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辰「それにしても良く出来た企画ですね。」
仕事の話が一通り済んで、現在和やかな雰囲気の中のんびりワインなんか飲んでいる。
もちろん食後のワインです。
部「そう言って頂けて光栄です。なぁ日下?」
「はい。」
そして私もこの異常な場にやっと慣れた。
どうやらこの男、仕事に関してはしっかりやるヤツらしい。
第一印象があれだっただけにちゃらんぽらんな男だと思い込んでいたがさすがS社。
相当なキレ者だ。
辰「見せていただいた後、全員一致でK社さんに決まったんですよ。あんなに早く意見がまとまったのは初めてでした。」
部「それはそれは。」
辰「ですが企画を担当されたのがこんなに可愛い女性だったのには驚きました。あ、気を悪くしないでくださいね?」
「お気遣い無く。」
優雅にグラスを持ち、企画の話に華を咲かせる部長と辰巳さん。
初めのうちは何か仕掛けてくるんじゃないかとハラハラしたが、さすが出来る男。
今は仕事の仮面をかぶってるらしい。
辰「松田さんは幸せ者ですね。日下さんのような出来る部下に支えられて、羨ましいです。」
部「いやぁ。見放されないように頑張らなければ。」
部長。
あんたのことは見放さないからね。
部「それにしても、進藤さんのお噂は良く耳にしていましたが噂通りの方で驚きましたよ。まだお若いのに。」
噂?
ふーん、噂なんかされてるのか。
イケメンで変態で切れ者・・・みたいな?
それにしても・・・
こいつって一体何歳なんだろう。
見た目は余裕たっぷり大人の男だけど・・・
「恐縮ですがもう若くはありませんよ。」
少し困ったように苦笑する。
ま、どっちにしても年下に違いはないな。
直樹と同じくらいだろうか。
なんだかんだいって私も結構いい年なんで。
部「そう言ってやらないでください。うちの日下と同い年なんですから。」
辰「え!」
木「えっ!」
「え!!」
部「え?」
おおお同い年!?
部「どうかされましたか?」
辰「い、いえ。同い年だったとは思わなくて。ず、随分若く見えますね。」
「え?そ、それはどうも。」
木「・・・・・・・。」
動揺する変態。
言葉がどもっている。
木戸さんに至っては言葉も出ず。
どうやらお互いに年下だと思い込んでたらしい。
(それにしても・・・同い年だと?)
し、信じられん。
強引だしワガママだし人の話は聞かないし・・・
若いから仕方ないよねーなんて思っていたがまさかの同い年。
心も完璧に病み切ってるし・・・
出来れば並べて比べないでほしい。
気分を害する。
部「この企画は引き続き日下が担当しますのでお会いすることも多くなると思いますが・・・どうぞ宜しくお願いします。」
辰「い、いえ。こちらこそ宜しくお願いします。」
「こちらこそ。」
何がショックだったのか分からないが変態はまだ動揺から立ち直れない様子。
焦りを隠すように頬に手を当てている。
木「遅くまで付き合わせてしまいましたがお時間は大丈夫ですか?」
部「え?あぁ、もうこんな時間ですか。夢中になって忘れてました。」
辰「本当ですね。それでは今日はこの辺で切り上げましょうか。」
部「そうですね。」
ナイスなタイミングで木戸さんが声を掛ける。
さすが運転手。
帰り時を知り尽くしているようだ。
「今後とも宜しくお願いします」
お互いに挨拶を交わし、席を立った。
(お、終わった・・・・)
なんとか乗り切った。
話した内容は仕事のことだけだったが精神的に疲れた。
部長と辰巳さんはあれこれ話しながら出口へ向かっていく。
少し後を木戸さん。
そしてその後から歩いていく。
木「疲れてませんか?」
「・・・・・・・・。」
不意にこっちを振り返る木戸さん。
にっこり笑いながら声を掛けてくる。
「大丈夫ですよ。仕事ですから。」
なんとなく深い意味で聞かれたような気がしたので・・・
仕事ですから、を強調して言葉を返した。
もちろん営業スマイルと一緒に。
部長と辰巳さんから少し遅れて外に出る。
当たり前だが辺りは真っ暗。
すっかり夜だ。
部「今日は本当にありがとうございました。」
辰「こちらこそありがとうございました。」
部「それでは失礼致します。日下、行こうか。」
「はい。」
最後の挨拶を済ませる。
そして・・・さぁ帰宅だ!
