初体験

初体験—16 GAME






『あのさ透ちゃん。

 俺・・・透ちゃんと付き合っていく自信が無い。』








 え?








『ごめん。』

 なんで?好きな女でも出来たのか?

『違うよ。』

 じゃあなんで---



『透ちゃん、俺のこと好き?』

 す、好きだぞ。

『本当に?』

 ああ。







『それじゃ今からエッチしよう?』







 えっ・・・







『・・・やっぱりダメなの?』

 そ、それは・・・

『・・・』

 ・・・ごめん。





『理由は?』

 え

『エッチできない理由。』

 ・・・

『それもやっぱり言えないの?』

 ・・・ごめん






『はぁ・・・』

 ・・・

『あのさ、透ちゃん。どんな理由があるのか知らないけど・・・』

 ・・・

『彼女に拒否されるのは辛いよ』

 ・・・









『ごめんだけど・・・透ちゃんとは一緒にいられない。』

























「・・・・・・・・チッ」














思わず、舌打ち。







「あー・・・くそ。」







ため息と一緒に布団に抱きつく。

どうやら体が強張ってたらしい。
温かいそれに体の緊張がとける。







「・・・朝、か?」







なんとなく空気が冷たいけど今何時?

ていうかすっげぇ眠い。
熟睡できなかった。







「----はぁ。」







久しぶりに、嫌な夢を見た。







2年前に別れた元彼の夢。







いいヤツだった。

3ヶ月くらいの付き合いだったけど、明るくて優しい男だった。







でも、コロッとフられた。







理由はアレだ。







エッチが出来なかったから。

そして出来ない理由を話せなかったから。








「----チッ」







再び舌打ち。

正直言っていい気分ではない。

出来れば思い出したくない過去だからな。
もっと出来れば記憶から消してしまいたい。






「チッ・・・・・チッチッチッチッくそっ!」






なんだかなぁ・・・

どんどん気分悪くなってきた。





大体、恋人同士ってのはエッチしないといけない決まりでもあるのか?

世の中にはエッチが苦手な人間だっているんだ。
だったらエッチしないカップルがいてもいいんじゃないか?






一緒にいるとホッとして

ずっとこいつの傍にいたいなぁとか
こいつのこと大切だなぁとか

そういう「想い」があれば十分なんじゃないのか?







「---------。」







(ま、今時そんなカップルいないよな。)






彼女なのにエッチを拒否。
しかも理由はシークレット。

誰だってそんな彼女はお断りだよ。

そりゃフられるわ。







「あーもう終わり!やめだやめだ!」







無理矢理思考を追い出した。


朝っぱらからネガティブシンキングはやめよう。

彼氏いなくても生きていけるし
エッチ出来なくても生きていける!


とにかく今は---







「二度寝しよ・・・眠い。」







マイラブリー布団にぐりぐり顔を埋めた。






「私の味方はお前だけだー。ずっと傍にいろよ・・・ふぁ・・・」






休日の二度寝って極上の贅沢だよね。

あーあったかい。

あーシアワセ---











---ぎゅっ












「・・・、・・・?」









・・・・え









----え?









(な、なんだ今の。)







抱きしめていた布団が

私を抱きしめ返してきた。








(・・・・・・?)





有り得ない現象に少々焦る。

とりあえず五感を総動員。
全神経を集中させる。






(う、うーん・・・?)






布団を撫で撫でやってみる。

あったかくてスベスベだけど・・・
なんだこれ、布団じゃなくね?



それに頭と腰に絡まるコレはなんだ。

これじゃまるで何かに包まれているような---






(なな・・・なんだ?何が起こってるんだ?)






怖い、確認するのが怖い。

だが、恐る恐る目を開けてみ---







「---っ!?」







ビックリした。

すっげぇビックリした。







なぜなら目の前に







綺麗な、鎖骨。







「え----えっ?」







背筋が凍りそうだ。







だって、なんで鎖骨?







まるで狐に抓まれた気分。

出来れば放心したい。

だが---







「-----っ」







頭に置かれた手をそーっと掴むと・・・

おお、拘束が解けた。

腰の手は---ダメだ、離れない。






(ま、まぁいい・・・)






とりあえず上半身だけでもいい。

背中を反らし、じわじわと距離をとる。

そして胸板の持ち主をチラ見---








「えっ・・・!」








(なな、なんだこりゃ!)








見上げた先には








天使がいた。








(天使!?いや、し、し、晋!?)







ビビる、普通にビビる。

なぜなら常に何かを狙ってるような鋭い目は閉じられ
いつもキリッと引き締まってる唇は半開き

なんて無防備。
なんて天使。

殴りたくなるくらい可愛らし--








いやいや天使なんてどうでもいい!








