結局、真樹は私の勤務時間いっぱい滞在。
これも親切心なのか。
こいつの優しさははっきり見えないので良く分からない。
「チェックお願いします。」
0時少し前。
現在センターで精算中。
「ふぅ・・・」
初めはどうなることかと思ったが、真樹様のご好意でアルコールも蓄積できたし
お店はというと、お客さんの数も落ち着いてぱらぱらと空きの女の子もいる。
『ねぇねぇ!ネネさん指名のお客さん、すっごいカッコいいですね!』
「へ?」
『連れの人もかなりヤバイよぉ!』
きゃぁきゃぁと色めき立つ女子。
男慣れしているこの女子達が騒ぐほどだ。
あいつら相当レベルが高いに違いない。
でもね・・・
見せ掛けに騙されんな君達!
『どこで捕まえたのー?』
『それ聞きたぁい!』
(捕まえた・・・?)
何を言うか。
あんな帝王、好き好んで捕まえるワケがないだろ。
まぁ・・・
我が家の一員ですなんて口が裂けても言えないのだけれども。
『ネネさん?』
「え!あ、あぁ、えっと・・・あの人は捕まえたんじゃなくてその---知り合いなんだ!」
『知り合い?』
『えーそうなんだー!いいなぁ!』
(え、いいの?)
顔がいい男と知り合いっていいモンなのか?
そんなもん?
ス「はい、お願いします。」
「あ、はい。」
(----って、高っっ!!)
あわわわどうしよう!
明細の金額を見ると---ヤバイ。
やはり夜の世界は奥が深い。
あまりの高額にドン引きです!
「ちょ、ちょっと真樹耳貸せ!」
とりあえずヒソヒソ相談。
取り乱すなよ帝王。
落ち着いて話を聞いてくれ!
真「カードでいいだろ?」
「う、うん。いやいやそうじゃなくてだな---!」
真「これで頼む。」
ピッとカードを渡された。
(う、うお!これは---!)
ブラッキーカードじゃありませんかっ!
あゎゎゎ手が震えるっ!!
河「次回は俺ね。」
真「どっちでも構わねぇよ。」
「・・・・・・。」
おいおいなんだその会話は。
それよりお前、金額確認したか?
見てもねぇような気がするのは気のせいか?
(はぁぁぁ・・・)
なんだかどーっと疲れた。
色んな意味で。
とりあえず支払いを済ませ、席に戻ると皆さんは既に通路に出ていた。
(ん・・・?)
「・・・・・・・。」
真「なんだ?」
「真樹って、身長高いんだね。」
真「何を今更。」
「いや、なんとなく・・・」
今日はドレスに合わせてヒールを履いている。
なのに目前の帝王は私より遥かにでかい。
どうでもいいが結構な長身ヤローだったらしい。
『やだぁ、やっぱりカッコいい・・・』
『ほんとだぁ!素敵・・・』
遠くから女子達の黄色い声が聞こえた。
どうやら先に出口へ向かった河野さんが騒がれているらしい。
いいねぇ、モテモテですなぁ。
真「おい。」
「ん?」
上から声が降ってきた。
真「もう上がるんだろ?」
「うん。」
真「店を出たらすぐに電話しろ。」
「ああ、了解----うわ!」
急に肩を引き寄せられてよろめいた。
なにすんだてめぇ!
なんてとっちめてやりたいところだが今は仕事中。
我慢だ有希、耐え抜け有希。
いやいやそうじゃなくて
「ちょっとあの!歩きにくいです!こけそう!」
真「我慢しろ。」
「いやいやそういう問題じゃなくて--」
真「お前は俺のモンだって見せ付けてんだよ。」
「は?誰に。」
真「あいつに決まってんだろ。」
「あいつ?あぁ・・・」
あいつとは----あのガキのことだ。
ルミちゃんと話が弾んだらしいあのガキは延々と延長を繰り返し、今現在も2人仲良く酒を酌み交わしている。
しかしどういうつもりなのか、なぜか真樹に向かって度々睨みをきかせていたらしい。
「へっ、くだらねぇ。」
真「おいおい。カワイイ振りはもう終わりかよ。」
「誰も聞いてねぇからな。---っと、気をつけて帰ってくださいねぇ。」
真「・・・・・・。」
二人三脚で歩くこと数秒。
ようやく出口に到着。
色めく女子の中に突入すると、恥じらいも無く真樹に送られる憧れの眼差し。
こいつの場合中性的な顔立ちの為、お客さんやスタッフの目も釘付けだ。
(うわ!なな、なんだそりゃ・・・!)
きゃぁきゃぁと騒ぐ女子。
そしてなんと、彼女らに向かってにっこり爽やかな笑顔を向ける真樹。
そんな顔も作れるのか・・・
ちょっとびっくり。
真「じゃぁな。」
「あ、うん、ありがとう。」
ここは私も一つ。
負けじとニッコリをくれてやった。
「?」
するとなにを思ったのか。
小さく笑って耳を貸せと言う。
なんだよ、内緒話か?
「どうした?」
真「・・・早く着替えて出て来いよ。」
「うん。分かって--」
チュッ・・
(え・・・)
頬に柔らかな感触。
それと同時に後ろから凄まじい声が上がった。
あれだよ、きゃぁぁ!ってやつだ。
「・・・おいコラなにしやがる。」
真「消毒だ。」
「は?」
真「あいつにされただろ。」
「え・・・」
真「じゃあ、後でな。」
軽く手を振り、真樹は河野さんの方へ歩いて行った。
(おいおい勘弁してくれよ・・・)
見てたのかよお前・・・
しかもなんでお前のチューが消毒なんだ。
ワケ分かんねぇ。
『ネネさん、上がっていいですよ。』
「あ、はい、お疲れ様です。」
未だ興奮中の女子の波をかいくぐる。
そしてやっと更衣室に戻ってきた。
「だはぁぁ・・・しんどかったぁ!」
更衣室に入るなり思い切り脱力。
すっげぇ疲れた辛かった。
これを毎日こなすなんて・・・
夜のお姉さん達ってマジすげぇ。
でもやっぱ私には無理だわ。
荷が重すぎる。
「おーいあっ子ちゃん・・・早く代わってくれぇ。」
とりあえず
さっさと帰って酒盛りしよう。