『さぁ、出来ましたよ。』
「へ?」
おしゃべりと考え事をしていたらセットも化粧も済んだらしい。
ハッとして目の前の鏡を見る。
「おー。」
さすがプロ、凄いじゃないか。
立ち上がりでっかい鏡の前で自分の姿をまじまじと見る。
「すっげー。やっぱ私も女だもんな。こういうの好きだぁ。可愛くしてくれてサンキューっす。」
『いえいえ。』
今だけでいいんで久々の女子気分。
たまには舞い上がらせてくださいよ。
『アクセサリーはこれで・・・うん。とっても似合ってます。』
「あ、ども。」
シンプルだけど輝いてるネックレスとピアス
ついでにパーティーバッグも渡される。
気分はシンデレラってか?
純君が見たら
---本当に姫になっちゃったの!?
なんて突っ込みそうだな。
へへっ、写メ撮っとこう。
「携帯はーっと・・・」
こんな格好するのニ度と無いかもしれねぇし。
たまには住人どもに私も女ですってことを教えてやらねば。
最近どうも完全な男だと思われてる節もあるからな。
「あ。」
携帯持ってきてねぇ。
『そろそろ行きましょうか。五十嵐様が待ちくたびれて----』
「おい、まだか?」
---ガチャリ
お兄さんの言葉を遮るように
なんの前置きもなくドアが開いた。
犯人はもちろん
「ったくお前なぁ・・・さっき言ったばかりだろ?部屋に入るときはノックしろ。マジで学習しねぇ奴だな。」
孝「・・・・・・・。」
押し黙る俺様。
その調子だ。
ノックの大切さをもう一度じっくり考え直せ。
「そういえば孝も着替えたんだな。お前も似合ってるぞ。ま、私には負けるけど。」
孝「・・・・・・。」
モノトーンのタキシードに身を包む孝。
映画にでも出てきそうっていうか・・・
やっぱこいつ、なんでも似合うんだな。
身長高いしスタイルいいし。
性格に問題ありってのが非常に痛い。
孝「・・・・・・・・。」
「孝?」
ていうか・・・
なんで黙りっぱなしなわけ?
「お、おいどうしたんだよ。どっか痛むのか?」
じっとこっちを見たまま動かない孝。
一体どうしたってんだ。
ちょっと、いやかなり---怖いぞ。
(あ、まさか・・・)
「なんだ孝様。もしかして見惚れちゃってんのか?」
孝「-------------。」
なるほどそいうこと。
それならまぁ・・・
納得。
「そりゃぁ仕方ねぇ。お兄さんの協力でいつもの5倍は可愛くなっちゃったからなぁ。な?お前もそう思うだろ?」
孝「・・・馬子にも衣装だな。」
「・・・取り消せ。」
やっと出た言葉がそれかよ。
分かってたけどなんて失礼なヤツだ。
『ふふっ。やっぱり特別みたいですね。』
「はぁ?どの辺がですか?」
『見とれてらしたんでしょう?五十嵐様』
「あ、やっぱり?」
孝「時間がない。行くぞ。」
うわ、激しくスルーしやがった。
今のは苦しいぞお前。
「で、どこに行くんだよ。」
孝「車の中で話す。」
「おまっ・・・さっきは用意が済んだらって・・・・・!」
まだ振り回すつもりか!?
いい加減にしてくれよ。
ていうかこの格好で外には出られないって。
孝「次は絶対だ。」
「・・・・・・・・・絶対だな?約束しろよ?」
孝「あぁ。ほら、行くぞ。」
(・・・・・・・・え。)
それはそれは自然に
手を差し出された。
(い、いやいや・・・・・)
まっすぐ向けられる視線。
なんだこれ。
すっげー緊張するんだけど。
(エスコートなんて・・・似合わねぇこと・・・しやがって。)
こいつのこういう部分って無意識なんだろうか。
だとしたら脅威だ。
気をつけよう。
「ど、ども。」
とりあえず、有り難く失礼しますよ。
正直いって助かります。
高さのあるヒールで歩くのは自信がなかったからな。
手を引かれて出口へ向かう。
お兄さんを見るとさっきよりもニッコリしているような気がした。
「お兄さんありがとね。」
『またいらして下さい。』
終始笑顔だったお兄さん。
多分、またはないと思います。
「あ、ありがと。」
車に着くとドアまで開けてくれた。
うわぁ、らしくねぇことしやがって--
なんて失礼なことを考えてしまう。
(調子狂う・・・)
こんな風にされたら減らず口なんて出せねぇよな。
何度も言うが私も一応女の子なんで。
「そうだ、孝。ドレスっていくらだったんだよ。なんのつもりか知らねぇが着てきちゃったもんは仕方ねぇ。これは自分で買うから。」
孝「・・・お前はやっぱりバカだな。」
「・・・てめぇには言われたくねぇよ。」
孝「買ってやりたいから買ったんだ。黙って受け取っとけ。」
「へ・・・」
買って・・・やりたい?
私にか?
なんで?
孝「それと・・・・・」
「ん?」
孝「綺麗だ。」
え。
・・・・・え?
ど、どしたの孝君!!
(-----?----------!?)
か、軽くパニックに陥りそうなんですけど。
奴の頭の中では何が起こってるんだ?
メンテナンス中か?
(きき、綺麗だなんて・・・)
そ、そんな真面目に言う奴があるか!
めっちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇかよ!
「あ、ありがとう。」
とりあえず、お礼は言っておこう。
(・・・・・マ、マジで調子狂うなぁ。)
ま、まさか・・・
日ごろの恨みとかでドッキリの仕掛けだったらどうしよう。
恥ずかしすぎるんでそれだけは勘弁してもらいたい。