<孝>
有「なぁ、これっていつもの酒だっけ?」
累「そうだけど、なんで?」
有「なんかいつもより薄い気がする・・・まるで水のようだ!」
累「え!ちょ、ちょっと!」
純「こらー!」
停電からずいぶん時間がたった。
見る限り有希も普通の状態に戻り、通常どおり楽しそうに酒を煽っている。
まぁ、ただの強がりかもしれねぇけど。
(はぁ・・・)
さっきのは---マジで参った。
掴んだ手から伝わる震えと怯え。
自分に向けられているわけじゃねぇのは分かってたが体が動かなくなった。
そして涙を見たとき・・・
有希が壊れちまうんじゃねぇかと思って
怖くなった。
だって初めて見た。
---涙とは無縁
実際そういう奴だし泣くのを見たこともない。
でももう・・・
あんな涙は見たくない。
心底そう思う。
「もう少しゆっくり飲め。いつもよりかなり速ぇぞ。」
それにしても今日はペースが異常に速い。
それに伴う量。
胃に穴が空いてんじゃねぇかと本気で心配になる。
有「んなことありませーん。いつもこんな感じでーす。」
「・・・・・・。」
どうやらやっと酔いが回ってきたらしい。
同じことを思ったんだろう。
有希の反対隣に座る真樹と目が合った。
相変わらずこいつの酒量は異常だ。
普通なら、3年間これを続けていれば命が一つじゃ足りない。
つまり、体には大きな負担が掛かっているはずだ。
それなのに飲むのをやめない有希。
こいつにとってアルコールは精神を保つために体が欲する安定剤なんだろうか。
逆に有希が抱える問題は、この尋常じゃない酒量に匹敵するくらい辛いモノなのかもしれない。
どっちにしても早いところ止めさせねぇと体が参っちまう。
それだけは明確だ。
相変わらず浴びるように酒を煽る有希。
その様子に思わずため息が漏れた。
有「なんだよため息つくなよ!私はいつもこんなんだろ?なぁ真樹。」
真「・・・まぁ、そうかもな。」
適当に答えやがって。
少しは真面目に考えろ。
有「ほら見ろ。孝は心配しすぎだぞ!」
「・・・・・・。」
それにしても・・・
やはりまだ不安なのか、今日はやけに絡んでくる。
だが笑顔で俺を見上げてくる有希はやけに楽しそうで無理をしているようには見えない。
まぁ・・・
そう思いたいだけかもしれねぇけど。
---ポスン
(・・・・・?)
突然、胸に軽い衝撃。
「・・・・・は?」
一瞬、何が起こったか分からなかった。
下を見るとなぜか俺の胸に顔を埋める有希。
何をやってるのか
何がしたいのか
それは分からない。
だがその様子はまるで・・・
俺の体にキスしているように見えた。
(・・・・な、-----っ!!?)
情けねぇが目の前が真っ白になった。
はっきり言ってパニックだ。
純・累「え!」
要「うそ!」
真「----!」
ヤロー共は別の意味でパニックに陥った。
「どうだ、羨ましいだろ。」
いつもの俺なら確実にそう言ったはず。
ついでに有希を抱き寄せてたかもしれない。
だが今は
それどころじゃねぇ!