『有希さん、どうしたの?』
「てめぇ・・・」
『え?』
「てめぇ、ムカつくな。」
『えっ!?』
周りの音がゆっくり消えていく。
視界も同じ・・・
美味しそうに輝く料理もキラキラ光るグラスも消えて
目の前のこいつしか見えない。
「お前が孝を良く思ってねぇのは分かった。」
『有希・・・さん?』
「でもよ、お前は孝の何を知ってんだ?」
『え・・・?』
「話は全然聞いてなかったんだけどよ。あいつを最低だと言ったのは聞こえたぞ。」
『・・・・・・。』
「女遊びに関しては・・・・確かに最低なこともしてんのかもしれねぇな。私はそこんとこ良く知らねぇ。」
『・・・・・・。』
「だがあいつはてめぇみたいに影でこそこそ文句垂れるような女々しいヤツじゃねぇ。」
『・・・・・・・。』
「自分の為に女を利用するような男じゃねぇ!」
『・・・・・・。』
「どっちが最低だ。」
『え・・・』
「お前とあいつ、どっちが最低だ。」
『・・・・っ--』
(---!?)
孝「どうした?有希。」
「・・・ぇ?」
耳元で、孝の声がした。
(-----------はっ!!)
だんだん頭がクリアになっていく。
そういえば周りがざわざわしてる?
「あれ・・・・・え!ここ、孝君!?」
---ぎゅぅぅぅっ!
効果音つけるなら正にコレ。
「なっ何やってんのお前!!離れなさいっ!!!」
情けないが今頃気付いた。
後から抱きつかれてる!
「こ、孝!」
見られてるから!
めちゃめちゃ見られてるって!
恥ずかしいとかそんなレベルじゃねぇよ!
マジで勘弁してくれェ!
「離れろって!」
肩に回された腕をグイグイ引っ張る。
が、馬鹿にしたかのように動かない。
「お、おいっ!」
孝「工藤。」
『・・・・・・。』
そういえば・・・
「なんだ工藤、まだいたのか。」
『・・・・・。』
孝「少し黙ってろよ。」
「・・・あぁ?」
何が楽しいのか。
すぐそこにあるヤツの顔を見上げると心底愉快そうに口角を上げた。
孝「工藤、てめぇにこいつは扱えねぇよ。」
「お前なぁ・・・」
孝「こいつは誰にもやらねぇ。」
「そうだ。本番でもそう言え。」
あくまで今は恋人同士だろ。
もっとそれらしく振舞えよ。
ていうか・・・
「・・・いい加減離れろ!」
『な・・・なんなんだよ、お前ら。』
「あ?」
正に「訳分からん!」と言いたげな工藤。
ま、そりゃそうか。
その気持ちは良く分かる。
なんて言っても私達は
『偽装恋人』だからな。
「分からなくていいんだよ。この三流策士が。」
孝「行くぞ。」
「おぉ。じゃぁな、工藤。」
『------。』
絡み付いていた孝が離れ今度は手を掴まれた。
そして放心する工藤を置いてその場を後にする。
孝「もうすぐ終わりだ。時間まで外に出るか?」
「・・・できるならそうしたい。」
とりあえず会場から離れた方がいいよな。
頭を冷やしたい。