「・・・・・・・え。」
こっちを向いた孝は実に愉しそうな表情。
そして不適に口端を上げた。
「その悪そうな笑顔は何だ。」
孝「今日一日、俺の恋人になれ。」
「・・・・・・・は?」
孝「禁止事項はねぇ。ただ、お前はいずれ俺のモノになるんだ。予行練習だと思って今日は俺の女になれ。」
寝ぼけてんのかこいつは。
『いずれ』とか『予行練習』とか余計だってんだ。
素直に恋人のフリをしてくれって言えばいいものを。
(あ、なるほど。)
恥ずかしいんだな?
素直になれないってやつ?
まぁ、お前ってば俺様だもんな。
「余計な発言も含まれていたが仕方ねぇ。協力してやる。」
孝「・・・・・。」
「ただ、忠告しておくが・・・
私に惚れんなよ?」
不適な笑みに対抗してこちらもニヤリと笑い返す。
既に任せろと言ってしまったんだ。
ヤルと決めたらとことんヤッてやる。
孝「何言ってやがる。惚れるのはお前の方だ。」
言ってろバカめ。
伊達にてめぇより(少々)長く生きてねぇっての。
「まあいい。短い間だけど宜しくな、相棒!」
孝「相棒?」
これにて頼りない作戦会議は終了。
しばらくすると腰が抜けるくらいでっかいホテルに到着した。
玄関先に車を停めると、孝が助手席のドアまで来てエスコートしてくれる。
そして当たり前のように車が運ばれていく。
(す、すげ・・・マジであるんだこんな世界。)
テレビで見るセレブな世界は実在するようです。
正装した人たちがわらわらとホテル内に入っていく。
(グレード高ぇな・・・)
実は友人の遼からも時々"彼女のふり"でパーティーの同伴を頼まれる。
何を隠そう、あいつは結構有名なバンドボーカルなのだ。
パーティーにはそれなりのお偉いさんが来るためこういうのには慣れてるつもりだった。
けど---
(雰囲気が全然違う。)
遼の場合はアーティスト関係だから砕けた雰囲気満載だが、孝の場合はお医者様だ。
集まる人間の空気が違う。
(お兄さん、シックな色のドレス選んでくれて助かったよ。)
ニコニコ顔のお兄さんの顔を思い出す。
孝「考え事とは余裕だな。」
「え?」
孝「俺と歩いてるんだ。他の男のことなんか考えるな。」
妙なところは鋭いんだな。
なんで男だと分かるんだ。
「バカかてめぇは--」
孝「恋人になるんだろ?」
「頭の中までなれってか?」
孝「当然だろ。約束は守れ。」
「・・・・・・はいはい。」
(無茶なこと言うな。)
頭の中はどうであれ、現在我々は恋人同士。
孝の腕に手を回し会場に進んでいく。
時刻は既に5時。
パーティーの
いや。
勝負の始まりだ。