(あーもう、気分悪ぃ・・・)
こういうのに気分が良くなる人間はいないんだろうけど…
なんだかなぁ…さっきのは無性に腹が立つ。
(ふんふんふんふん-----!)
廊下を破壊する勢いで激しく踏み歩く。
出来れば壁を殴りながら進みたい。
(あ・・・)
そういえば真樹に電話しないといけないんだった。
チッ、面倒だな…
だが無視すれば悪魔を怒らせるハメになっちまう。
これ以上大変な目に合うのはごめんだ。
自分で墓穴を掘るのだけは避けようと思う。
「帝王、帝王・・・っと。」
エレベーターを探しつつ、通話を押した。
「あ、真樹?」
真『何かあったのか。』
「・・・終わったんだよ。」
なんと、1コールで出た真樹。
もしや暇だったんだろうか。
それにしてもあれ、なんだろう。
電話の向こうで何か聞こえる。
(これはもしや・・・)
エロスの帝王、真樹。
どうやらヤツは女子に絡まれているようであります。
だって「杉浦さぁん!」なんて声が聞こえる。
真『そうか。ご苦労だったな。』
「お前は?まだ仕事?」
真『ちょうど終わったところだ。』
「そ。お疲れさん。」
真樹様もモテモテですなぁ。
ていうか女子がなんて言ってんのか聞き取れねぇ。
もっとでかい声で話せよ。
(くっそー・・・!)
こういう時ってなぜか携帯を耳に押し付けてしまうよな。
聞こえないのに。
(ていうか・・・あれ?)
それにしてもエレベーターはどこだ。
ここさっき通らなかったか?
真『どこにいる。』
「え、まだ出先。」
真『迎えに行く。』
「は?」
何言ってんだお前。
女子と一緒にいるんだろうが。
(あ・・・!)
タイミングよくエレベーターの案内看板を見つけた。
助かった。
面倒事はもうたくさんだからな。
さっさとここから立ち去りたい。
「お気になさらずにどうぞ。女の子と一緒なんだろ?私のことは気にせず帝王になってこい。」
真『あぁ?何言ってんだお前は。』
「もぉ真樹君ったら!後ろで女子の声が聞こえてるっすよー。今夜はうはうはですなぁ--」
真「----ったくしつけぇな、お前ら。」
「えっ・・・?」
あ、あれ?
今、随分近くで声が聞こえなかったか?
(---------。)
3歩ほど先に曲がり角。
そしてすぐ目の前にエレベーターの看板。
なんの変哲も無いただの看板なんだが
まるで魔界への行き先を示しているようで思わず矢印をガン見してしまう。
自然、曲がる手前でフリーズする自分。
(い、いやぁ・・・気のせいっすよね?)
別に真樹がそこにいても全然構わない。
だが修羅場に遭遇するのはゴメンだ。
"しつけぇ"って言ってたよな。
"お前ら"とも言ってたよな。
これは絶対修羅場だ間違いない。
いやでもちょっと待て。
角の向こう側、静かだぞ?
もしかしたら空耳だったんじゃ・・・
そうだ、きっと空耳だ!
大体こんなところで鉢合わせなんて有り得ないし
それに真樹が音楽会社にいるわけ---
真「悪ぃ、有希。」
「!!!!」
『有希!?誰ですかそれ!』
『杉浦さん、彼女いるんですかっ!?』
(ぎゃぁぁぁっ!やっぱそこにいるーーー!!)
間違いない!
この角を曲がったそこ!
そこにいるようです!!
しかも女子が私に興味津々じゃねぇか!
イヤだよイヤですからね!
意地でも巻き込まれたくありません!
真「おい有希、返事しろ。」
『ちょっと杉浦さんっ!聞いてるんですかぁ!?』
逃げよう・・・・・・
携帯のスピーカー部分を押さえ、そぉーっと来た道の逆送を試みる。
もちろん携帯は通話したまま。
下手に切ったら後で殺られかねない。
(抜き足差し足忍び足ーっと。)
昔の人は偉いと思う。
色んな場面に遭遇した時、ぴったりの言葉を残してくれた。
脳内では何故か暴れんぼうなあの将軍のテーマが流れだした。
将軍、出来れば馬に乗って私を迎えに来て--
『あっ!有希さん!!良かったーまだ帰ってなくて!』
「っ!!!!!!?」
突然、まるで雷でも落ちたかと間違うほどのでかい声が響き渡った。
ものすごくビビった。
あまりの驚きにリアルに飛び上がった。
(なななな、夏目ぇぇ!?)
泣きそうな顔でこっちを見てるのは、夏目。
ていうか何やってんだよお前!
静かにしてくれよ真樹にバレる!
そんな心情なんか知るよしも無く
夏目はパタパタ足音を立てて駆け寄ってきた。
『さっきは本当にすみませんでした。でもやっぱり諦め切れなくて。お願いです有希さん。もう一度考え直してくれませんか!?』
「い、いや!あの!」
バカヤロー!
名前を呼ぶんじゃねぇ!!!
とりあえず黙れ!
しー!
しーーー!!
真「・・・・・"有希"。」
(ひ、ひぃぃ・・・)
別に悪いことはしていません。
ただ修羅場に巻き込まれたくなかっただけ。
なのにすぐそばで聞こえた奴の声は
TVに登場する悪代官より全然悪そうだった。
そして角から現れたのは
やっぱり真樹様だった。