不器用な大人たち

不器用な大人たち003~Loveholic





「うーん・・・ちょっと酔ったかな。」






会社の帰り、約束どおり柴田と飲みに出た。

駅の近くのオシャレなBAR。

明日休みだからか、お客さんの入りもまあまあだ。






「飲みすぎだよ・・・」






カウンターに並んで座ってる柴田から苦情。


まあ、言う通り飲みすぎかも。

最近落ち込み気味だったからだろうか。

飲み出したら止まらない。
とにかく酒が入る入る。





それにもうひとつ





偶然か、それとも神様のいたずらか。

この訪れたBARが、なんと俊と出会った店だったのだ。

そりゃヤケ酒したくなるってもんでしょ。



ま、そんなことはどうだっていいか。

今は今、過去は過去。

だって今日は俊を忘れるために飲みにきたんだから。






「ねぇ柴田。」

「ん?」

「もうちょっと付き合ってもらってもいい?」

「・・・構わないけど。」






現在、午後11時半。

明日は休みだし柴田にも予定があるだろうし
本当ならそろそろお開きにしてやらないといけないんだけど・・・

もう少し甘えてもいいだろうか。





「なぁ、茜・・・」

「ん?」

「・・・何かあった?」

「えっ」





不意に投げられた質問に勢い良く隣を見る。

すると、ヤケに真面目な顔の柴田と目が合った。





「な、何も無いけど・・・?」

「本当に?」

「なんで?」

「・・・最近元気がないような気がするから。」





え・・・





「・・・もしかして心配してくれた?」

「・・・まぁ。」

「じゃあ今日誘ってくれたのって・・・」

「・・・・・。」





じーっと見ると恥ずかしそうに目を逸らされた。





「だってほら・・・茜って元気だけが取り得だろ?」

「え。」

「なのにそんなしょぼくれた顔されたら調子が狂うっていうか気になるっていうか・・・」

「・・・・・・。」





恥ずかしそうに顔を逸らす柴田。


なんとなく突っ込みたくなるセリフも聞こえたけど。

それでも・・
それでもあんた---!





「柴田、ありがと!」

「うわ---!」

「やっぱあんたっていい奴!」

「え!」





嬉しさと酒の勢いで柴田の肩にガシッと腕を回した。

ついでにバンバン叩いてやる。





「確かに最近落ち込んでてさ・・・」

「やっぱり・・・?」

「でも柴田のおかげで元気が出た。」

「本当?」

「ほんと!」





元気出るどころか嬉しくて涙出そう。





「さ、気を取り直して飲もう!」

「わ、分かったから離れろって!」

「えー。」

「えーじゃない!ちょっと近い!」

「何を今更。私と柴田の仲でしょ--








途中で、言葉に詰まった。








いや、遮られた。








「---っ!?」








突然掴まれた二の腕。

さらに強く後に引かれて柴田から引き剥がされた。






そして・・・

何かに背中がぶつかった。







「な、なに---あ、ぇ・・・っ?」






何事かと振り返る。

そして犯人を確認して







驚愕。







「---俊?」







う、うそ・・・






なんで---

なんでいるの?







「・・・悪いけど。こいつは俺のだから。」







(へ・・・)






恐らく柴田に向かって言葉を投げた俊。

当然だけど柴田はビックリしすぎて目が丸になってる。

もちろん私も放心--






してる場合じゃない!






「な、な、何言ってんのあんた。ていうかなんでここに---」

「来い。」

「え」





な、なに?





「来い。」

「え!ちょ---何すんの!」

「・・・・。」

「俊っ---離して!」

「早くしろ。」

「-----っ!」






押しても引いても放れない手。

そんな抵抗も虚しく、引きずられるまま店を後にした。






(なんで---)






柴田に失礼じゃないかとか
今更何の用だとか

言いたいことは文句しか思いつかない。






けど・・・手首に感じる熱が温かくて






無性に悔しくなった。