「それで・・・・理由を説明しろ。」
とりあえず話題を変えよう。
こんな雰囲気じゃ息が詰まる。
それにマジで説明を聞きたい。
孝「今から病院の集まりがある。」
「集まり?」
こんな格好でか?
「集まりって、何の。」
孝「院長が海外から帰ってくる。あっちで論文も認められたからそれの祝いも兼ねてる。」
「祝いって・・・パーティーってことか?」
孝「まぁ、そうだな。」
そうだなってお前・・・
「い、意味分かんねぇ。それでなんで私もおめかししてんだよ。」
孝「院長のヤツにいい加減ちゃんとしたパートナー連れて来いって言われてんだ。」
「ふーん・・・って、えぇっ!?」
孝「?」
「おまっ---それって私を連れてくのは間違ってるじゃねぇか!」
孝「いや。間違ってない。」
「お、おいおい・・・」
どうやったらこんな間違えすんだよ。
それに院長って奴は多分・・・
『婚約者』とか『真面目に付き合ってる奴』を連れて来いって意味で言ってるんじゃねぇ?
ドラマの見すぎかもしれねぇが・・・
絶対そうだ。
「お前、人選ミスしてるぞ。」
孝「してねぇよ。」
「・・・・。」
(はぁ・・・)
全く、何を考えてんだこいつは。
こういう時は普通彼女を連れて行くのが常識だろ。
あれ・・・
そういえば彼女いねぇって言ってたっけ。
それにしてもお医者様ってのは大変なんだなぁ。
仕事以外でも色々気を遣わなきゃならんのですね。
「パーティーって何時からだ。」
孝「5時。」
チラリと時計を見ると現在午後4時10分。
こいつのことだ。
協力してくれる美人さんならいっぱいいるんだろうが・・・
今から代役は立てられねぇだろうな。
とにかく時間がねぇ。
「・・・仕方ねぇ。今日は貸しだからな。」
孝「なんの貸しだ?」
「てめぇの相手を務めてやるって言ってるんだ。」
孝「将来俺の相手になるんだ。貸しではないだろ?」
「・・・・・・。」
何言ってんのこいつ。
もしかして前に言ってたことって継続中なわけ?
まさか本気だったってこと・・・
いや無い。
有り得ない。
それにお前、何気にプロポーズじみたこと口走ったが気をつけたほうがいいぞ。
絶対勘違いする女子が出てくる。
とにかく--
「ふざけるのはやめろ。」
孝「俺は常に真面目だ。」
「尚更悪いわ。とにかく・・・今日は偉い人とかも来るんだろ?」
孝「まぁ、来るんだろうな。」
「だろうなって・・・・」
孝「そういうのにはあんまり興味がない。」
「・・・そうなんすか。」
医学会って派閥争いだの激しい厳しいってイメージなんだけど。
孝のヤツ、こんな調子で着いていけてるのか?
なんかお姉さん心配になってきちゃいましたよ…
それにこいつってばとことん俺様だし、もしやそのせいで皆さんに相手にされない職場生活を送っているとか…?
(・・・・・・・。)
非常に、不憫だ。
(なんか・・・可哀相な奴・・・・・)
「よし、任せとけ孝。私がなんとかしてやる。」
孝「お前・・・とんでもなく失礼なこと考えてるだろうが。」
「なんとでも言え。」
出来る限りの範囲だが
仕方ねぇから協力してやろう。
なんだかんだ言って共に生活する家族みたいなもんだからな。
「で?私はどうすればいいんだ?」
そうと決まれば作戦会議だ。
ミスは許されん。
孝「別に。普通にしてろ。」
「普通でいいんですね。大人しくしていなくていいんですね。」
孝「普通で構わねぇよ。」
ダメだこいつは。
人間第一印象で判断されるんだよ。
どうすんだよ。
もし私が何も知らず・・・・
『なに!?あんたが院長か!孝が世話になってんなぁ!』
とかほざいたら・・・
てめぇ私を殴るだろうが。
私も恥は掻きたくはねぇ。
「禁止事項とかあんだろ。」
孝「禁止事項?そうだなぁ。」
前を見ながら考え込む。
(よーく考えろよ。)
私はもう・・・はらはらドキドキだ。
自分だけならともかく、孝の未来にも関わるパーティーかもしれない。
大げさな考えかもしれないが、堅い仕事ってのは一瞬のことで未来が決まることも少なくねぇ。
しかも医学会で孝くらいの若者っていったら超ひよっこで・・・
卵からやっと転げ落ちたくらいなんじゃねぇのか?
だったら尚更気を遣わねばなるまい。
しばらく考えこんでいた孝だったが何か閃いたのか。
赤信号で車が止まったのを見計らって
ゆっくりこっちを向いた。