スポンサーリンク
『お待ちしておりました相川様。こちらへどうぞ。』
玲「ありがとうございます。あ、透ちゃん、足元気をつけてね。」
「どうも---」
今日は朝からアンティーク尽くしだった。
この流れだとまさか食事も---
なんてビクビクしてたんだが
---かぽーん
(おお・・・!)
着いた店はとってもジャパニーズだった。
玲「あ、アレってなんだっけ?」
「鹿おどしのことですか?」
玲「鹿おどしっていうの?透ちゃんすごい。よく知ってるね。」
「そ、そうですか?へへっ。」
この褒め上手め。
大した知識じゃないと思うが誉められると調子に乗ってしまう。
『本日はお越し頂き誠にありがとうございます。後程お料理をお持ちします。しばらく食前酒でおくつろぎ下さいませ。』
玲「はい、ありがとうございます。」
「・・・どうも。」
高級そうな店だなと思ったが実際そうなんだろう。
部屋に通されると女将さんらしきお上品な女性に深々と頭をさげられた。
なんとなく居心地が悪い。
(それにしてもいいわー)
通された部屋は小さな個室。
腰を下ろすと畳の感触がやけに落ち着く。
やっぱ日本人は畳だよねぇ。
そして見所は、アレ。
玲「綺麗だね。」
「そうですね。」
開け放たれた障子から見える和の中庭。
あいにく月は出てないが、ライトアップされた庭はしっとり輝いていてとても美しい。
今日はガッツリ疲れたからな。
テーブルに頬杖つきながらボーっと小さな自然に見とれる。
玲「透ちゃん。」
「んー?」
玲「はい、これ持って。」
「え?ああ・・・」
食前酒か。
中庭から視線を戻すと目の前にお猪口を差し出された。
「どうも。」
玲「日本酒飲める?」
「ガンガン飲めますよ。ほら、玲さんも。」
玲「いや、俺は運転があるから--」
「代行で帰ればいいじゃないですか。せっかくだから、はい。」
玲「じゃあ・・・ありがと。」
乾杯、と猪口を合わせて酒を流し込んだ。
あーこりゃうまい!
一日の疲労を洗い流してくれるようだよ。
玲「透ちゃんってお酒強そう。」
「普通ですよ。玲さんは飲める方なんですか?」
玲「結構飲めるかも。」
「ふーん。」
(うわ・・・)
きゅっと飲み干し下唇を舐める玲さん。
なんでだろうその仕草・・・
王子のくせにすごくエロい。
玲「そうだ。ねぇ、透ちゃん。」
「なんですか?」
玲「あのさ・・・"さん"はやめてよ。」
「え?」
玲「さん付けで呼ばれるのって苦手なんだ。出来れば呼び捨てで呼んで?」
「え・・・」
ね?と軽く首を傾げる玲さん。
そして酒を勧めながら悩殺スマイル。
そんな笑顔を向けられて断るバカがいるだろうか、いやいない。
じゃなくて。
「えーとそれじゃ---玲、くん。」
玲「え?」
「いや・・・呼び捨てって感じじゃない気がして。」
玲「・・・。」
正直呼び方なんてどうでもいいんだけども。
仲良く付き合っていくつもりもないし
今日でさよならかもしれないし
でもなんとなく
呼び捨ては違うかなって気がする。
玲「玲くん、か・・・」
「ん?」
ふと、王子の表情が曇った。
ような気がした。
玲「玲くんなんて、くすぐったいね。」
「え?」
玲「でも、透ちゃんにそう呼ばれるのって居心地いいかも。」
「そ、そうですか?」
玲「うん。」
ふわふわ笑う玲・・・くん。
どうやら気分がいいらしい。
玲「あ、それと敬語もやめてね?」
「え?」
玲「俺たち、同い年みたいだし。」
「ああそっか。じゃあ、分か---った。」
うん、と言って目を細める玲くん。
そしてお猪口に口をつけた。
それにしても・・・
すっかり忘れてたが王子も同い年だったな。
笑顔が可愛いからか人懐っこいからか
どの角度から見ても年下にしか見えない。
「そういえば玲くんってさ。」
玲「ん?」
「ヨーロッパ文化が好きなのか?」
玲「え?なんで?」
「なんでって・・・」
あれだけアンティーク尽くしだと誰でもそう思うだろ。
