開始

開始—–4 GAME


辰「あ、透ちゃん。ワイン大丈夫?」

「はい。」

 




席について間もなく、頼んでもいないのにスタッフがワインを持ってきた。

それぞれの前に置いてあったグラスに注いでくれる。
そして一礼して部屋から出て行った。

 




辰「それじゃ改めて。」




 

辰巳さんが仕切る。
グラスを持ったのでとりあえず私も持ってみた。

 




辰「えーと。この子が今回、快くゲームに参加してくれることになった日下透ちゃんです。」

「・・・・・・・・・・・。」

 




おいコラ変態。
言葉が出ないんですけど。

 




辰「・・・しぶしぶ参加してくれることになった透ちゃんです。」

「・・・・・どうも。」

 




どうせなら「脅して参加させた」と言え。

 




辰「そういうことで。とりあえず、乾杯。」

 




何がそういうことなのかさっぱり分からないが乾杯した。

グラスがぶつかる心地良い音が響く。

私にとっては終了のゴングだ。
涙が出そう。

 




「やっぱり参加するの嫌だったんだ?」

「え?」




 

隣の男から声を掛けられる。

目を向けるとニッコリ笑いかけられた。

なんだか君、笑顔が可愛いね。

 




「そうじゃないかと思った。」

「え・・・」

「でも、参加してくれて嬉しい。俺、相川玲。玲って呼んでね、宜しく。」

「あぁどうも。」

 




もう一度ニッコリ微笑み、グラスに口を当てる。

 

相川玲。

明るいブラウンのさらさら髪。
女の子が憧れそうな爽やか王子系。

見た目は優しそうでちょっと可愛い。
雰囲気も他の二名と違って明るい。

ま、第一印象は一番まともに見える。

 




辰「透ちゃん、俺の名前ちゃんと覚えてる?」

「進藤辰巳だろ。」

辰「覚えてくれてて良かった。"あんた"とか"おいコラ"とか言うから・・・忘れられたかと思ってた。」

「・・・忘れたいんですけどね。」

辰「えー!」

 




忘れたくても忘れられないだろ。

あんたに会わなければ私は今頃自宅で平和にテレビでも見ていたはずだ。


進藤辰巳。

栗色の無造作ヘアー。
見た目はフェロモンたっぷりのセクシー系。

所作の全てにどことなく余裕を感じさせる大人の男。
しかし中身は究極の変態だ。

 




晋「俺の名前は?」

「晋。」

晋「・・・・高原晋だ。ちゃんと覚えろよ。」

「はぁ・・・」

 




高原晋。

漆黒の艶のある髪。
前髪から覗かせる鋭い目がいかにも雄。

綺麗な顔立ちだが風貌は男らしい。

まぁ、さっき話した感じだと明らかに俺様野獣系だな。

厳重注意が必要かと思われる。

 




辰「あぁ、ありがとう。」

ス「ごゆっくりどうぞ。」

 




スタッフが食べ物を運んできた。
ラッキー、腹が減ってたんだ。

 




玲「透ちゃん、嫌いな物ってある?」

「いえ、無いです。」

玲「良かった。」




 

玲さんが皿に装ってくれる。

グッジョブだよ君。
あぁ、そっちのパスタも宜しく。

 




玲「はい、どうぞ。」

「どうもありがとう。」

玲「全然いいよ。欲しいものがあったら言ってね?」

「遠慮なく。」

 




おー美味そうだな。
なんだか高級な香りがする。

ワインも美味しいし、せっかくだから食事も満喫しようと思う。

 




---いやいやちょっと待て。




 

(なんかこれ・・・おかしくないか?)




 

これって「ゲーム」とやらの顔合わせだろ?

つまり、「誰が一番に透ちゃんの心を奪えるかゲーム!」の集会だろ?

 




玲「美味しい?」

「・・・・・・はぁ。」




 

「ゲーム」=「心を弄ぶ遊戯」

今からそれをやっちゃおうってのに、ターゲットである私を呼んで「皆で楽しもうぜ~」的なこの雰囲気。

馬鹿みたいなゲームを思いつくのも普通じゃないけど。

このメンバーでメシ食おうぜ!って時点でもう・・・アウトだな。
救えない。




 

晋「・・・・なんだよその目は。」

辰「本当だ。どうしたの?」

 




ずば抜けた容姿に恵まれると皆こんな風になってしまうのか?

心が腐れ切ってしまうのか?

 




「・・・・・・ドンマイ。」

「「・・・・・・は?」」

 




こいつらって・・・
本当に本当に、心が病んでるんだな。

 



なんだか・・・カワイソウ。

 



とりあえず、パスタは美味いよ。

 




玲「それにしてもさ、透ちゃんってカッコイイよね。」

「え?」

 




テーブルに頬杖ついてこっちを見る相川玲。

ていうか・・・カッコイイですと?

