孝「着いた。起きろ。」
「うー・・・眠い・・・」
孝「キスして起こしてやろうか。」
「・・・自分で起きやす。」
本気でやるから性質が悪いのだこいつは。
被害を受ける前に体を奮い立たせ車からおりる。
「・・・・・なんだここは。」
服屋?
え、美容室か?
(・・・・・なんで?)
目の前にはどどーん!と効果音が聞こえてきそうなオシャレな建物。
私には一生ご縁がなさそうだ。
美容室兼衣類も扱っているんだろう。
ガラス張りの一階は外からも中の様子が伺える。
孝「来い。」
「は?ここで合ってるのか?」
孝「合ってる。」
「間違ってんじゃねぇの?絶対間違えてるって!!」
孝「いいから早くしろ。」
いやいや絶対間違ってる!
なぜなら外から見えるのはどう見てもドレス。
まさかとは思うが着させるつもりじゃねぇだろうな・・・
こんなの着て外は歩けねぇよ。
「おいコラてめぇ!放さねーか!!」
渋る私を見かねたのか、孝に腕を掴まれ引きずられる。
やはり力じゃ適わない。
『お待ちしておりました、五十嵐様。』
「へ?」
店に引きずり込まれると品のあるニコニコ顔のお兄さんに出迎えられた。
そ、そういえば孝って五十嵐君だったよな。
てことは・・・ここで合ってるわけ?
孝「こいつに合わせて見立ててくれ。」
『畏まりました。』
「こ、こら待て!なんだそれは!話が見えねぇから!」
説明をしなさい説明を。
孝「用意が済んだら説明してやる。さっさと行って来い。」
「なんだと!?てめぇそんな口叩いてただで済むと・・・ちょっ・・・お兄さん待って下さいって!」
ニコニコ兄さんはクスクス笑いながら私の肩を押していく。
「おーい。待ってちょうだいよ。」
『大丈夫です。とびきり綺麗にして差し上げます。』
「いやぁ、そういう意味じゃなくて。」
孝「おい。そいつにベタベタ触るなよ。」
『心得ました。』
「お前ら人の話を聞け!!」
軽く2人からスルーされた上、なんの説明もなく奥の部屋に連れてこられた。
(・・・なんじゃこりゃ。)
部屋に入った瞬間足が止まる。
美容室のようなカットチェアー
メルヘンから飛び出たようなでっかい鏡
そしてずらりと並ぶドレス群
マジでリアルに意味が分かりません。
「・・・何やってんすか?」
ボケっと突っ立っているとフワッとした感触。
犯人はもちろんお兄さん。
ドレスを数着持ち、それらを順番に私に重ねている。
(え・・・・・ま、まさかねぇ。)
『うん、やっぱりこれがいい。』
「・・・は?」
『色が白いから何でも合うとは思いましたが。今日はこれにしましょう。』
「へ。」
はい、と一着のドレスを渡される。
ブラックとグレーベースのふんわりしたベアドレス。
可愛いっすねぇなんて相槌も打てない。
「あ、あのぉ・・・」
『あちらで着替えてきてくださいね。』
「いや、だから--」
『ほら、早くしないと五十嵐様が入ってきてしまいます。』
「・・・・・。」
奴ならやりかねない。
ゾクッと悪寒を感じ、仕方なくドレスを掴んで試着室へ入る。
(なんなんだこの状況・・・)
どうやら孝はドレスアップさせたいらしい。
私を人形にでもするつもりか?
それとも俺様の新たなお遊びか?
どっちでもいいが私で試すのはやめてもらいたい。
「ん?おぉ・・・私ってば結構いかすじゃん。」
とりあえずドレスを着ると・・・
鏡の中に、女子が映ってた。
こんな服着たのどれくらいぶりだろう。
こんな口の悪い男のような私ですが女の子らしい服はやはり好きだったりします。
「お兄さん見てみて。なかなか可愛くねぇ?」
試着室から出るとすぐそこでお兄さんが待ってた。
女子な自分に浮かれて思わず自慢。
ついでにクルクルやってみる。
『とっても綺麗ですよ。』
「サンキュー。お世辞でも嬉しいっすよ。」
『お世辞なんかじゃありませんよ。さ、こちらへどうぞ。』
お兄さんはニコニコ顔で鏡の前のイスに座るよう促す。
『そちらに履き替えてくださいね。』
「え?あぁ・・・」
ヒールの高いシルバーのハイヒール。
確かにこの格好にはこういうのじゃないと不釣合いだよな。
でもこんな高いヤツでまともに歩けんのかね。
(いやいや違うだろ。)
なにかが・・・
いや、全てがおかしい。
可愛いドレスに着替えたからって調子に乗ってんじゃねぇよ私。
ドレス着てもヒール履いても中味は私なんですからね。
大体なんでこんなことになってるんだ?
あいつは何がしたいわけ?
『五十嵐様の恋人さんですか?』
「・・・・え?」
手馴れた手つきで髪のセットや化粧までしてくれているニコニコお兄さん。
ふと、鏡越しに目が合うとぶっ飛んだ質問を投げてきた。
「い、いえ。違いますけど。」
『そうなんですか?』
「はぁ・・・」
『五十嵐様がとても優しそうな顔をされていたので。てっきり恋人なのかと思いました。』
や、優しい・・・・ですか?
「孝が?あの顔で?」
『それに五十嵐様のお名前を呼ばれる女性に会ったのも初めてです。』
「そ、そうなんすか。」
名前に関しては良く分からない。
あいつ、自分のこと何て呼ばせてるんだ。
やはり「俺様」か?
『あなたは特別な女性なんですね。』
「そんなんじゃないっすよ。ムカつくけど暇潰しのオモチャと思われてるみたいで。ふざけるのは顔だけにして欲しいっすよね?」
『---あははっ!これはこれは・・・五十嵐様も苦労しているらしい。』
「は?」
何言っちゃってんのお兄さん。
さっきの見れば分かるだろ。
苦労してんのは私の方っすよ。