初体験

初体験—06 GAME




「・・・・・。」
晋「・・・・・・・・。」
「・・・・・。」
晋「・・・・・・・・。」






言葉も無い。
正に放心状態。





だって・・・





なんで晋があいつを・・・?






「なんで・・・」
晋「?」
「なんで知ってる?」
晋「は・・・」






放心から戻ってなんとか声を出した。

出来ればとぼけてスルーしたい話題だがそういうわけにもいかない。






「まさか・・・アイツと知り合いなのか?」
晋「・・・お前が言ったんだろうが。」
「-----は?」
晋「この前、お前が俺をそう呼んだ。」
「え?」






私が?
お前を?






「よ、呼んでない!」
晋「呼んだ。」
「呼ぶわけないだろ!」
晋「・・・・・・。」






なんで黙るんだよ!






晋「透。」
「な、なんだ!」









晋「シノブってのは、俺じゃないのか?」




「は---?」








な、何を・・・








「お前は、晋だろうが。」








まさか偽名?







晋「トラウマ・・・」
「・・・トラ?」






タイガー?







晋「はぁ・・・」
「?」






目を閉じ額に手を当て深く溜め息をつく晋。

緊張の糸が解けたようにポスッと背もたれに埋もれた。




いやいや待てコラ。

自分だけリラックスするな!






「全然意味が分からん。ちゃんと説明しろよ。」
晋「------。」
「おい!」
晋「------。」






全く反応無し。

まただんまり決め込むつもりか!?






「晋。」
晋「・・・・。」
「説明しろ、頼むから。」
晋「・・・・。」
「晋!」
晋「・・・・。」






くつろいでるところ悪いけど・・・
ちゃんと答えてくれないと困るんだよ!





もし晋とアイツが知り合いだったら

もし晋とアイツに接点があるのなら







アイツが







近くにいる









---ゾクッ!









「-------っ!」
晋「!」







全身に寒気が走った。







「い、言えよ!」







怖い・・・

だが怯んでる場合じゃない。





とにかく、晋はアイツの名前を知ってた。

つまり「知り合い」じゃないにしても「知ってる」のは間違いないはずだ。






「さっさと言った方が身のためだぞ。白状するまで絶対引かないからな!」






気を取り直して対面する晋の下へ向かう。

そして目の前に立ち、上から思い切り睨んでやった。



さあ言え。
お前はアイツの何だ!







晋「俺は---」
「お、おぅ!」
晋「シノブなんて知らねぇ。」
「-----とぼけるなっ!!」






そんなわけあるか!






「自分で名前言っといて知らねぇだと!?名前を知ってるってことはな!そいつのことを知ってるってこと---」


晋「------------寝言。」


「あ!?」

晋「お前が寝言で呼んでた。」







寝言。

寝言だと!?







「嘘だ!そんなのに騙されるか!」
晋「嘘じゃねぇ。」
「私は寝言は言わない派だ!」
晋「この前は言ってた。」
「そんなの---」






---そんなの有り得ない!!






とは言い切れなかった。




そういえばあの日・・・

アイツの夢を見たぞ。




で、でもまさか寝言なんて・・・ねぇ?

寝言言うなんて言われたこともないし?






「あ、あの・・・マジで言ってた?」
晋「・・・ああ。」
「ち、ちなみになんて・・・?」
晋「・・・・・・・・・。」
「さ、差し支えなければ教えてくれ。」






一応確認しとかないとな・・・

そして出来れば間違いであってくれ!








晋「・・・・・・シノブなんか大嫌い。だったと思う。」

「!」








(う、嘘だろー!)






まま間違いない。
信じたくないがそいつは私の寝言だ!


てことはなんだ?


①寝言説は事実
②晋とアイツは無関係。

つまり----






③私の早とちり?







「------。」
晋「・・・・・・。」







どうしよう。
すっげぇ恥ずかしい。







「ご、ごめん。知らないうちに言ってたみたいだ。」
晋「・・・・・・。」
「申し訳ない!」
晋「・・・・・・。」






返事無し。

とぼけるなだの騙されるかだの散々言っちゃったからな・・・

やっぱ・・・怒ってる?






