(最っ悪だ・・・)
そう、最悪だ。
どうしたのかって?
なにがそんなに最悪なのかって?
それは、それはですね・・・
---遡ること10分前
「ネネさん。5番テーブルにご指名です。」
「え・・・指名?」
夜のお仕事にも少しだけ慣れてきた今日この頃。
といっても役に立たない従業員であることに変化はない。
だって相変わらず少ない出勤日。
お店にとっては迷惑極まりなかろう。
もういいんだ店長。
潔くクビにしてくれ。
むしろ頼みます!
そんな願いも虚しく今日もなぜかご指名を頂いたようで・・・
恐る恐る5番テーブルへ向かうと
「失礼しま」
「やっほー。」
「・・・すぅ。」
なるほど---今日はてめぇか。
「うわぁ、真樹の言った通りドレス姿可愛いね。有・・・ネネちゃんは。」
(---要ェェェェェ!!)
叫ぶのはなんとか抑えた。
だが怒りを隠すことなくドカッと席に着いてやった。
『てんめぇー!なんで来たんだよっ!』
要「だって、まだ一回も来たことなかったし。それにドレス姿見たかったんだもん。」
(もん、じゃねぇ!!)
くそ、一体なんのつもりだ。
夜の店に出勤する度、なぜか住人の誰かが客としてやってくるのだ。
従業員としては嬉しい限りだろう。
だが個人的にはやりにくいったらありゃしねぇ。
ちなみに本日も初めはこそこそ話。
だってこいつにプリチー言語話すのって気分悪いんだもん。
ってやってる場合じゃねぇ!
プリチー変換言語は知人には難しいんだよ!
「チッ、ふざけやがって。何が楽しくてこいつらと--」
要「え、何?ネネちゃん何か言った?何言ってるのか聞こえないよー。」
「・・・・・。」
こ、こいつぅぅぅ!!
「・・・今日は随分イジワルなんだね。なんかヤな気分。もう帰ろっかな。」
要「え---!」
負けた気がする。
なぜか負けた気がする。
だが仕方あるまい。
こうするしか道がなかったんだ!
ていうかなに固まってんだこいつ。
露骨に目ェ丸くしやがって・・・
そんなに変かよ私が女言葉を遣うのは。
要「・・・・ふーん。」
「?」
しばらく硬直してた要。
だが深く息を吐いたかと思ったら
なぜか顔が急接近---
「ど、どうしたの?」
要「・・・可愛いじゃねぇの。」
「・・・は?」
要「今日は存分に・・・楽しませてもらうとするかぁ。」
「・・・・・・。」
なんとも悪そうな顔でニヤリと笑いやがった。
出た。実は桜館変人集団の中で一番性質の悪い男。
今日はまた厄介なのが来やがった。
先が思いやられる・・・
そして、現在に至る。
要「"要ちゃん"ね、要ちゃん。そう呼んで?」
「・・・・・・。」
で、こいつは今、自らを要ちゃんと呼ばせることに夢中になっている。
どうでもいいがお前・・・ちゃん、なんてガラじゃねぇだろ。
呼び捨てで十分だ。
「やだよ今更。要は要でいいでしょ。」
要「ダメダメ。これだけは譲りませーん。」
「・・・・・・。」
面倒臭ぇなぁこいつ。
何度も言うが呼び方なんてもうどうだっていいんだよ。
「じゃぁ・・・今だけだよ、要ちゃん。」
要「・・・・・・。」
「要ちゃん?」
要「・・・・・・。」
バカかこいつは。
呼んだら呼んだで固まりやがって・・・
一体何がしてぇんだよ。
「えと、君が要の・・・?」
「えっ!?」
おぉ!!そういや連れがいたんだったな!
しまった、見事に忘れていましたぞ。
「君の事は良く聞いてるよ。」
「え、要ちゃんに?」
「要からもだし、純や累からも。」
「へ、皆のことも知ってるんですか?」
「知ってるも何も、同じ学校だからな。」
「学校・・・・・あぁ!」
なるほど、と手を打つ。
そういえば君達、T大つながりでしたな。
「ではでは、あなたも学生さんですか?」
「外れ、助教授の方。」
「そうなんですか。すごいですね。」
どうやら松田さんというらしい要の連れ。
少し長めの黒髪を後ろでまとめているとっても綺麗な兄ちゃん。
真樹と同じ中性タイプだな。
どうやら住人共の周りにはイケメンさんが多いらしい。
松「それにしても・・・ずっと会ってみたかったんだよ君と。3人の女遊びを止めた女性・・・尊敬に値するな。」
「え、なんのことですか。」
要「おいコラ松田。変な情報流すんじゃねぇ。」
すかさず要が止めに入った。
何をそんなに焦ってんだ。
松「なにが変な情報だ。特に要、お前は酷かったからな。」
要「お、おいおい松田君。それ以上は勘弁して下さい。」
松「もう特別な人は永遠に出来ないと思っていたが。出来たら出来たでここまで変わるとは思ってなかったな。」
要「こ、こら!止めろって!」
松「ははっ、焦るな焦るな。」
要「・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
す、すっげー強烈な人だなこの人。
さすがの要もたじたじだ。
「ゴーゴーマイウェイな人だね。」
要「あぁ・・・もう・・・」
はぁ、と脱力する要。
それとは裏腹に話に満足したのか、松田さんは私達から興味を逸らし、今日も一緒についてくれてるサオリちゃんと話し出した。
さすがは要の連れ。
やはり変人か。