「-----!? ぎゃぁぁぁ!!」






叫んだ。

こっそり抜け出すつもりだったが叫んだ。

だってもうビックリマックス。

服が・・・服がありません!!






(ひぃぃぃぃ!)







バサバサッ!!


すかさず本物の布団を引き寄せしがみつく。

どうやらアイアム真っ裸。
ちなみに下は履いてるようだが晋も上半身は裸族!






「なななんで晋!?なんで晋が私の家にいるんだ!?なんで------あれっ!!」






良く見たらここって私の部屋じゃない!

シーツも枕もふわふわだし、真っ黒だし!






「おおおちおち落ち着け!」







とにかく落ち着け。
そして思い出せ。

なんで晋と一緒に寝--










(は-------っ!)










雷に打たれたとは正にこのことだ。







そして思い出した。

ドバッと思い出した。







なんで晋が目の前にいるのかも

なんですっぽんぽんなのかも







全部ごっそり思い出してしまった。







「え、えぇ---」







ショックのあまり、体が硬直。







思い出さなければ良かった。

今からでも「夢」だったと思い込みたい。







だがダメだ。







目の前の天使と

そして自分の体が叫んでる。







昨日のアレは「現実」だと---







(ウソだろ・・・)







目の前が真っ暗になった。



巻き戻したい。

頼むから時間よ巻き戻ってくれ。







「おおおいコラ放せ!離れろ!」







とりあえず現実逃避は後だ。

ひとまずこいつから離れたい。
そして服を着たい。






「力緩めろー!」






腰に絡まる腕を引っ張った。

が、離れない。

もしや起きてる?
いやでも天使だし・・・






「可愛い顔向けるなバカ!くそ・・・放せよコラ!」






寝てるくせになんでこんなに力んでるんだ。

やっぱり起きてんのか天使ヤロー!






「いててて---こ、腰が・・・」






体をひねると腰に鈍痛。

思えば体中が気だるい。
まるで部活直後のコンディション・・・







(最悪だ---)







もう、マジで最悪だ。







だって・・・またヤっちゃった。







こんな短期間に2人もの男と
しかも彼氏でもない男なのに・・・








「くそっ・・・」








なんでだろう。







罪悪感に襲われる。







別に悪いことをしてるわけじゃない
誰かに迷惑かけてるわけじゃない


なのにとっても悪いことをしてしまったような


そんな感覚に陥る。









---罪悪感









それは多分、昨日の自分のせいだ。







強引に迫られたとはいえ
逃げられなかったとはいえ







快感に溺れて、流されそうになった。







好きでもない相手との行為なのに・・・







(ふざけんなよ---!)







心の中で悪態を吐く。







ひとつは快感に敏感な自分の体に対して







そしてもうひとつはもちろん







「ゲーム」という異常な状況に対して。







「なにがゲームだ!!」







だんだんイライラしてきた。

今まで溜め込んでた怒りがドカンと込み上げてきた。







だって、だって







なんで私がこんな目に---!







「いい加減放せバカ!アホ!俺様!」







未だ離れてくれない腕。


寝顔に向かって文句垂れる。

だが反応なし。
相変わらず天使な俺様。






「よーし分かった!そういうつもりなら覚悟しろよ!」






こうなったら裏技だ。

その無防備なおでこに一発---







「食らえ-------あ!」







あ!







「起きたか!」
晋「・・・。」







迷惑そうに開かれた真っ黒な瞳。

どうやらやっと目覚めたようだな!







「てこずらせやがって!コラ!さっさと手ェ退けろ!」
晋「・・・。」
「聞いてんのか!放せ!ほら!」



晋「・・・・・・寒い。」



「え!?おいコラー!!目ェ覚ませぇー!」







しばらくこっちを見つめていた晋。

ギュッと眉間にシワを寄せた瞬間---






「なんで抱きついてんだー!離れろって言ってんだろ!!」
晋「眠い・・・」
「寝てもいいから離れてくれぇーー!」
晋「・・・朝からうるせェな。」
「なんだと!え、ちょ・・・ぎゃぁぁ!!?」






朝に弱いのか。
どうやら寝ぼけているらしい俺様。






いやいやそんなことはどうでもいい!







「きき、貴様ァッ!」







音にするなら「むぎゅっ☆」







その音の通り。

なんとこの俺様・・・







私のぷりぷり生尻を鷲掴みやがった!







「食らえ天誅ッ!!」

晋「-----ってぇ・・」







懇親の一撃。







無防備な脇腹に怒りの鉄拳を食い込ませた。