「ここでいいか?」
孝「あぁ。」
でっかいホテルなだけあって
敷地内にはプールやらテニスコートやら何でもありだった。
前方に公園らしき広場が見えるがあれは遠すぎる。
さてどうするか、と思ったらナイスタイミング。
道端にベンチを発見。
「はぁ・・・」
孝「・・・・・・。」
ベンチにどっかり座り、既に星がチカチカ光る空を見上げる。
ドレス姿だろって?
いやいやそんなのはどうだっていい。
とっくに化けの皮は剥がれちまったんだ。
(はぁ・・・)
チラリと孝を見ると目が合った。
少し離れて立っている孝。
ポケットに手を突っ込み、こっちを見てる。
「・・・すんませんでした孝様。」
孝「・・・・・・。」
「どうしても許せなかったんで・・・・やっちまいました。マジでごめんなさい。」
孝「・・・・・・。」
謝らなければなるまい。
協力するって言ったのに完全に約束違反だもんな。
許せない内容になるとすぐ頭に血が上るこの性格。
自覚してはいたが自粛しないといけない。
けど---
(あぁ、どうしよう・・・)
あんなに広い会場だ。
工藤とのやり取りに気付いたヤツはそんなにいないとは思う。
だが近くにいたヤツは当然変に思っただろう。
何かあったのか?って誰もが思ったはず・・・
(あぁぁどうしよう・・・!)
冷静になればなるほど後悔に襲われる。
ムカついた。
確かにムカついた。
だが我慢すれば良かった、かも・・・
「孝、マジでごめん。」
孝「・・・・・・・。」
何も言ってくれない孝。
やっぱり怒ってるよな?
そりゃそうだよなぁ。
でも---
「許せ!」
姿勢を正し、手を合わせて孝を見る。
契約違反だってことは良く分かってる。
でもごめん
やっちまいました!
「適当に受け流そうと思ったんだけどよ。どうしても我慢できなかったんだ。」
孝「・・・・・。」
「だってお前・・・卑怯なヤツにお前を最低呼ばわりされて黙ってる方がおかしいだろ?」
孝「・・・・・。」
とりあえず事情だけは説明しておこう。
そして後は平謝りだ。
「お前は何考えてるか分からねぇ奴だけどしれっと優しいし・・・俺様なだけあって心は男らしいもんな。」
孝「・・・・・。」
「女遊びは激しいのかもしれねぇけどよ。卑怯な真似するような奴じゃねぇし、どっちかって言うとストレートだもんな。」
孝「・・・・・。」
眉間に力を入れて変な顔をしている孝。
分かってるか?
一応誉めてんだぞ?
それにしても
思い返せばやっぱ怒るの当然じゃん。
あいつ---工藤が悪い。
「それを工藤め・・・あいつがどんだけお前を知ってんだって話だよな!なんも知らねぇくせにペラペラと嘘並べやがって!やだ!何かムカついてきた!!」
やっぱり一発食らわしとけばよかった!
あんのヤロー後で覚えとけよ。
今度は目立たないところでヤらねばなりませんな。
トイレか?
やっぱトイレか!!
まぁでも・・・
今は孝に許してもらうのが先決だ。
(土下座?やっぱここは土下座か?)
孝「有希。」
「ん?」
やっと喋ってくれる気になったらしい。
名前を呼ばれて上を向い--
(-----え?)
思った時にはもう遅かった。
「ん・・・・っ!」
長い指が顎に触れた。
もう片方の手は逃げ場を塞ぐように背もたれを掴む。
そして--
唇に重なる---熱い熱。
(な---な----っ!?)
ハッとした。
そして胸を押し返した。
だが馬鹿にしたようにびくともしない。
(なな、なんで?!なんでだ!?)
なんでどうしてこのタイミングでちゅー?
意味が分からない!
(------っ!)
不意に顎を上向きへ誘導される。
自然、薄っすらと開いてしまう口。
そして侵入してくる熱っぽい舌。
逃げようと抗っても・・・
簡単に絡み取られてしまう。
「ぁ・・・っ!」
(激し、い・・・!)
不本意だが今まで何度も唇を奪われてきた。
だがこんな激しいキスは初めてだ。
深くて、熱くて・・・
まるで追い詰められてるみたいだ。
(なんでこんなキス・・・)
怒ってるのか呆れているのか
それともただの気まぐれか
孝が何を考えてるのかさっぱり分からない。
でもなんだか感情をぶつけられているような・・・
「感じろよ」って言われてるような感覚に陥る。
いやいや何考えてんだ私!!
(流されてんじゃねぇバカヤロー!)
ダメだぞ有希!
イケメンどもはキスが上手いんだ!
そうだ!
騙されて堪るか!
(コノヤロー!!)
肩に寄せた手に力を込める。
そして突き飛ばそうと強く押し返した。
が---
「---んぅ・・っ!?」
背中に滑り込んだ手に強く引き寄せられる。
そして抱きしめられるまま立ち上がって--
ちょっと待てなにコレ。
足に力が入らない。
(ウ、ウソだろ・・・!)
自分じゃ立てないくらい力が抜け切ってる足
そんな私を軽々しく支える力強い腕
なんだか悔しくて
それにめちゃくちゃ恥ずかしくて
孝に触れられてる部分に熱が集まっていく。
(ちょちょ・・・マジで待ってちょうだいよ!)
あまりの恥ずかしさに頭がパニックを起こし始めた。
鼓動も全力疾走中。
もういい加減止めてちょーだーい!!!
「--こ----う・・っ!」
孝様頼むよマジで勘弁してくれ。
じゃないと・・・
息が出来ない!!!!
「ぁ・・・・ぅッ・・」
まずい、まずいぞ。
このままじゃお迎えが来る。
---接吻死
いやだぞそんなの。
そんなんで死んだらおばあちゃんにも顔見せできねぇ。
---あの世舐めてんのか?
そう言われて三途の川で門前払いだ。
(孝様・・・死んじゃう・・・)
貪るように唇を塞ぐ孝。
もうダメだ・・・
熱っぽさと酸欠で
落ち、そ--う---
---ポンポン
最後の足掻きだ・・・
孝の肩をたたく。
「・・・・ッ・・・は・・ぁっ!!」
やっと気付いてくれたか。
唇がゆっくり解放された。
(たた・・・助かったー!)
酸素を味わう余裕も無く咳き込んでしまう。
危なかった。
マジで・・・
マジで魂持ってかれるとこだった!
「はぁっ・・・・は・・・っ--お前・・・なぁ・・・・ッ!」
毎回毎回・・・
一体何を考えているんだ!
私を殺す気か!?
「くそ!いい加減離れろ!!」
孝「・・・・・。」
なんとか戻ってきた力を振り絞り胸を押し返す。
だが無駄な抵抗。
孝の腕はまだ離れない。