「し、忍ってのはその---昔の友達なんだよ!」
晋「・・・・・。」
「晋も知ってんのかなーと思った!で、でもまさか寝言で呼んだとはなぁ。さすがにビックリ!」
晋「・・・・・。」
「ほほ、ほんと悪かったなゴメン!この話はもう終わりにしような!---な!!」
晋「・・・・・。」







目を逸らして全力で言い訳した。

とぼけないとやってられない。
そして穴があったら埋められたい。






「・・・・・。」
晋「・・・・。」






じ、実に気まずいぞ。
お願いだから何か言ってくれ。






晋「はぁ・・・」
「ぅっ・・・」






溜め息と共に立ち上がる晋。

急に逆転した身長差。

チラッと見上げると相変わらず鋭い視線。
見下ろされる威圧感に後ずさりしてしまう。







晋「なぁ。」
「な、なんでしょう!」
晋「マジで・・・怖くねぇんだな?」
「え。」






な、なんだ?







晋「俺が触っても、怖くねぇんだな?」







な、なんだ。
またそのことかよ。






「だから怖くないって言ってんだろ。」
晋「・・・。」
「本当だって。何度も言わせる・・・な・・・」








言葉が失速してしまった。








なぜなら








ヤツの手がゆっくり近づいてきたから。








「し、晋?」
晋「・・・・。」







睨みつけるような視線はそのまま。

でもなんとなく揺れてるような
少しだけ緊張してるような

そう見えるのは気のせいか・・・?







そしてヤツの大きな手が








頬に、触れた。








(な、なんだ・・・?)







さっきと同じだ。

目も逸らせない。
体も動かせない。

そんな不思議な時間が流れる。







でもさっきと違うのは---








晋に、体を引き寄せられたこと。








「え・・・」








片方の手は頭の後に
片方の手は背中に

そして静かに優しく、力が篭った。







これはもしや・・・







抱きしめられているのか?








「な・・・えっ!?ちょ!おい!コラ!」








焦る、普通に焦る。







「ななっ、何やってんだ!放せ退け離れろ-----ぎゃぁっ!」







思い切り突き飛ばした。



つもりだった。

さっきの静かな抱擁は幻か。

突き飛ばしたと思ったら今度はとんでもパワーで抱きしめられた。




いやいやそんなことより---







なんか近い!!







「ちょ---なんで抱きついてんだよ!!」






意味が分からない。

なんでどうしてここで抱擁!?






晋「なんでって・・・なんとなく。」
「ふ、ふざけんな!さっさと離れろ!」
晋「・・・うるせぇな。」
「んだと!?」






適当なこと言いやがって!
なんとなくで抱きつかれて堪るか!


ていうか---

やっぱりなんか近い!






「マ、マジで離れろ!離れてくれ!」
晋「・・・・イヤだ。」
「このっ---いい加減にしなさい!」
晋「・・・・・。」






無言の抵抗のつもりか。
腕にぎゅっと力が入った。

ワガママ小僧かお前は!






「ちょ・・・てめェ調子に乗るなよ。ドサクサに紛れて何してやがる。」
晋「大人しくしてろ。」
「なんだと。」
晋「・・・・。」
「コラ!」






動けないことをいいことに首元に顔を埋めてきやがった。

さらに髪に指まで絡ませてくる。


図に乗りやがって・・・
いい加減にしないとマジで怒るぞ!






「晋---」
晋「もう少し。」
「だから---」

晋「もう少しだけ、じっとしてろ。」

「---!」







まただ。







抱きしめる腕に、力が篭った。







(ど、どうしたんだこいつ・・・)






行動がヤケに熱っぽいけど・・・

もしかして具合でも悪いんだろうか。
それとも急に人肌恋しくなったとか?







(そ、それにしても・・・)







気付かなくて良かったのに

いや、気付かなければ良かったのに






嫌でも気になることが、一つ。









---晋の触れ方が、優しい。









(ちょ、ちょっと・・・なんで?)







---荒々しい。






一言でいえばこれだ。
この前は正にそんな感じだった。



なのに今は?



髪を撫でる手も
体を引き寄せる腕も

大切なモノに触れてるかのように柔らかくて
傷つけないよう包みこむように優しくて







これじゃまるで








好きな女に触れてるみたいじゃないか。









晋「透・・・」

「---っ!」








ただ名前を呼ばれただけだ。








なのに---








不覚にも、ドキッとしてしまった。