 




玲「スマートだし背も高いし。身長何cm?」

「・・・165cmです。普通よりは高いですね。ヒール履いたらかなりでかいです。」

玲「165cm?女の子にしては高い方だね。」

晋「迎えに行った時、男かと思った。」

「は?」

 




なんだと。

 




晋「男かと思って目を向けたらお前だったんでビックリした。」

「・・・・・・・・・。」

 




あの時のビックリ表情の原因はそれか。
やっぱりお前は失礼なヤローだ。

 




玲「こんなに可愛いのに何言ってんだよ。どう見ても女の子だろ。」

「・・・気遣ってくれなくても大丈夫ですよ。実は良く間違えられるんで。」

晋「だろうな。」

「・・・・・・・・・・。」

玲「そうなの?」

「まぁ。」

 




実はそうなんです。

昔から良く男子に間違えられていたけど、大人になるに連れてエスカレート。

最近では女子に声を掛けられることもしばしば。

 




玲「そういう子が女になる瞬間って堪んないよね。」

「へ?」

玲「透ちゃんみたいな子って大好き。そそられる。」

「そ・・・・・・そそそそ?!」

玲「そそられる。」

 




えええーと。
二回も言ってくれましたけど・・・

今・・・・なんと?

 




辰「あ、透ちゃん。言っとくけど外見に騙されたらダメだよ。玲ってすっごいエロスだからね?」

「えっ!?」

玲「そんなことないよ。俺って紳士だもん。」

晋「良く言う。」

 




す、すっごいエロス・・・

こんなに可愛い顔してるのに?
さすが変態と俺様の友人。

 




辰「透ちゃん・・・今失礼なこと考えただろ。」

「・・・まぁな。」

辰「・・・正直だねぇ。」

 




とりあえず気をつけよう。

 




玲「でもさ、一人目で落ちなかった女の子って久しぶりだよね。」

晋「そうだな。」

 




エロス王子の発言に俺様が同意する。
どういう意味だ?

 




玲「もしかして・・・辰巳の体じゃ満足できなかったの?」

「ぶっっ!!?」

玲「?」

辰「あのなぁ。」




 

思わず吹き出してしまった。
良かった、口に何も入ってなくて。

ていうか----

 




「えぇえーと?」

玲「辰巳に抱かれたんでしょ?」

「は---」

辰「それが、実はまだなんだよ。でも今度する約束なんだよね?」

晋「そうなのか?」

「そんな約束してないだろ!!」

 




な・・・なななななんだこの会話は!!

 




玲「辰巳が手を出さなかったなんて。珍しいこともあるんだね。」

晋「本当にヤってないのか?あの日、家に連れ込んだんだろ?電話したら透が寝ぼけて電話に出たじゃねぇか。」

辰「それには深ーいワケがあってねぇ。」

 




(へ・・・変だ・・・・・・)

 




なんだこの「昨日のドラマ見た~?」的な軽いノリは。

本人を目の前にエッチな話・・・
た・・・堪えられない。

 




辰「あの日は大変だったんだぞ。ねぇ、透ちゃん。」

「へ?」

晋「何が大変だったんだよ。」

辰「それがさ、合コン相手のガキが透ちゃんの酒に媚薬を入れてくれてさ。透ちゃんを横取りしようとしたんだよ。」

晋「・・・媚薬?」

玲「そうなの?」

 




横取りの件は良く分からないが・・・

 




「まぁ、薬が入ってましたね。」

辰「最近のガキは危険だよ。通常の2倍の量を入れたって言ってた。」

「2倍!?」

辰「あいつが言ってたよ。」

「あのヤロー・・・」

 




そんな大量に・・・殺す気か。
そりゃ記憶も飛ぶはずだ。

 




晋「なんて薬だ。」

「Switchだと思うんですけどね。」

辰「・・・・・本人が言ってたから。それで間違いないよ。」

「え?」

晋「Switchだと?まだそんなもんが出回ってたのか。」




 

やっぱりSwitchだったのか。
あんな若者がどこで手に入れたんだか。

 




晋「おい透。しばらくアルコールは控えろ。」

「え、なんで。」

晋「Switchは残留性の高い薬だ。しかもアルコールに刺激されるケースが多い。」

辰「え。」

玲「じゃぁ・・・」

 




残留性・・・ね。

なるほど。
さっきから体がピリピリするのはそのせいだったか。

 




「大丈夫ですよ。元々薬が効きにくい体質なんで。残留程度の刺激ならなんとも無いです。」

 




大丈夫の意味を込めてワインをグイッと飲み干してやった。




 

晋「薬が効きにくい?」

「そうです。」

玲「体質なの?」

「まぁ・・・そんなとこですかね。」

辰「・・・・・・・・・・・。」

 




体質というか・・・・慣れてる。
まぁ、それを説明する理由はない。

 




「そういうわけなので。ワイン頂きます。」

 




せっかく美味いワイン出てるんだ。

とんだ茶番に付き合ってるわけだし。
遠慮なく頂きますよ。

 




辰「・・・・・・どうぞ。」

「どうも。」

 




グラスを突き出すと辰巳さんが注いでくれた。

グッジョブだよ変態。