ナ・イ・ト・ワ・-・ク Part1

ナ・イ・ト・ワ・-・ク Part1—–2 SAKURA∞SAKU second

最悪だ・・・

 

現在午後8時過ぎ。

慣れない化粧とドレスをまとって夜の蝶に変身したわけですが・・・

いやいや蝶ではない。
蝶の格好した毒クモ様とでも呼んでもらおうか!
怖いぜェ。

私のテリトリーに入ってきたらお前・・・
二度と日の光を拝めないと思えうははは!

 

なぁんてくだらないことを考えたくなるくらい

 

最っ悪だ。

 

『なぁ、キスしたい。』
「え、キスはダメだよ。」
『店を出たらしてくれるかぁ?』
「そんなこと言ったらルミちゃんに怒られるよ。」

 

これは事前情報だが・・・
お客さんの層、おじ様が多いって聞いていたぞ。

だからしぶしぶ引き受けたのに。

 

(・・・・・・。)

 

店内を見渡すと確かにおじ様の方が多い。

ちなみになぜおじ様にこだわるかというと
個人的に、若者よりも全然話しやすいからだ。

それにしても・・・
何故たまたま来ている若者に当たったんだ。
厄日か?

 

『ルミ?別に好きで指名してるわけじゃないから。』
「またまたご冗談を。」

 

おいコラ触るな。
肩に手を回すな。

 

『なぁ・・・お前カワイイな。』
「気のせいだって。暗いから可愛く見えるんだよ。」

 

やめろ顔に触るな!

 

『店終わってから飲みに行こうぜ?』
「ゴメンね。残念だけど終わってから用事があるんだ。そうだ、ルミちゃんと行きなよ!」
『今度からお前を指名する。』
「あははー。」

 

冗談きついっす。

 

『マジだぜ?』
「ち、近いってば。ちょっと離れようか・・・」
『なんだよ、初心なんだな。』
「そ、そんなとこかなぁ。」

 

こういうのって苦手だ。
勘弁してくれ。

 

(あー疲れる・・・)

 

どうでもいい情報だが
なぜかわたくし、年下運が悪いような気がします。

恐らく年下だろうこのガキ。
激しく相性が悪い気がしてならない。

私としてはおじ様と政治経済の話にでも花を咲かせたいのだが・・・

ま、仕事だからな。
そんなことは言ってられない。

 

(助けてルミちゃーん。早く戻っておいでー。)

 

とりあえず心の中で叫ぶ。

うわ、まだ9時にもなってねぇ。
今日はぐったり帰宅だな。

 

ス「ネネさんお願いします。」
「は、はーい!」

 

しばらくするとスタッフが呼びに来た!

やった!!
グッジョブだよ君!

 

『もう行くのかよ。』
「呼ばれちゃったから・・・飲み物ありがとうございました。もうすぐルミちゃんが戻ってくるから待っててくださいね。」

 

定形文を頭からひねり出し席を立った。

いや、立とうとした。

 

『まだいいじゃん。』

 

(うっ!)

 

肩を引き寄せられてソファーにリターン。

おいコラやめろ!
それ以上近づくな!

 

「ご、ごめんね。早く帰って来てって伝えておくから。」
『・・・・・・・。』

 

なぜか上目遣いでこっちを見つめるガキ。

もしやお色気アタックのつもりだろうか・・

だが残念だったな。
我が家には君の10倍、いや100倍はフェロモン放出してる奴らがゴロゴロいるんで。

そのくらいじゃ効きませんぞ。
元々そういうフェロモン系には強い方でもあります。

 

「ごめん、そろそろ行かなきゃ--」

 

チュッ・・

 

(は・・・・?)

 

『仕方ねぇなぁ。またな、ネネ。』
「・・・は、はぁ。」

 

(こ、このガキ・・・)

 

 

ほっぺにチューとはいい度胸してんじゃねぇかぁぁ!

 

 

(チッ!!)

 

最っ悪だ!

マジで気分悪い。
いや気持ち悪い。

やっぱり私には無理だったんだ。

中途半端に夜の世界のお仕事を手伝おうなんて・・・
私が甘かったすみませんでした!

あーでも・・・
辞めたいけどあっ子ちゃん怖ぇ。

 

(はぁ・・・)

 

殴り飛ばしたい衝動をなんとか押さえ席を立った。

非常に疲れた。

初回から・・・
いやまだ始まって1時間も経ってねぇのに既に疲労困憊。

これをしばらくなんて絶対無理っすよ。

肩を落としヒールを引きずり
げっそりしながらセンターへ向かった。

 

ス「あ、ネネさん。」
「はい。」

 

戻るとスタッフが急いで近づいてくる。

ま、とにかく今は仕事だ。
次は何番テーブルに行けばいいんだ?
ていうかさっきは呼んでくれて助かったぜ君。

 

ス「3番テーブルにご指名入りました。お願いします。」
「え、指名・・・?」

 

指名って、なんで?
今日、初出勤なんですけど。

まさかあのクソガキか!?
と思ったがあいつは9番テーブルに座っていたはず。

じゃあ誰だ?

 

(あ!)

 

なるほど。
もしかして「前にいたネネさん」と間違っちゃったのかな?
あんまり珍しい名前じゃねぇし。

まぁいい。

間違ってたら戻ってくればいいし。
私はあのガキの席から解放されただけで十分だ。

 

---絶対間違いだ

 

そう決め付けて3番テーブルへ向かった。

お客さんの顔を確認しようと目を向けるが
仕切りの背が高いせいで顔が見えない。

 

(げ。)

 

途中、さっきのガキと目が合う。
そういえば3番テーブルからあいつの席が丸見えだ。

 

(間違いで良かった・・・)

 

できればもう目も合わせたくないからな。
なんとか笑顔を搾り出し、最後の営業スマイルを贈ってやった。

さてさて。

クソガキちゃんから救ってくれたおっちょこちょいなおじ様はどんな人でしょうねぇ。

 

「失礼しまぁ--」

 

目的地、3番テーブル。
ダウンサービスの為、腰を下ろし初めて客に目を向けた。

 

「---す?」

 

そしてそこにいたのは---

 

(・・・え?)

 

 

「よぉ。」

 

 

どっかりとソファーに座り

 

常人よりも長いお御足をイヤミに組む

 

女性からも羨まれる中性的美人さん

 

 

妖しい色気大放出の--

 

 

真樹様。