それに真剣に展示物を見てたからな。
玲「気になる?」
「ん?」
玲「俺のこと、気になる?」
「え・・・」
(うっわ・・・)
さっきの可愛い笑顔から一変。
イタズラっぽくきゅっと上がる口角
そして妖しく細められた挑発的な目
玲くんのことを何も知らなかったらと思うと寒気がする。
予習無しでこんな顔向けられたら・・・
さすがにコロッと恋に堕ちたかもしれない。
だがしかし---
小悪魔王子め。
私は騙されんぞ。
「別に気になるわけじゃない。ただ聞いてみただけ。」
玲「・・・。」
軽く流した。
ついでに日本酒も喉に流した。
玲「なぁんだ。やっと興味持ってもらえたと思ったのに。」
「残念だったな。」
玲「透ちゃんって本当に面白いよね。」
「そうか?」
玲「俺、女の子にこんな扱いされるのって初めて。」
「ふーん。」
私も女避けに使われたのは生まれて初めてだ。
玲「ねぇ透ちゃん、聞いてくれる?」
「なんだ?」
玲「俺ね、インテリアをデザインする仕事をしてるんだ。」
「インテリアのデザイナー?」
玲「うん。」
いきなり話が変わったな・・・
ていうかデザイナーか。
今まで接触したことのない職種だな。
どんな仕事するんだろ。
玲「今度の仕事がさ。ヨーロッパを基にしたアンティークレストランのデザインなんだ。」
「へぇ、すごいな!レストラン作っちゃうのか?」
玲「デザインだけだけどね。」
「それでもすごいじゃないか。デザイナーだなんて・・・なんだかカッコいい。」
職人さんって感じ。
玲「そうかな・・・ちなみに今日はそれの情報収集。」
「ほう。」
玲「だから別にヨーロッパ文化に興味があるわけじゃないよ。」
「ふー---------------ん?」
玲「え?」
きょとん、としてるけどちょっと待て。
今なんて言った?
「情報収集?」
玲「うん、すごく勉強になった。」
「そうかそりゃ良かった。じゃなくて!」
玲「?」
再びきょとんの玲くん。
もしや地雷を踏んだことを・・・
いや踏みにじったことに気付いていないのかな?
「じゃあなんだ?やっぱり今日のデートはただの口実か?」
玲「え?」
「女避けと情報収集の為に私を誘ったんだろ。」
玲「え、なんで分かったの?」
「自分で白状したんだろ!」
ばれちゃったか、と舌を出す玲くん。
うん、可愛い。
じゃなくて!
「けっ!ふざけやがって!」
玲「怒った?」
「当たり前だろ。すっげぇ嫌な気分だ!」
玲「・・・。」
(まったく、いい迷惑だ。)
ここ最近、ただでさえ君たちに休みを邪魔されて疲れが溜まってるってのに。
女避け?
仕事の情報収集?
そんな理由で私を使うな!
---ギロリ
黙ってこっちを見る玲くんを睨む。
ついでに目を合わせたまま日本酒をグイッと飲んでやった。
玲「・・・・・透ちゃん、ごめんね。」
・・・・・
・・・・・・・・へ?
玲「嫌な気持ちにさせてごめん。今度から気をつける。」
「え・・・」
きゅっと口を結び視線を逸らす玲くん。
おまけに顔がみるみる反省顔に変貌。
しかもなんと謝られてしまった。
まさか謝られるとは思ってなくて
意外な反応に戸惑ってしまう。
「えと・・・」
玲「まだ怒ってる?」
「いや、別に--」
玲「ごめんね?」
「・・・。」
(な、なにそれ・・・)
顔色を伺うようにチラッとこっちを見る玲くん。
どうしよう。
すっげぇ可愛い。
それにとってもいじらしい。
「あー、分かった分かった・・・もう謝らなくていいよ。」
玲「じゃあ許してくれる?」
「・・・許してやる。」
玲「良かった!」
「・・・!」
(ぐ、ぐあっ・・・!)
向けられた笑顔にカウンターを食らう。
一体なんなんだこの可愛い大人は。
表情豊かだし
意外と素直だし
例えるならそうだな・・・
憎めない弟って感じか?
(こんな弟がいたら楽しいだろうなぁ・・・)
ちなみに私には小憎たらしい弟が一人。
願わくば玲くんを見て可愛らしさを学習してもらいたい。
スポンサーリンク