スポンサーリンク
「じゃ、行ってきまーす!」
香「行ってらっしゃい。頑張ってね!」
「おお!」
勤務終了。
元気にカバンを持って立ち上がる。
香「帰る時に辰巳さんに会ったら伝えててあげるよ?」
「いーのいーの。見かけても無視しとけ。」
香「もう・・・」
「じゃぁな!」
香織の親切もスルーして職場を後にする。
通路には仕事を終えた連中が帰宅し始めている。
本来なら「羨ましい・・・」と思うはずなんだが今日の私は違う。
『あれ、透さん。今日は一人で帰るんですか?』
「ん?あ、直樹。お疲れさん。」
前から歩いてくる背の高い男子。
この前飲みに付き合ってもらった直樹。
部署は違うが会社の仲間だ。
二つ年下の可愛い後輩でもある。
「今日は今から企画の顔合わせ。だから香織とは別。」
直「今から?大変ですね。」
「大変なもんか。むしろお礼を言いたいくらいだ。」
直「は?」
いいのいいの。
意味が分からなくても。
「ところでこの前はありがとうな。付き合ってくれて。」
直「全然いいですよ。また飲みたくなったら誘ってください。」
「あぁ。ありがと。」
直「そうだ。美味しいトコ見つけちゃって。今度一緒に行きません?」
「おー、行く行く!」
直「良かった。じゃぁまた連絡しますね。」
「了解。」
いつがいいかなーなんて言いながらニコニコ笑う後輩。
可愛いヤツめ。
こいつとは香織も一緒に良く飲み食いする。
まぁ、弟みたいな存在だな。
部『日下!そろそろ出るぞー!』
「あ、はーい!じゃぁな直樹。」
直「頑張って下さいね。」
「サンキュ!」
後ろ手に手を振って部長の元へ走った。
部「・・・・・何をやってるんだ?」
「・・・・・・・気にしないで下さい。」
呼んでいたらしいタクシーに乗り込む。
変態がいたら顔を見られたくないので、会社を出るまでカバンで顔を隠してみた。
部長に変な顔を向けられる。
「あ、ちょっと失礼します。」
カバンの中の携帯が震える。
メール・・・・香織からだ。
香織
---------------------
今帰りなんだけど辰巳さんいなかったよ。
気が向いたら連絡しときなさいね!
---------------------
どうやら変態は来ていなかったらしい。
勝手にするとかなんとか言ってたくせに案外ヘタレだな。
もしやこの前のでリアルに心が折れたか。
ま、あんなヤツのことなんかどうだっていい。
部「それにしても、やっぱりお前はいい働きをするなぁ。」
「へ?」
マナーになってることを再度確認して携帯をしまう。
しばらくして部長から話しかけられた。
部「あんまり目立つことはしないがやること成すことしっかりこなすし・・・今回の企画ももしかしたらと思ってた。」
「そ、そうですか?そう言ってもらえると嬉しいです。」
部「他の部の部長からも頻繁に引き抜き希望が出るんだぞ。」
「え。」
部「だがお前は絶対渡さんからな。俺の元で頑張ってくれ!」
「ぶ、部長ーーー!当たり前っすよ!着いて行きますよー!!」
な、なんだよ部長!
そんなに私のことが好きだったなんて---
なんだか嬉しいじゃないですか!
