開始

開始—–6 GAME


辰「透ちゃん、おいで。」




 

玲さんと晋と別れて、辰巳さんに呼ばれる。

どこへ行くのか。
手を差し伸べられたが無視した。

 




辰「冷たいなぁ。」

「そういうヤツなんで!」

辰「それにしてもご機嫌だね。」

「そういう気分なんで!」

辰「・・・・ふーん。」

 




あんたともこれっきりだと思うとねぇ。
気分も高揚するってもんだろ。

 




「・・・車?」

 




突っ立っていると車が前に停まった。

見覚えのあるグレードの高い車。

これって・・・

 




辰「どうぞ。」

「あ、あぁ・・・失礼します。」

 




そういえば辰巳さんの車だ。
この前送ってもらった時に乗った覚えがある。

後部座席のドアを開けてくれた。
お礼を言って乗り込むと当たり前だが運転席には人がいた。

辰巳さんは反対のドアから私の隣に乗り込む。

 




辰「俺の家の方に向かってくれる?」

『分かりました。』

「・・・・・・・・・。」




 

な、なんだこいつ。
運転手なんて雇ってるのか?

後から見える運転手さん。
私と同じくらいの年だろうか。

 




辰「あぁ、こいつは俺の連れ。木戸くんだよ。」

木「木戸です。」

「えっあ、あぁどうも。日下です。」

 




心を読まれた。
不意に木戸さんを紹介されてビックリする。

 




辰「そういえば、透ちゃんに会った日も木戸に送ってもらったよな・・・この前の土曜日。」

木「はい。」

「そ、そうなんですか。どうもとんだご迷惑を・・・」

木「いえいえ。」

 




ふーん、そうだったんですか。

あんたが送ってくれたんですね。
魔の辰巳ホームに。

 




木「困った時は呼んでください。迎えに行きますよ?」

「え?」

辰「木戸くんは優しいからね。どこでも迎えに来てくれる。」

「そ、そうですか。」

 




え・・・雇ってるわけじゃないのか?

木戸さんって親切で運転手やってんだな。
すっげー暇人・・・

 




辰「そうだ透ちゃん。明後日の金曜日の夜。空けててね?」

「は?」

辰「デートしよう?」

「えー!」

辰「えーじゃなくてデートね。仕事終わる頃に迎えに行くから。」

「いやいや!!デートなんかしません!それに迎えだけは勘弁してください!」

 




あんたが迎えに来たら確実に今日みたいに人だかりが出来る。
あんなのはもううんざりだ!

 




辰「ダメ。デートするの。絶対迎えに行く。」

「けっ!勝手にしろ!絶対会社から出ないからな!翌朝まで残業してやる!!」

辰「仕事熱心だねぇ。じゃぁ勝手にするよ?」

「しろしろ!」

 




ていうか・・・迎えに来ても無駄だ。
裏口でも非常口でもなんでも使って逃げ切ってやるからな。

 




木「え・・・なんですかその会話は。」

「は?」

 




木戸さんがすっとぼけた声を上げる。
その前になんですかその質問は。

 




木「あ・・・す、すみません。辰巳さんにそんな風に話す人を初めて見てしまったので・・・」

「は・・・?」

辰「木戸もそう思うだろ?透ちゃんってば酷いんだよー。もう、心が折れそう。」

「折れろ。」

辰「もう・・・もっと優しくしてよ。」

「嫌だ。」

 




何が優しくして・・・だ。
この迷惑ヤローめ。

 




木「い、いやぁ・・・世の中にはすごい人もいるもんですね。自分、まだまだっす。」

辰「そうだよー。俺も透ちゃんから学ぶことがたくさんあるもん。」

「何言ってんだあんたは。学ぶなら常識から学び直せ。」

辰「・・・折れた。完璧心が折れた。」

「ざまみろ。」

 




思い切り睨みつけてやった。

もう会うこともないんだ。
多少の失礼なんて怖くもなんともない。

 




辰「なんだよ。ヤケに反抗的だな。」

「これが地なんだよ。」

辰「へぇ。」

「あ、木戸さん停めてください。ここでいいです。」

木「え?」

「そこで買い物して帰るんで。」

 




家の近くのコンビニに差し掛かった。

色々買って帰りたい。

特に酒。
今日はストレス発散のためにガッツリ飲もうと思う。

それに、何度も家の場所を確認させる義理も無い。

木戸さんは素直にコンビニの駐車場に入ってくれた。

 




「送ってくれてありがとうございました。それと夕食もありがとうございました。気をつけて帰ってください。ごきげんようさようなら。」

辰「・・・・・・・・・・。」

 




お礼と最後の別れを一気に言い切り、最初で最後の笑顔を贈った。

さよなら変態。
それなりに元気でいろよ!

 




辰「なんか・・・思い切り突き放されたような気がするんだけど気のせいかな。」

「気のせいでしょ。それじゃ!」

辰「こらこら。買い物したら戻っておいで。危ないから家まで送る。」

「心配ご無用。どうぞお帰りください。ほら、木戸さん車をお出しして。」

木「え?」

 




あくまで家まで送ると言い張る辰巳さんを言いくるめ、木戸さんに指示を出す。

 




辰「・・・じゃぁ帰るけど。家に帰ったらメールして。」

「なんで。」

辰「心配だからに決まってるだろ。」

「はいはい分かりました。帰ったらメールしますんで。」

辰「・・・・・・・・・・。」

 




ジーッと疑いの目を向けられた後、辰巳さんは納得のいかない表情のまま去っていった。

 




「さよなら変態。・・・・・・永遠に!」

 




小さくなっていく車に思い切り手を振った。

 




「さぁさぁ!飲みますかぁ~!」

 




豪快にコンビニの扉を開け放つ。

い、いらっしゃいませぇ~
店員から引き気味の挨拶をもらう。

 




「誰か暇なヤツいないかなぁ。香織は・・・彼氏と一緒か。あ、直樹誘ってみよう。」

 




独り言を零しながら酒をカゴに入れていく。
一人じゃ寂しいので友達に連絡してみることにした。

 




「あ、直樹?今から家に来いよ。飲もうぜー!」

 




 

 

浮かれていた。

 

 




 

「別にお前のとこでもいいけど。分かった。今から行くよ。」

 




もうあいつらに会わないで済む。

そう思い込んでいた。

徹底的に逃げてやろうと思っていた。
逃げきれるという不確かな自信もあった。

 



 

浮かれていた。

 



 

私は・・・思い切り浮かれていた。

 



 

あいつらが

 




 

狂ったゲーマーだということも知らずに。

 

 

 




 

 

 

・・・・・Game・開始(完)