千「----っ・・」
有「・・・・・。」
声を堪えて泣く千秋ちゃん。
しばらく姫に抱きしめられたままじっとしていた。
そして姫はそんな千秋ちゃんをぎゅっと抱きしめていた。
千「-------ごめん、有希。もう大丈夫。」
有「・・・・・。」
千「有希・・・」
有「顔洗って来いよ。」
千「・・・うん。」
有「今日はガッツリ飲もうぜ!」
千「ん。」
ゆっくり立ち上がる千秋ちゃん。
そして洗面所に歩いていった。
孝「おい有希、こっちに来い。」
有「・・・え?」
俺らは男が家に来てからずっと固まってしまってたんだけど
その空気を破るように孝が姫に近づいていく。
孝「え、じゃない。お前、怪我だらけだろ。」
有「こんなの大したこと--」
孝「ダメだ。」
有「・・・・・・・。」
そういえば見れば見るほど傷だらけ。
手なんてもう正に血だらけだよ。
こんなに華奢なのに、頭一つ分でかい男をどうやって捻じ伏せたんだろう。
真「はぁ・・・無茶しやがって。」
要「全く、信じられない。」
本当、信じられない。
でも
千秋ちゃんのことが本当に大切なんだよね。
「姫、あんまり無茶しないで。」
有「・・・許せなかったんだよ。」
「・・・うん。」
眉間にギュッと力を入れて呟く姫。
不謹慎だけどなぜか
---羨ましい
そう思った。
有「いっ・・・・てぇ。」
孝「当たり前だろ。・・・・・・あいつもあいつだ。女を殴るとはなんてヤローだ。」
有「でも勝ったぞ!」
累「調子に乗らないの!」
有「・・・ごめん。」
部屋から救急箱を引っ張ってきた孝。
姫をソファーに座らせて手当てを始めた。
顔に張られていく絆創膏。
その様子、もうどこからどう見ても少年だよ。
千「有希・・・・ごめん、大丈夫か?」
まだ目が赤いけど、少し吹っ切れたような表情で千秋ちゃんが戻ってきた。
有「大丈夫大丈夫。全然平気。」
千「・・・そうか。」
有「あぁ、気にすんなよ。」
ニコッと笑った後、『いててっ』なんて顔を歪める。
全然説得力ないよ。
すごく痛々しい。
有「じゃぁちょっと遅くなったけど・・・かんぱーい!」
現在午後10:45
手当ても終わって
千秋ちゃんも落ち着いて
俺らもいつもの調子を取り戻して
夜は大分更けてしまったけど
それでも姫は酒を煽るらしい。
千「お前、毎晩こんなことしてんの?」
有「んー?」
千「体ぶっ壊れるぞ。」
有「・・・大丈夫だ。」
仲良く隣同士、並んでソファーに座ってる2人。
だけど姫が一気に酒を流し込んだのを見て千秋ちゃんがボソッと呟いた。
実は今朝まで『本当に姉妹なのかな』なんて思ってたりしたんだけど、やっぱり家族なんだな。
千秋ちゃんも姫のことが心配なんだ。
千「お前もなんかあるなら・・・ちゃんと言えよな。」
少し恥ずかしそうに
グラスを見つめながら呟く千秋ちゃん。
有「・・・・・・分かってる。」
そして姫は、時々見せる憂いのある笑顔で応えた。
その笑顔と言葉に偽りがあるってこと
千秋ちゃんが気付かないはずないのにね。