---仕事中は女であれ
そう固く決意して仕事に臨んだはずだった。
しかし・・
「・・・・は?」
ダメだこりゃ。
思い切り素に戻ってしまった。
だって---
真「会いに来たぜ、ネネ。」
(な・・・)
なにこれなんでいるのこいつ。
まさか私を指名したのって・・・ユー?
毎日家で会ってるのに?
わざわざ店に来ておまけにご指名?
いやいやそんなバカな・・・
「・・・間違えましたぁ。」
そうだこれは間違いだ。
間違いに決まってる。
真「おい、さっさと来い。」
(ひぃぃ・・・!)
そそくさと逃げを試みると不機嫌そうな帝王の声が突き刺さった。
なんてこった・・・
どうやらこのご指名は間違いじゃないらしい。
「・・・失礼しますよ。」
真「ああ。」
しぶしぶ横に座ってみる。
うっわー変な感じ。
スカート姿すら披露したことないってのに・・・
なんだかドレスを着てる自分が恥ずかしい。
『ほぅ、綺麗な人だな。』
「え?」
良く見たら対面のソファーに連れがいた。
真樹の威嚇にビビって気付かなかった。
「も、もしかして私を指名してくれたのって・・・」
真「俺だ。」
「・・・アリガトウゴザイマス。」
『ふふっ。』
分かってますよ・・・
だってお連れさんの横には既に女の子が座ってるからな。
ていうか君、大丈夫か?
真樹を凝視して頬を紅く染めている女子。
どうやら帝王のお色気にやられちゃってるようです。
(カワイイ子だなぁ・・・)
まあ気持ちは分かる。
真樹のヤツ、見かけは超一流だからな。
それにお連れさんもアーティストっぽくてカッコいい部類の人なんだろう。
通路を通る女の子やお客さんが2人をチラ見しながら通り過ぎていく。
それにしても---
「なんで来たんだよ!やりにくいじゃねぇか!」
真樹の耳元に近づいてひそひそ話す。
本当なら怒鳴ってやりたいんだけどな。
さすがにここじゃいつも通りには話せない。
真「なんでってお前・・・面白ぇからに決まってんだろうが。」
「お、面白ぇ!?なんだそれは!」
そんな理由で来るんじゃねぇ!
真「それに---」
「!?」
背もたれに伸ばされていた奴の左腕。
なぜかそれがスルッと肩に絡みついてきた。
「こ、こらっ!」
真「ここじゃ思い切り抵抗できねぇだろ?」
「は!?」
真「今日は・・・逃がさねぇからな。」
「・・・・・。」
(ちょ、ちょっとちょっと---!)
店長ピンチです。
このお客さんタチが悪すぎます!
「ったく・・・バカかお前は。結局邪魔しに来ただけじゃねぇか。」
真「まぁ、お前弄りと見張りが目的だな。」
「見張り?」
真「変な客が着いたら困るだろ。全員一致で誰か監視に行けってことになった。」
「はぁ?」
なんだそりゃ。
真「ちなみにあいつらは用事が入ってて泣く泣く諦めたみたいだぞ。だから俺が来た。」
「チッ、余計な真似を・・・」
真「そういや孝の奴がすっげぇ不機嫌だったなぁ。」
「・・・意味分かんねぇ。」
全く・・・
知り合いに接客するのがどれだけやり難いか分かってんのかお前。
今の真樹に比べたらさっきクソガキの方が全然マシに見える。
まぁ、不愉快感は別にしての話だけどな。
真「んだよ、文句あんのか?」
「------!」
しまった機嫌を損ねたか!
絡み付いていた手がぐいぐい肩を引き寄せようとする。
困りますお客さん、ちょっと近すぎです!
「ちょっ・・・止めろーっ!」
真「お前よぉ・・・」
「なな、なんだよ!」
嫌がらせなのかなんなのか。
わざとらしく耳元に唇を寄せてボソッと呟いてくる。
真「あんまり耳元で喋るな。襲いたくなるだろうが。」
「へ!?」
(おそおそ襲う---!?)
思わず突き飛ばした。
と思ったがビクともしない帝王。
しかも耳元はやめろといったくせにグイグイ肩を引き寄せてくる。
ハードだ。
出勤初日からいきなりハードだ。
とにかく、相手がエロエロ真樹様ってのが何より辛い。
(くっそぉ---!)
「もう・・・じゃぁキュートなネネちゃん言葉で話すから、離れて。」
真樹の体を押す。
そして誰に聞かれても支障のない言葉遣いに変換してみる。
真「・・・・・・・。」
「どうしたの?そういえば・・・こうやって話したら孝も固まってたよ。」
そんなに意外だったのか。
見事にフリーズしてみせた真樹。
本っ当、君たちって失礼だよね。