真「・・・マジかよ。」
「え?」
真「・・・お前が女に見える。」
「・・・・・・・。」
なんだとてめぇ。
真剣な顔で何を言うかと思えば・・・
断っておくが家でも一応女だ。
(あ、なるほど・・・そういうことね。)
さては帝王・・・
いつものように言い返せねぇ私をイジメて楽しむつもりなんだな?
悪趣味な奴め。
だが残念だったな。
そうは問屋が卸さねぇ。
真「---痛ぇ。」
「あれ、どうかした?」
そりゃ痛いはずだ。
肩に回された手を思い切り抓ってやった。
『あ、あのっ。ネネさん何飲まれます?』
「へ!?」
ハッとした。
声の方を見ると連れの横に座ってる女の子。
しまった・・・
彼女も、そして連れの存在もすっかり忘れていた。
「あ、ご、ごめんね!えと、私は---」
真「とりあえずシャンパン。強め目のヤツとか置いてんだろ?」
「え・・・えぇ?」
ちょっと待て!と言う前に近くを通りかかったスタッフに「あれを持って来い」と命令を下してしまった真樹様。
さすが帝王、まさに俺様の原点。
でかい態度が異様に似合っているぞ。
じゃなくて!
「シャンパンって別料金だよ?フリードリンクでいいのに!」
真「何言ってんだお前は。金の心配なんかするんじゃねぇよ。それに強い酒飲んでた方がいいだろ?」
「え?」
真「そっちの方が帰ってから楽なんじゃねぇのか?」
(え・・・)
こいつって時々優しいとこあるよな。
いつも捻くれてるから分かりにくいけど
たまに出されるとビックリする。
まぁ、優しくされて悪い気はしない。
「・・・ありがと、真樹。」
とりあえず礼は言っておこう。
シャンパン万歳。
真「礼なら態度で表現しろ。」
「・・・・・。」
(なんだとコラ---)
「優しい真樹くんタイム」は一瞬で終わった。
あまりの速さに味わう余裕も無かった。
「あのお友達さん。お名前聞いてもいいですか?」
『え?あ、俺は河野。宜しくね。』
「河野さんですか。こちらこそ宜しくお願いします。」
真「・・・おい、無視すんじゃねぇよ。」
「・・・。」
とりあえず・・・
やっぱり無視しとこ。
「そういえば河野さんと真樹ってどういう関係なの?」
真「こいつか?こいつは、そうだな-----下僕?」
「へぇ、下僕なんだ・・・」
河「おいおい。そんな目で俺を見てたのか?真樹とは古い友人でね。今日はこいつが夢中になっている女性を見に来たんだよ。」
真「余計なこと言うんじゃねぇ。」
ほほぅ、河野さん。
真樹を相手にそんな軽い会話が出来るなんてなかなかの勇者ですな。
それでは一つ、わたくしめも--
「へぇぇ?夢中になってる人がいるんだ!誰誰??知りたーい!」
ニヤリ笑いと共に河野さんに便乗してみた。
どうせ今日だって『下僕に会いに行く』とでも言ってんだろうが。
どう頑張っても私に夢中!なんて真樹が言うはずが無い。
(ぷぷ!困ってる困ってる!)
見よ!
滅多に見れないこのやり切れない顔!
いい気味だぁぁぁぁ!!
真「・・・ククッ。」
「!!」
(え・・・・!)
不意にキュッと口端を上げた真樹。
そして肩に回した手を背中に落とし
ゆっくりと自分の方に引き寄せようとする。
(ちょちょちょちょっ---!!)
気付けばすぐそこに美人様のドアップ。
いやぁ、やっぱ綺麗なお顔ですねぇ。
羨ましいっすー。
なんて気を殺ぐ余裕もない!
真「お前に決まってるだろ?」
「---!」
少し上から降ってくる低い声。
そしてそのまま耳元に唇を寄せて
「有希。」
そう、囁いた。
(ち、ちくしょう・・・)
そうだ、こいつはこういう奴だった。
「・・・そ、そっか。」
近すぎる体を突き飛ばすこともできず・・・
とりあえず適当に返事した。
今後一切この手の仕掛けは止めよう。
こいつには勝てる気がしねぇ。