローどれだけ俺を待たせるつもりだ。
さすがにこれ以上コーヒーを飲むことは出来ない。
(-----ったく・・・!)
仕方なくだ。
仕方なくだぞ。
「おい、まだか?」
有希が連れ込まれた部屋のドアを開けた。