「・・・・・・・・・・。」
晋「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
晋「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
晋「・・・・おい。」
「なんだ。」
晋「何か話せ。」
「・・・・あんたなぁ。」
引きずられるまま俺様の車に放り込まれ、現在どこへ向かってるのか分からず走行中。
無口を好むヤツかと思いきや沈黙はいたたまれないらしい。
いやいやそうじゃなくて!
「どういうつもりだよ!無理矢理連れ出しやがって!」
せっかくハンバーグを・・・
いや香織と直樹と団欒中だったってのに!
晋「ちゃんと許可は貰った。」
「許可って!まぁ・・・それはそうなのかもですが。」
晋「だろ?」
「チッ!」
晋「舌打ちするな。」
「そのくらいさせろ!」
全くこの俺様は。
一体どんな常識で毎日を生きてんだか。
「で、どこに向かってんですか。」
晋「メシ食い。」
「だからどこに。」
晋「知ってるとこ。」
「へぇへぇそうですか。」
ハンバーグあるんだろうな!?
とは聞けなかった。
やはりなんとなく怖い。
どっちにしてもこんなイライラ気分で楽しくメシが食えるはずはないだろ。
覚えてろ俺様。
絶対メシなんて頂かないからな。
ボイコットしてやる。
「お・・・おぉぉ!」
晋「綺麗だろ。」
「すげー!」
店に到着するまで不機嫌だった。
だが店に入ると一瞬でハイテンション。
だってすごいんだよこれが。
「なんだここ!水族館なのかー!?」
薄暗い店内の中心に、淡い青光を放つ巨大な円柱の水槽。
その周りにテーブルが並んでいる。
上もあるようで見上げると円柱が永遠と続いているように見える。
「すごいなぁ!どこまで続いてるんだ?」
晋「さぁな。」
『た、高原様!いらっしゃませ!』
上を見上げているとスタッフが慌てて近づいて来た。
高原様って・・・晋のことか?
なんだあんた。
ここの常連?
晋「ご無沙汰してます。上の階は空いてますか?」
『もちろんです!どうぞこちらへ!』
(・・・・・・・・・・。)
し、晋ちゃん。
外面は結構常識人なんだね。
丁寧な言葉遣いが飛び出してビックリ。
スタッフが先導する。
ボーッと見てると背中に手を回された。
「あ、あぁ・・・どうも。」
ハッとして足を進める。
やはりエスコートは完璧らしい。
どうでもいいが慣れない。
「おー!綺麗だなぁ!」
上の階に到着。
これまた凄い。
壁は一面ガラス張り。
水槽に加え夜景も見えるダブルパンチだ。
晋「何か食べたいモンあるか?」
「あぁ!ハンバーグ!」
晋「・・・・お子様だな。」
「今日はハンバーグって決めてたんだよ。」
晋「ふーん。」
さっさと席についてメニューを見ている晋。
私はというと、水槽とガラスの間を行ったり来たり。
だってマジですごい。
キラキラとピカピカが散らばってるみたいだ。
晋「おい透。とりあえず座れ。」
水槽にへばり付いてると呼ばれた。
まだ見ていたかったが・・・まぁいい。
後でゆっくり鑑賞することにしよう。
晋「そうだ・・・煙草吸っても平気か?」
「タバコ?あぁ全然大丈夫。私も吸うから。」
晋「そうなのか。」
安心したかのようにタバコを取り出す。
もしかして気にしてくれたとか・・・
やはりそこら辺も徹底してるらしい。
「じゃぁ私も失礼しますよ。」
晋「あぁ。」
ぷかっと上に向かって煙を吐く。
水槽に沿って煙がふわふわと昇っていく。
あぁなんだか・・・幻想的。
前を見ると晋もボーっと煙を見ている。
晋「好きなのか?」
「は?」
晋「魚。」
「あ、あぁ・・・魚っていうか水族館が好きだ。人並みに。」
晋「へぇ。」
水槽を見ながら紫煙を吐く晋。
うん。
香織が見たら気絶するくらい様になってる。
「あんたも好きなのか?こういうの。」
晋「名前。」
「あ、あー、晋。」
晋「嫌いじゃない。」
「ふーん。」
そう言ってまた水槽に視線を移した。
嫌いじゃない=結構好き
こういうことか?
せっかくなので私も魚を堪能してみる。
「・・・・・・。」
晋「・・・・。」
再び沈黙が訪れる。
(・・・・・・・・ふーん。)
沈黙。
だが、別に苦痛ではない。
たまにいるよな。
黙っててもあんまり苦にならない相手。
晋がどう感じてるかは分からないけど、実は取っ付きやすいヤツだったりして。
こういうタイプは・・・・そうだな。
男友達に多いタイプだ。
『お待たせ致しました。』
「お、おぉ!」
あれこれ考えていたらハンバーグが来た!
