不器用な大人たち

不器用な大人たち002~Loveholic





「辛い・・・」





一方的に別れを告げて早1ヶ月。

それはつまり、俊との連絡を絶って1ヶ月。

私は早くも俊欠乏症に陥っている。





(はぁ・・・)





現在、会社内の休憩室。

でかいフロアに並ぶテーブルの一つに座り込む。

昼休みも終わり間近だからだろうか。

社員がほとんどいないことをいいことに、ため息と一緒にコーヒーに向かって独り言。





「こりゃ・・・辛いわ・・・」





俊と私は、いわゆる体だけの関係だった。

つまりアレだ、セフレってヤツ。




いきさつはこう。




恋愛よりも仕事に夢中になる性格の自分。

だけど本能で性欲は溜まる。


自己処理だけじゃつまらない
だからといって彼氏が欲しいわけじゃない

欲しいのはただ、求めた時に体を重ね合う都合のいい男。


まぁ、そんな男が簡単に転がってるはずもないのだけれど・・





でもそんなある日
たまたま俊に出会った。





初めて会ったのは名前も思い出せないBARのカウンター。

艶のある黒髪
涼しそうな目元
形のいい薄い唇

あまりにも整った外見と漂う色気に、うっかり目を奪われたのを覚えてる。





声をかけてきたのは俊だった。





おそらく私と同じ人種だったんだろう。

酒を飲み他愛もない話をして、その日のうちに快感を貪り合った。



多分、お互い相性が良かったんだと思う。

すぐに終わると思ってた関係は1年以上も続いた。






「特別な女?別にいらねぇな、そんなの。」






半年を過ぎた頃だったか。


申し分ない容姿、性格だって癖があるわけじゃない。

それどころか有名企業に勤務してる俊。

なのに決まった恋人のいない俊になんとなく聞いてみたことがあった。

そして予想通りの答えが返ってきた。





でも予想外のことが起こった。





---特別な女はいらない





その言葉を聞いた私の胸が
締め付けられるように痛んだのだ。





---相手を好きになってはいけない





別に約束したわけじゃないし釘をさされたわけでもない。

でも所詮、体だけの関係。

その世界にはそれなりのルールがあるというか

「ワタシタチ」の間には見えない規制が確かに存在する。





そんなの分かってる。
誰よりも分かってるつもりだった。





だからこそ俊を好きになってしまった自分に驚愕して

それでも俊に魅かれる心を止めることもできなくて






「辛いわ・・・」






結局「関係を終わらせる」ことしか選べなかった。





そんな自分が哀れで、そして苦しい。





そんなドロドロとした心情のまま早くも1ヶ月が過ぎようとしている。

ちなみに当然といったら当然なんだけど--

俊からの連絡はない。






「辛いって、なにが?」

「-----!」






ポン、と大きな手が頭を撫でて隣に誰かが座ってきた。


有り得ないんだけどね。
一瞬、俊かと思ってハッとした。

そして犯人を確認して現実に引き戻された。






「柴田・・・」

「大丈夫?疲れてるみたいだけど。」






心配そうに顔を覗き込んでくる優男、柴田・・・


彼は会社の同僚かつ同期。

そしてこの柴田、同期のよしみか腐れ縁かは分からないけど

事あるごとに相談に乗ってくれたり心配してくれるいいヤツでもある。


仕事も出来るし見た目も爽やかイケメン・・

こんな人を好きになったら幸せなんだろうな、きっと。





「・・・最近仕事が忙しかったから。ちょっと疲れただけ。」





まぁ、心配してくれるのは嬉しいけど今回ばかりは話せるような内容じゃない。

気持ちだけ有難く受け取っておこうと思う。





「ふーん・・・ところで今日の夜、暇?」

「今日?」

「明日休みだろ?久々に飲みに行かない?」

「飲み・・・か。」





明日は土曜日。
おっしゃるとおり休みだ。


でも正直、気乗りはしない。


けど・・・

家に帰っても一人で俊のことを悶々と考えてしまうし






「・・・行く。」






いい加減、俊を忘れるためにも





酒による息抜きも必要かもね。