部「よし!じゃぁ・・・行くか!」
「オス!」
S社の人が待っているであろう目的地に到着。
タクシーを降り、部長と共に出陣する。
「それにしても綺麗なところですね。高そう・・・」
目的地はビックリするくらい綺麗なヨーロピアーンなお店。
喉乾いたからコーヒーでもどう?って雰囲気じゃない。
どう見てもディナーでもどう?って感じの店だ。
夕飯食べながら語り合いましょうよってことなんだろうか。
部「まぁ、相手はあのS社だからなぁ。ランクが違う。」
「そうなんですか。」
部「知らないのか?」
「あんまり知らないです。うちの会社がうまくいけばそれでいいんで。」
部「日下・・・・お前ってヤツは!」
袖で涙を拭くフリをする部長。
ていうかそういうキャラだったんですね。
なんだか親近感が沸くというか・・・
今までコーヒーばっかり飲んでる仕事しないおっさんだとばかり思ってました。
『いらっしゃいませ。松田様でございますか?』
部「はい。」
『こちらへどうぞ。』
部「どうも。」
---松田様でございますか
ご丁寧な言葉遣いに背筋が伸びる。
こりゃかなり敷居の高い店に違いない。
案内のスタッフもビシッとスーツを着こなしている。
(うわわわ・・・)
スタッフと部長に続き二人の少し後を歩く。
店内は期待を裏切らない様子だった。
とにかく全てがピカピカに輝いている。
それにしても・・・
こういう店に来る機会って皆無だからな。
肩が凝りそう。
『こちらです。』
広いホールにたくさんテーブルが並んでいたが、そこを通り過ぎると個室が並んでいた。
その一つの前でスタッフが止まる。
どうやら着いたらしい。
コンコンと扉をノックすると中から「どうぞ」と返事が返ってきた。
相手は既に到着していたようだ。
『ごゆっくりどうぞ。』
部「どうもありがとう。」
部長はスタッフに微笑み、開かれた扉を潜っていく。
私も後に続いて部屋に入った。
さてさて。
頑張って仕事に取り組みますかぁ・・・・
「-------------はっ!?」
思わず
叫んだ。
部「日下?どうした?」
「い、いえ・・・すみません。なんでもありません。」
なんでもない。
わけが無い!!
(なななな・・・なんだ!!?)
目の前にはS社の人と思われる人物が2人。
私達が到着したことで席を立ち、笑顔でこっちを見ている。
(ゆ----夢か?)
目の前にはここにいるはずのない・・・
いや、今日は絶対会いたくないヤツが立っている。
そう・・・・
憎き天敵-----変態辰巳だ!!
辰「どうかされましたか?もしかして体調が優れないとか。」
「・・・い、いえ。大丈夫です。」
辰「そうですか?」
「・・・・・・・はい。」
夢か・・・?
やっぱ夢だよねー。
いや本当に夢か!?
ほんの2、3秒の間に頭の中で何度も繰り返された問答。
あまりの衝撃に動けないでいると声を掛けられた。
どうやら----夢じゃないらしい!
『気分が悪い時は遠慮無く言ってくださいね?』
「え?は、はい・・・そうさせて頂きま---っ!」
部「日下?」
「いいいいえ!なんでもないです!」
辰巳さんの隣に立っている男性に話しかけられ、ふと視線を向けると-----
本日二度目の衝撃。
(き・・・木戸さん--------!!)
そいつは・・・運転手の木戸さんだった。
あんた、親切な運転手じゃなかったんだな。
ちゃんと仕事してたんだ・・・
じゃない!
(な、なんだよこれ・・・・・)
辰巳さんと木戸さんは笑顔、部長は心配そうな顔でこっちを見ている。
有り得ない・・・
有り得ないだろこの状況・・・
夢なら覚めろー!と心の中で叫びながら部長の隣に向かった。
辰「初めまして。S社の進藤辰巳です。どうぞ宜しくお願いします。」
部「こちらこそ初めまして。K社の松田誠です。どうぞ宜しくお願いします。」
(おいおい・・・・マジでS社のヤツなのかよ。)
部長の隣に到着すると名刺交換が始まった。
もしかして案内のスタッフが部屋を間違ったんじゃ・・・なんて淡い希望を持ったがあっけなく砕かれる。
辰「宜しくお願いします。」
そして名刺交換はもちろん私の順番だって回ってくるわけで・・・
チラッとヤツを見ると相変わらずの笑顔。
この綺麗な笑顔の裏で何を考えているかなんてさっぱり分からない。
(もう・・・こうなったら・・・・)
ヤケだ。
仕事は仕事だし
なんとかこの場をやり過ごすしかない。
「・・・日下透です。宜しくお願いします。」
なんとか声を引っ張り出し
営業スマイルで応戦した。
スポンサーリンク