さっさとずらかろう。
辰「松田さんはお車ですか?」
部「いえ、タクシーですよ。」
タクシー呼びますねと部長に告げ、携帯を取り出した時。
辰巳さんから声が掛かった。
(・・・・・・・・・・。)
なんだか・・・・
嫌な予感がするんですけど。
辰「宜しければお送りしましょうか?」
部「え?」
辰「木戸に送らせますので。」
(な・・・なんだと!?)
やはり来たぞ嫌な予感。
これって何。
部長がOKしたら私も~みたいになる感じ?
でも送っていくって・・・
木戸さんもワイン飲んでなかったか?
それって飲酒運転じゃん。
(木戸さんもワイン------)
そういえば・・・飲んでなくね?
一人だけ違うのを飲んでたような・・・
さすが運転手。
いやいやちょっと待て!
ダメだぞ部長!
断って!
絶対断ってくれよ!
部「いえいえ!そんなご迷惑は・・・・」
イエース!
グッジョブ部長!!
「そ、そうですよ。さっさとタクシー呼びますね!」
焦る、とことん焦る。
日下さんも良かったら~みたいな展開になるのはゴメンだ。
マジでさっさとタクシー呼ぼう。
そしてさっさと帰ろう。
辰「迷惑だなんてとんでもない。もう少しお話出来ればと思っていましたので。」
部「そ、そうですか?では・・・遠慮なく。」
(部長ォーーーーー!!)
あっけなく折れてしまった部長。
もう少し遠慮しろー!
木「日下さんも良かったらどうぞ。ついでですので。」
「・・・・・・・・・・・。」
やっぱり来た。
やっぱりこうなるよね。
部「そうだ日下。お前もお言葉に甘えたらどうだ。一緒に帰ろう。」
(一緒に帰ろう・・・・・・ってあんた。)
木戸さんに送ってもらうってことは変態も一緒の車に収容されるってことで・・・
それにこの場所からだと先に降りるのは・・・
やっぱ部長だよな。
うん。送ってもらうなんて絶対ダメだ。
「私は結構です。ここから遠くありませんので。あ、ちょうどタクシーが----」
辰「遠慮しないで下さい。それにタクシーと言っても夜に女性一人で乗るのは危険ですよ?」
「・・・・・・・・・・・。」
ニコッと綺麗な笑顔を送ってくる。
なんて白々しいヤローだ。
「危険ですよ・・・・」だと?
お前と一緒の方がよっぽど危険だろうが。
送ってもらうなんて・・・絶対ダメだ。
「お構いなく。大丈夫です----」
部「進藤さんは紳士ですねぇ。私も見習わなければ!」
「・・・・・・・・・・・・。」
部長に言葉を遮られた。
故意・・・ではない。
このウットリとした目。
どうやら変態のフェロモンに当てられてしまったと考えるのが妥当だろう。
変態だが外見はかなりのいい男だからな。
しかも仕事も出来るとなると自然、同性からも憧れの目で見られるのも納得がいく。
いやいや分析してる場合じゃない!
「ああああのちょっと----!」
部「もしや日下、照れてるのか?進藤さんがあまりにもカッコイイから。」
「違います!」
部「日下にも女性らしい一面があるんだな。知らなかった。」
「あのですねぇ!」
まさか酔っ払ってるんじゃないだろうなこのおっさんは!
何に納得してるのか知らんが笑顔でうんうん頷いている。
どうでもいいが送ってもらうのだけはダメだ!
[タクシーで帰ります!引き止めるな!]
必死でジェスチャーを送る。
頼むから察してくれぇぇ!!
辰「仲がいいんですね。職場が楽しそうだ。さ、どうぞ?」
「え・・・・」
部「あ、すみません。宜しくお願いします。」
いつの間に持ってきたのか。
目の前には見慣れたあの車。
木戸さんの・・・いや変態の車だ。
辰「日下さんもどうぞ?」
「・・・・・・・・。」
変態により開けられた後部座席のドア。
部長は素直に乗り込み、私が乗るのを待っている。
「・・・・・し、失礼します。」
・・・・・断れない。
ここまでされたら断れないじゃないか。
これ以上ごねたら部長に変に思われてしまう。
辰「大丈夫ですか?閉めますよ?」
「・・・・・・・・・はい。」
最後まで部長にサインを送ってみたが無駄な足掻きだった。
「いい車ですねー!」なんて、木戸さんと車トークに夢中な様子。
----パタン。
車のドアが閉められた。
トンッ・・・と感じたその衝撃が
ヤケに大きく感じられた。
---逃げられると思った?
そう言われたような気がして。
ぞわぞわーっと悪寒が走った。
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