「変な奴だろ?うちの院長。」
有「・・・・・・あぁ。本当に変な奴だ。」
「お前、口開いてたもんな。言葉も戻ってるし。」
有「マジであれが院長なのか?ある意味お前らより衝撃的だったかも。」
「なんだよそれ。」
"お前らより"って桜館の奴らのことか?
まぁ、あいつらも変人ばっかだからな。
有「あんなんで本当に論文とか書けるのかよ。」
「医学会ではかなり有名な名医だぞ。」
有「そ、そうなのか?・・・見えん。」
「だろうな。」
よっぽどインパクトが強かったらしい。
どこぞへ歩いていく院長様を変な顔して見つめる有希。
有「ふぅ、なんかどっと疲れた。」
そりゃそうだろ。
気のきかない同期の次は変なおっさん。
不愉快のオンパレードだな。
「飲み物取ってくる。まだ飲めるか?」
有「もちろん。何でもいいよ。」
時計を見ればパーティーも終盤。
今日の目的も達成できたし
あとはのんびり時間が過ぎるのを待とうと思う。
『五十嵐さん!先日はありがとうございました!』
ドリンクに手を伸ばすと声をかけられた。
振り返ると見覚えのある二人の男。
そうだ、3日前の手術で・・・
(面倒だ・・・)
だがこれも仕事の一環。
こういう会話はこなしておかなければならない。
『では!足止めしてすみませんでした!』
「いえ、こちらこそ。」
『またお願いすることがあると思いますので!その際は宜しくお願いします!』
「はい。僕でお役に立てることがあれば。」
まるで定形文を読むような会話だな。
まぁ、苦手ではないが好きでもない。
---仕事で実績を認められること
男なら誰もが目指し、手に入れたいものだろう。
その為には技術力の向上。
そして人付き合いが欠かせない、と思う。
幸か不幸か、俺の場合人目につくこの外見のおかげで技術の方に集中することができている。
なぜって、自分から近づかなくても相手が進んで近づいてくるからだ。
男も、そして女も同じ。
だが--
---見た目に近寄ってくる人間は信用するな
これは自然に学習したことだ。
それは年齢を重ねるごとに余計に身に染みて感じている。
『本当の俺』を見てる奴なんていない。
『見ようとする奴』なんてもっといない。
(なんだ、酔っちまったのか俺は・・・)
なに辛気臭く考え込んでんだ。
いつになくつまらないことを考えてしまった。
やはり今日は何らかのウイルスに感染しているらしい。
とりあえず戻ろう。
少し時間食っちまったからな。
爽やかな匂いのするドリンクを手に取る。
そして有希の方へと体を向けた。
(・・・・・・・・工藤?)
いつの間にやって来たのか、有希の隣に男が座っている。
よく見なくてもあいつは工藤。
事あるごとに突っかかってくる面倒な奴だ。
(・・・・・・・どうかしたのか?)
心なしか有希の様子がおかしい、ような気がする。
俯いて---拳を固く握っている?
なんだ、何かあったのか。
ここからじゃ表情が良く見えない。
(妙なことされてんじゃねぇだろうな・・・)
公衆の面前でまさかとは思うが少々焦りを覚える。
手に取ったグラスを戻し、足早に有希の下へ向かった。
「おい、何やって---」
(・・・・・・・・・!)
名前を呼ぼうとした、その時
有希がゆっくりと立ち上がった。