待ってたよー!
「あれ、晋もハンバーグ?」
晋「あぁ。」
「なんだよ。晋もお子様なんじゃないか。」
晋「・・・黙って食え。」
「では遠慮なく、いただきまーす。」
んー・・・・・・・美味!!
(それにしても・・・)
綺麗に食していくなぁこの俺様は。
ナイフとフォークを自在に操り、流れるようにハンバーグが消えていく。
(見かけはいい男なのにな・・・)
顔も良し、スタイル・身長も良し。
その上所作も良し。
持ってる奴は何でももってるモンなんだな。
心が病んでるってのが本当に痛い。
晋「ほら。」
「へ?」
じっと見てると目の前にハンバーグを突き出される。
もしやあんたのハンバーグを狙ってると思われたか?
「え、違う違う!見てたのはそういう意味じゃなくて---」
晋「美味いぞ。」
「知ってる。」
晋「ほら。」
「・・・・・・・・。」
ずいっとフォークを近づけてくる。
待て待て・・・このまま食えと?
あーんってことですか?
(・・・・・・・・・・・・・。)
キョロキョロと周りを見回し、他の客が見てないことを確認。
「ん!」
あまりにも美味そうだったので食らい着いた。
あぁぁ・・・・
「ほっぺが・・・・落ちた!」
晋「だろ?」
マジで美味いよこのハンバーグ。
今度香織と直樹も連れてきてやろう。
晋「お前・・・幸せそうに食べるんだな。」
「む?」
晋「子供みたいだ。」
「・・・。」
満喫していると失礼発言が飛んできた。
子供みたいって・・・
随分と上から目線だな。
「ガキ扱いするな。」
晋「ガキじゃねぇか。」
「晋って辰巳さんと同い年なんだろ?」
晋「そうだが。」
「じゃぁ私とも同い年だ。」
晋「・・・・・・・・・・・・・・は?」
「・・・すっごい長い間だったな。」
晋「ボケるならもっと上手くボケろ。」
「ボケてないですけど。」
上手く理解できなかったのか小さく小首を傾げている。
考え込むほど意外だったのかよ。
「その反応って喜んでいいのか?若く見えたってこと?それとも年上かと思ってたのか?」
晋「お前が年上?そんなの有り得ねぇ。」
「てことは若く見えたのか!うんうん。私もまだまだいけるな!」
こういうのって嬉しいモンだよな。
女として。
晋「若く見えたっていうか・・・性格がガキっぽい。」
「・・・・・・・・・・・・。」
・・・・おい。
「・・・・お前は本っ当に失礼な奴だな。いい気分をぶち壊しやがって。」
晋「本当のことだろ。」
「私は立派な大人です。それに晋には言われたくないね。」
晋「は?」
「お前の方がよっぽどガキっぽいだろ。強引だしワガママだし。」
晋「それは元々だ。」
「・・・・・・・・・・。」
開き直りかよ。
ていうかなんだこの会話。
大人気ないにも程があるぞ。
「それに・・・私の真似してハンバーグ食ってる。」
まぁ、私も十分大人気ないのは認めよう。
晋「真似したんじゃねぇ。」
「真似だろ。」
晋「あのなぁ・・・」
「晋の方がガキだ。」
晋「・・・・・・・。」
ギラリと睨んで目を逸らしやがった。
ふふふ、この勝負は私の勝ちだな。
晋「他の種類も食べたかっただろ。」
「は・・・・・」
他の種類・・・?
(・・・・・・・・・・・。)
そ、それって・・・
私に食べさせる為に自分もハンバーグ頼んでみましたーってこと?
そ、そういうこと?
え・・・
「バッ・・・バッカじゃないのー!そそそんなんで晩飯決めちゃってさー!」
晋「美味かったか?」
「・・・・・う、美味かったぞ。」
晋「そうか。」
「え・・・・・・・」
ゲームが一ヶ月以上もたない理由。
なんとなく分かったような気がした。
目の前の俺様が寄越した笑顔。
これぞ正に・・・
一撃必殺・キラースマイル。
普通ならこんなのに耐えられるはずが無い。
もし香織だったらお礼を言ってあの世へ旅立っただろう。
でも---
(やっぱカワイソウ・・・・)
心があんな風に病んでるんじゃねぇ・・・
非常にいたたまれない。
晋「・・・なんだよその目は。」
「何があったか知らないけど。お前も色々大変なんだな。」
晋「・・・・・・・・は?」
「相談には乗ってやれるからさ。友達として。」
晋「友達?」
「辛い時は遠慮なく言えよ?」
晋「・・・・・・・・・・・・・。」
やっぱ完璧な人間っていないものなんだな。
神様は平等だ。