ライブ・本番!

ライブ・本番!15 SAKURA∞SAKU second

-----孝-----





「・・・はぁ。」






人ごみから抜け出して会場の外のベンチに避難してきた。

どうもざわつきは苦手だ。






「はぁ。」






ため息しか出ない。






(ムカつく・・・)






どうも気分が優れない。






原因?

そんなの決まってる。





---有希が付き合ってた奴





ただでさえ面白くない存在。

その上、有希のあの態度・・・

あの男が昔の嫌な思い出に関わってるのは間違いない。






(まさか・・・)






あいつが有希に乱暴したわけじゃねぇだろうな・・・




それはないか。

彼氏だったんだからな。






(彼氏、ねぇ・・・・・)






・・・イライラする。






できることならあの男を締め上げて全部吐かせてやりたかった。

あいつが口にした『美咲』って奴のことも知りたい。





有希を苦しませた奴らは全て

調べ上げてとっ捕まえて





めちゃくちゃにしてやりてぇ・・・






「あー、やっぱり孝だ。」

「!」






不意に、後ろから間抜けた声が飛んできた。






「・・・・有希。」

有「人ごみがキツくてさ、抜け出してきちゃったよ。」

「・・・・・・。」

有「もしかしてお前も?」






へらっと笑いながら隣に座ってきた。

ちゃっかり飲み物とつまみを持参している。

用意周到だな。






「・・・少しくれ。」

有「いいぞ、ほら。」






ニッコリ笑ってグラスを差し出してきた。






「----!」






触れた指が---

すっげぇ冷たい。






(こいつ・・・)






グラスをベンチに置いて、肩を引き寄せた。






有「----っ、え!?」






顔を首筋に埋めてみる。

更に肩を引き寄せると・・・

やっぱり、体が冷てぇ。






「温かいだろ。」

有「そそそうですね!----じゃなくて!離れろバカ!」

「・・・チッ」

有「舌打ちすんな!」






バタバタと暴れ出す有希。

大人しくしてればいいものを・・・

相変わらずな反応にため息が出る。






「着てろ。」






とりあえず上着を着せた。

このままじゃ確実に風邪を引く。






有「えっ!?い、いいって!すぐ中に戻るから!」

「黙って着てろ。」

有「こ、こら!」

「いつから外にいんだよ。」

有「!」






正にギクッと顔を強張らせる有希。

この体の冷え、今出てきたって冷たさじゃねぇ。

ずいぶん前から外にいたに違いない。






有「・・・・・お前はエスパーか。」

「大人しく羽織ってろ。」

有「・・・・・サンキュ。」






俺の上着にすっぽりと包まれる有希。

照れてるのか、軽く俯いて手をモジモジ始めやがった。

なんとも可愛い反応だと思う。






「好きな女に自分の服。いいもんだな。ロマンか?」

有「・・・・なんで疑問形なんだよ。ていうかロマンってなんだ。」

「家に帰ったら他の服も着てみろ。」

有「嫌だ。」

「なぁ。」

有「なんだ?」

「・・・・・・悪かった。」

有「え?いや別に謝るほどのことじゃ・・・」






服のことじゃねぇ。






お前に、謝らないといけないことがある。






「・・・さっきは悪かった。お前が悩んでること・・・無理に話す必要はねぇ。」






まぁ、さっきの話だな。

知りたくないかと聞かれれば知りたいと答える。

だがそれは俺の都合。

有希がそれを望んでいるかは別の問題だ。





(え・・・)





・・・なんでだ。

有希の目が丸くなった。






有「なんだ・・・・そんなこと気にしてたのか。やっぱりお前は優しいな。」

「-------。」

有「ちゃんと話そうって、本当にそう思ったんだ。」

「・・・・・・。」

有「前から思ってたことでもあったし・・・お前に言われて仕方なくとかそんなんじゃない。だから謝るな。」

「・・・そうか。」

有「そうだ。」





真っ直ぐ見つめ返してくる強い視線。

無理強いしてしまったかと思ったが・・・

お前がいいっていうなら-----それでいい。






それにしても






俺の服を着て
そんな目で見上げて

・・・煽ってんのか?






「お前、やっぱり可愛いな。」

有「は?」

「今はちゃんと女だな。」

有「なな、なんだよ急に!」






忙しい奴だ。

わたわたと焦り出す有希。

まぁ、その様子もなかなか可愛いと思う。






「ライブでは客の半分がお前は男だと思ってたみたいだな。まぁ、あの格好じゃ仕方ねぇか。」

有「・・・思い出させるな。」

「ショックだったのか。」

有「軽ーーーくショックだった!」





今度はふて腐れやがった。





有「掲示板見たときも少数なら仕方ねぇと思ったんだけどな?さすがに二人に一人が勘違いってどうよ。確率高すぎだろ。」

「確かに。」

有「まぁいいや。とりあえず私は女なんで、お前は間違えないで下さいよー。」

「・・・・・・。」






おかしそうにケラケラ笑う有希。

ていうか俺が間違えるわけねぇだろ。





「・・・・・・。」





グラスを傾け酒を煽る。
そして唇をぺろりと舐める。

これはこいつの癖だ。





そして俺は





この仕草に-----弱い。






有「-----!」






濡れる唇。

その無防備なソレに、軽くキスした。






有「----っ?!」

「お前は、可愛い。」

有「なななななに言ってんだ!てかこんなとこでキキっっキスすんな!」






キスって言葉もまともに言えねぇのかよ。

どこまでカワイイ反応なんだこいつは。






「キスしたかった。仕方ねぇよ。」

有「なんだその理由は!さすが俺様!」

「そういうことにしておいてやる。」

有「う、うわ!その返し・・・最強じゃねぇか!」

「俺は最強だ。さっさと惚れろ。」

有「・・・お前との問答には勝てる気がしねぇ。」

「当たり前だろ。」

有「・・・ぷっ!」






一瞬膨れっ面になったが、すぐに笑った。

ほら見ろ、やっぱ可愛いじゃねぇか。






楓「あー!こんなとこにいたぁ!相変わらず人ごみ苦手なんだから!」

有「あ、見つかった。」

楓「見つかったじゃない!すっごい探したんだからね。皆が呼んでるよ。」

有「そっか。じゃぁそろそろ行くかな。孝も行こう。風邪引いちまう。」

「・・・あぁ。」






もう少し可愛いこいつを見ていたかったが・・・

仕方ねぇな。






有「上着、ありがと。」

「着ててもいいぞ。」

有「中に入るから大丈夫だ。サンキューな。」

「あぁ。」






(・・・・・・。)






返してもらった上着は有希の臭いがして






酔いそうになる。